真夏の幻
炎天下のはしっこで
君は僕を見ていてくれたよね
真っ白なワンピース
麦わら帽子には真っ白なリボン
ひまわりのような笑顔をこっちに向けて
暑さを忘れさせてくれたから
その分だけ君のことを覚えてる
次に顔を合わせたのは
潮が香る海辺だったね
遠くには青い水平線
見渡す限りの青空
ブルーハワイのかき氷
君はアクアマリンの水着を着てはしゃいでた
それは青い青い一ページ
* * *
風鈴の音色に誘われたのか、気付けばそんな詩がルーズリーフに書かれていた。
――ポエムかよ……。
俺は読み返して恥ずかしくなり、くしゃりとそれを丸めた。今はそんな文章を書いている場合ではない。
「なにやってるの?」
背後から声が掛かる。
俺は慌てて丸めたルーズリーフを探した。明るいトーンのこの声の持ち主が天敵だったからだ。
――って。
ルーズリーフはすぐに見つかったが、それは彼女――七瀬弥生の手の中だった。
「へぇ。大ちゃんってポエムも書くの?」
「ポエムじゃねぇよ」
「夏休みの宿題?」
彼女は机の上を覗き込んで問う。
「図書館では静かにしろ」
シッシッと追い払う仕草をすると、弥生は広げたルーズリーフを壁に押さえつけ、スマートフォンでぱしゃりとシャッターをきった。
「これ、拡散されたくなかったら、私に付き合ってよ」
脅迫。
なんとなく、そうくると思ってた。
「別に、拡散されても構わねーし。ついでだから、それ、現国の課題にするわ」
「最近付き合いわるーいっ!!」
「お前なぁ……」
俺はしぶしぶ立ち上がって、弥生と向き合う。
「お前にリクエストされて風鈴の音を着信音にするくらいの付き合いはしてやってんだ。今はそれ以上を望んでくれるな。留年したらどうしてくれるんだ?」
「じゃあ、風鈴の音色をやめたら、付き合ってくれるの?」
「さぁな。ってか、今月は風鈴って約束だろうが。それまでは邪魔してくれるな」
「ふぅん。仕方ないなぁ。じゃあ、そういうことで」
つまらなそうに弥生は膨れるとおとなしく立ち去った。
――誰が付き合い悪いんだよ。お前に合わせて高校選んだってえのにさ……。
不満な気持ちを彼女の長いポニーテールに向ける。
「あ」
くしゃくしゃのルーズリーフを返してもらいそびれていることに気付いたが、そのままにすることにした。たぶん彼女は、そのポエムの裏に自分宛てのラブレターが書き損じてあるなどとは思わないだろうから。
《了》