ポケッとしてて(ショートショート31)
――あっ、ない。
財布がいつのまにかなくなっていた。どこかで落としてしまったらしい。
「ご主人様、財布をなくしてしまいました」
オレはあわてて報告をした。
「なんだと! オマエ、どうせまたポケッとしてたんだろ、ポケッとな」
ご主人様のカミナリが落ちた。
「すみません」
「落としたことにも気づかないとはな。どうしてくれるんだ、このマヌケ野郎が!」
ご主人様の怒りがおさまらない。
たしかにオレが悪い。ポケッとしていたのは事実なのだから。
――けどな。
そこまでののしることはないだろう。
だって……。
――だって、しょうがないだろ。
オレは心で叫んでいた。
なんたって。
オレはポケットなんだからな。