第八話『トイレ』
「きゃっっほぉぉおぉーーーーーーーーーい!!!!!!!!!!!!!」
「……………」
皆が口を開けて驚いたような表情で、叫んでいる人を見つめる。
「先生が一番はしゃいでどうするの……」
「あら、青梅さん!何かいけなかったかしら?」
「自覚なし!!!??」
こんなにも滅茶苦茶なクラスを放置して、自分がだれよりも満喫している先生など、和にとっては普通ありえない話なのだ。
「だって、タダで月影園を楽しめるんですよ?楽しまないのは損じゃないですか」
―――先生がもっとまともならそもそもこんなにひどい状況にはならなかっただろうに…
そして生徒たちは、そんな先生を思いっきり冷たい視線で見ている…。
「何はしゃいじゃってるんだろうね…あの勢いだと何か壊しちゃうんじゃない?」
「水玉は人のこと言えないよね!!?」
「うわーせんせー小学生レベルーー」
「何言ってるんですか!!先生は高校生レベルですよー!!!」
「問題そこ!!?ていうかどちらにしろ駄目でしょ…」
「あ、高校生といえば昨日から月舘さん見てませんよね…」
「確かに月影園着いてから出てきてないよなー」
「出るって何…」
その会話を聞いて一部の生徒は周囲を見渡し、顔を合わせて白夜を見ていないことを確かめ合っているようだ。
「昨日鍵でくじ引きやったときに確かに一個余ってたんだよねー!水玉がその部屋使っちゃったけど白夜がいなかったんだー」
「その時に気付け!!」
―――いったいどうしたのだろうか…。
「確か…白夜は月影園に着いた途端にトイレに行ったのは覚えてるけどそっから見てないな…」
「トイレに行った…ならばまだトイレから出てきていない、ということでは…?」
「うん…白夜ってね……、昔っからね………」
「怖い怖い……」
トイレで何かマズいことをやっているのではないか。そんな不安が和の頭を過る
「白夜は………………
トイレのビデが大好きなんだよ…!!」
―――え…、えぇぇぇぇえぇえぇぇ!!!!!!!????? ビデを楽しんでいるーーー!!?
「でも昨日入園してから見てないってことは、閉園時間になっても出てこなかったってことですか…!?」
だとすればよく見付からなかったな、という話だが…
「…その可能性が高いよ。あの人二日間トイレに居続けたこともあるから……」
―――うわぁまじで変人。あの人寝る以外にそんな趣味あったんだ…
趣味かは怪しいが…。
「じゃあ今からトイレの様子を見に…」
「水玉気付いてるか!?聞き方次第ですごい変態発言だからな!!?」
「…じょーだんじょーだん」
恐らく放っておいても今日中には出てくるだろうけど…。
「さっきお茶飲みすぎた…トイレ行ってくるわ」
「今言うか!!?」
「ちょ…ちょっと待った…トイレ怖くないの…?」
菊野の青ざめた表情…これは怪談系の話を聞いたりした時のものだ。
「あ、きくのんまだあれ気にしてるの…?」
「だって…だって…怖いじゃん!!!あれ以来トイレ行けなくて行きたくなったら家帰るか漏らすかなんだよ!!?」
「どっちも駄目だよ!!トイレくらい行けよ!!!?」
「ま、いいや。私トイレ行ってくるよ」
「ツッキーすごいなぁ…」
「それで…菊野、トイレに行くのが怖くなるほどの出来事って何よ…?」
「もう一年前くらいになるんだけど…」
「そんなに前から学校のトイレ使ってなかったの!!?」
*****
「あたしトイレ行ってくる!」
「そう言われるとあたしも行きたくなってきた」
すると、他の女子が寄ってきて少し深刻そうな顔をしてこう言った。
「霜月さん知らないのかな…」
「なになに~?」
「最近この学校の女子トイレはとにかく怪談…」
「ギャアアアァァァァァァ!!!」
「…菊野は本当に怖がりだな…怪談って聞くだけで驚きすぎだよ…たまに階段でも反応するけど」
「まぁ見てきなきくのん!そうすれば分かるからさ!!」
「ひど~い…グスッ」
―――でもトイレに行きたいのは事実だし、行くしかないか…
不機嫌ではあるが、菊野は諦めてトイレに向かうことにした。
トイレに入るなり、菊野は目と口を大きく開いたと思うと、
「ギャアアアァァァァァァアァアァァ!!!」
という長い叫び声になった。
それを聞いて菊野が入ってきたことに気づいた霜月は、
「あ、菊野ちゃん!トイレどこも開いてな ?」
『誰もいないよー、開けてー!』
「うぎゃぁぁぁあぁああぁぁ!!ー」
「………」
突然、どこからか悍ましい声が聞こえて、驚いて霜月の口からは悲鳴が溢れだし、菊野は恐怖のあまり声も出せずに震え出す。
見上げると、トイレの仕切りの上に前髪で両目が隠れた少女が立っていた。
―――あれは…うちのクラスの…佐敷 花子 (はなこ)だ…!!
「花子…ちゃん……ハッ、そういうことか…!!最近よく聞く“アレ”の意味が分かった…!」
菊野が気絶してしまう前に、霜月は思い出した。
「…………ひへ?…」
菊野はもう掠れた声を絞り出すので精一杯だ。
「あれが…
“トイレの花子さん”………!!」
小五のころ聞くようになったその言葉。見上げると本物はすぐ目の前にいる。
体の震えを必死に抑えて冷静に考えた。
―――トイレの花子さん…
そのまんまだ―――!!!
*****
「っていうことがあってな…」
「要するに花子のせい、と…」
「ていうかその話すっごいどうでもいいね☆」
「えー!!?」
「…ていうか菊野…その…後ろにいるよ…??」
「…………!!?」
振り返りかけて菊野は気絶した。
真後ろには背後霊のように、花子が立っていたのだ。
「花子…いつからいたの?」
花子はすぐにホワイトボードを取りだし、すごい速さで文字を書く。
[きくのんが諦めてトイレに向かうあたりだよww]
と書いてあった。あの速さで書いて、普通に読めてしまうあたりは才能なのか努力の結晶なのか。
花子は謎が多い。よく、いつの間にか背後霊的な感じで立っている。気付くと後ろにいるのでびっくりするが、大概の人は慣れてしまった。
しかし、菊野ら怖がりはいつまでも絶叫する。花子はそれを楽しんでいるようにも見える。
実際表情はほぼ変えず、目も隠れていて声も出さない。そのため会話をする場合は筆談だ。また、たまに本当に透けていることもあるという噂もある。
[あ、霜月すんと白夜連れてきたよー]
霜月は放心状態で、白夜は寝ていた。
「白夜は案の定寝てたのね…ていうか花子さん…?まさか男子トイレに…」
[それはちょっとね…さあどうなんでしょうwww]
花子がどのように白夜を連れてきたかは謎のままであった…。