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二人の桃太郎  作者: 森林
6/10

鬼と人

拙い文章ですがよろしくお願いします。

 桃太郎御一行は幾多の山や谷を越え旅を続けていたが、鬼の住処はもちろん鬼の一匹すら見つけていなかった。


「もう山を出て結構な日が経ちますけど、鬼が村を襲ったという話も鬼が山の中を歩いていたという話すら聞かないですね」


 イヌはやつれた顔で、ため息混じりにそう言った。


「前も言った通り鬼はその数を減らしていると言われています。その影響で襲われた村が少なくなっているのでしょう。それかここら辺は鬼の活動範囲外なのかも知れません」


「もしかしたら鬼が人を襲うのを自粛してるかも知れませんわ」


「んなことあるのかね」


 桃太郎たちは行き着く村々で鬼について訊ねて回っていたが、どに村の人も口を揃えてこう言っていた。


『数年前から鬼を見なくなった』


 と。




 桃太郎たちは途方に暮れてしまった。

 鬼の情報もなく鬼の被害もない。つまり平和だったのだ。

 桃太郎の復讐には人間にとっての悪である鬼倒すことで人々を救うという大義名分があったのだが、鬼が人々を困らせていないのならばその大義名分は使えない。桃太郎の鬼退治はただの自己満足になってしまう。

 桃太郎は考える。このままでいいのかと。

 もちろん鬼に復讐したい気持ちは変わらない。むしろ旅をして鬼に近づいていると気分が高鳴り、復讐の炎はさらに燃え上がっていた。

 しかし桃太郎の良心はそれを良しとしない。己が欲のために殺生をするのだ。それでは鬼と何ら一つ変わらないのではないか? その二つの理性と本能は波一つ無かった桃太郎の心に波紋を広げていく。


「どうするんだ、桃太郎。今のお前はとても中途半端だ。そんなんじゃ鬼は倒せない。そもそも俺たちはお前の鬼の力を利用するためにいろいろ教えてやったんだ。鬼の力は本能でしかその力を発揮しないんだ」


「サル、それはあまりに酷いのではないのですか? 鬼を倒すために鬼になれと言うんですか」


「そうだろう、鬼を倒せるのは鬼だけだ。なら桃太郎は鬼になるべきだ。キジが渡した刀はつまりそういうことだろう」


いきなりサルに話を振られたキジはバツが悪そうだった。


「……えぇ、そうね。間違いないわ」


「!? キジまで何を言っているのですか! 桃太郎は鬼の血を持ち、人の血を持つからこそ鬼を倒せるのです。鬼の醜さを自らで自覚し、それを人の清い心で否定できる桃太郎だからこそっ!……鬼の力を使わざる得ないのは分かります。でもあなた達は心まで鬼になれと言っています」


「……気づいてはいたんだ」


 三匹の口論に割って入ったのは口論の元になっていた桃太郎。

 桃太郎にはいつもの覇気はなく、か弱く俯いていた。


「桃太郎……?」


「お婆ちゃんの悲しい顔を見た時から、これは僕のわがままだって分かっていた。だけど僕は目を逸らし、お婆ちゃんは僕のわがまま許してくれた。僕はそれに甘えた」


 イヌだって桃太郎の鬼退治がただの自己満足に過ぎないのは分かっていた。しかしイヌはそれを指摘したことはなかった。


「だけど、僕はそれが悪いことだとは思いません。桃太郎、あなたの悩みは人ならば誰でも抱える悩みです。つまりあなたはとても人間らしいです。……悩むなとは言いません。ただ人はその悩みを抱えて進む強さを持っているはずです。進みましょう桃太郎。答えは進む先にあります」


 イヌの力強い言葉に桃太郎は俯いていた顔を上げる。その目には少しの驚きと不安が混じり合っていた。


「……それは正しいことなのかな?」


その言葉にイヌは自分の頭に熱が溜まっていくのを感じた。


「それはどの物差しでの『正しい』ですか。サルのですか? 私のですか? それともこの世の中ですか? あなたは人間の心という答えも模範もない空想に囚われているだけです。いつだって自分の中には自分しかいないのです。鬼とか人とかそんなのは関係ありません。桃太郎は自分の都合の良いように鬼や人といった単語を使ってるだけです。正しい、正しくないではなく桃太郎は桃太郎らしく・・・いて下さい」

 

「「「……」」」


 イヌのあまりに力の入った熱弁に他のみんなは思わず聞き入っているようだった。


「俺たちも鬼になれとか言い方が悪かったな。言いたいのは大体イヌと一緒だ。お前は鬼の血が混じった人間だ。ただ鬼の血も確かにお前の一部で、何事にも変えることができない事実なんだ。お前は認めなきゃなんねぇ、これからの答えは全部鬼の血が導いた答えでも人間の血が導いた答えでもない、桃太郎自身が出した答えだってな」


「今すぐに答えを出せとは言わない。今すぐ山に帰ったって良いわ。だけど一度でも悩んだことには決着を着けなければいけないわ。男の子なら尚更ね」


 桃太郎は元々考えるタイプではなく、直感や感情で動くタイプだ。桃太郎は三匹の言ったこと全部は理解してはいないかも知れない。でも三匹の声から流れてくる感情はヒシヒシと伝わっていた。


桃太郎はしばらくの長考ののち、すっかり固まってしまった口をほぐすように口を開く。


「みんなありがとう。……まだ頭の整理はつかないけど僕は前に進みたい。鬼退治は僕にとって大事なことだから」


 その言葉を聞き、三匹の顔にも安堵が浮かぶ。


「それだけ分かってりゃ十分だ」


「桃太郎もまだまだ子供ですわね」


 桃太郎は自分の異常さと向き合い、そして出た結論は前に進むこと。

 桃太郎は悩みを抱え、それでも前に進むと決めた。それは先延ばしでは決してなく、そういうモノなのだと思う。




 紆余曲折あったが桃太郎御一行は旅を再開した。

 

 そして桃太郎はある人物と出会う。



お読みくださりありがとうございました。

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