はじまりの日2
拙い文章ですがよろしくお願いいたします。
「それじゃあ………行くかのぉ」
恐怖で押しつぶされそうな心を見せないように、極めて気丈にいつも通りの声色を出した。
「そうですねぇ、そうしましょうか」
お婆さんはいつもと変わらない声色でそう言った。
まったくお婆さんには敵わない、お爺さんはそう思うとつい笑みがこぼれた。
いつだってそうだった。いつも引っ張るのは自分。でもお婆さんはいつも背中を押してくれた、自分が道を踏み外さぬよういつだって見守ってくれていた。
お爺さんは笑うのと同時に自分自身の不甲斐なさに呆れていた。
「なにを笑っておるのですか?」
「いいやなに、お主は実に良き女だと思ってな」
「そんなことはありません、お爺さんがいたから私はここまで絶望することはありませんでした」
そう言うお婆さんの瞳は宝石を見ているかのように輝いていた。
「私が子供を産めないと分かった時、励ましてくれたのは貴方でしょう。あの時は本当に落ち込みましたよ………でも貴方が居たからここまで来れた。二人の赤ちゃんもこうして目の前に現れてくれたから」
炎に飲まれ地獄のように変わってしまった村でお婆さんは何ひとつ変わらずにいた。いや、今までよりも逞しく見えた。
『子を持った女ほど強い者もいない』とお爺さんは思った。それと同時にこの二人の赤ん坊を幸せに出来るのはお婆さんしかいないと思った。
「…………じゃあ、儂は北へ行く。お婆さんは南へ行くのじゃ」
「はい、お爺さん。それじゃ………」
『またあとで』
お婆さんはあとに続く言葉が喉の奥につっかえて出てこなかった。
でもそれは不要な言葉だろう。また会えると信じよう。お婆さんはそう思い、言い直すことはしなかった。
お読み下さりありがとうございました。