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Chime ―チャイム―   作者: 夏影
第一章 キッカケ
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第五話『修学旅行』

「よし、修学旅行行こう」


「どういったらそうなるの!!!?」

 そんなことを授業中唐突に言ってきたのは……やはり日向である。


「ていうか行ったでしょ修学旅行…」

 確か六月に行ったはずだ。AからHのクラスとは違うところだったが…。


「だって俺様たち沖ノ鳥島だっただろー、修学旅行じゃないじゃんかー」

「確かに!さっすが日向!!AからHは月影園だし差がありすぎだよな!」


―――まあそうだけども…。

 言う通り、Z組が行ったところというのは、沖ノ鳥島である。誰が使うのか分からない未完成の道路と、コンクリートで出来たよく分からない物体があちらこちらにある、それだけだった。つまり…よく分からないところ。


 それに対してZ組以外の二年生クラスは、国内最大のテーマパーク・月影園へ行っていた。修学旅行にしては珍しい、三泊四日で豪華ホテルというとても都合の良いものだった。

 それだけ大きな差はあったがちゃんmと修学旅行には行ったのだ。

なのに残りの学校行事にはもう無いはずのことを、勝手にしていいだろうか?…いや普通の中学生ならしないだろう。そもそも先生達がめるはず…


「私も行きたいです!!!」


 恐る恐る振り返る和。そう元気に手を挙げたのは…四月一日先生だ。


「先生…」

「だって楽しいじゃない修学旅行♪」

 そんな理由でいいんだろうか…。

 しかし四月一日先生が許可しても、校長先生とかの許可やホテルなどの予約は無いのだ。行けないはず。行けずに終わってくれ。

「わぁ…修学旅行っていうの楽しそうだなぁ…」

「俺も行きたーいテニスするぞー!」

 皆が盛り上がって来てしまった…。もうこの話は流せないだろう。

 凄く五月蝿い。その騒ぎで爆睡していた白夜が目を覚ましたのは。


「…ん~修学旅行行くの~?」

「ああ!行くぞ!!えーと…」


―――本当に行く気満々だな


「…でもさ~…修学旅行どこに行くの~?」


 その質問で、一気に静まり返る。教室に響くのは学校の電子音…というより水玉の謎のメカの音なのか。

 そして和も疑問に思っている。どこへ行くつもりなのか。

 場所によっては誤魔化せるかもしれない。

 しかし、誰も口を開かない、というか口を固く閉じすぎて可笑しくなっている。

「まさか…全員考えて無かったとか」

「うん」

「おい!?」

 あまりにも即答すぎた。『無かった』の『無』って言ってる辺りから被せて答えられてしまった。

―――行き先が無いなら行けないでしょ…。


 すると一人の男子が勢いよく手を挙げ、

「はい!テニスの聖地、清都府!!」

東風(こち)…それは来年行くんじゃないですか…」

「あ…」


 今ので和はこの学校には二度も修学旅行があることを思い出した。

 一度目はニ年の六月、二度目は三年の五~十一月で毎年何月に行くかが違う。来年行くのは決まって清都(きよと)…と言いたいところだが月影園と思っていて沖ノ鳥島という前例があるので行けるとは限らない。Z組にいる間は。


 そう思っていると水玉が通信機らしい小さいモノを取り出して、


「じゃあ水玉が豪華1人1部屋の30泊の月影ホテルを予約するね!」

「「さんせーい!!」


―――え!?学校は!!!??

 いつも授業受けてないから学力は変わらないんだろうけど、いやいつも受けてないこと自体駄目なんだけど。

 他にも色々つっこみたい和だが、水玉はもう予約してしまった!

 水玉のこういうところは本当に光の早さだ。いや、例えどころではなくて。

「じゃあ、今からでっぱーつ!!!」

「今から!!?」


*****


「というわけでとーうちゃーく!!!!!」

「早っ!!!!」

 4百キロメートル以上も離れた月影園に学校を出てからわずか23分37秒。もう月影園内にいる。

 校舎を出ると巨大なジェット機のようなものがあり、水玉に勢いよく、その漆黒の機体に押し込まれ、すぐ地面を離れたのだ。

 誰も荷物を持ってくる作業などしていないし、家族にも学校にも報告していない。一体31日間もどうするつもりなのか。

 月影園に着いてからも園内に入るまではあっという間だった。猛スピードの自転車に乗って入場口前へ向かい、お金をばらまきながら前に並んでいるお客さんを抜かすのだ。お客さんも受け取った十五万円を片手にそれを茫然と眺めているしか無かった。

 和は、ついてくるしかなかった。水玉が相手ではめることなど不可能だ。和にはもう水玉が支配者にしか見えなくなっていた。

「でも俺泊まるとき必ずゲーム持ってくるんだけどゲームも何も持ってきてないぞ!どーしてくれる!!」

「そうだよ着替えとかも持ってきてないよ!」

「でも俺泊まるとき

 女子の言うことは正論だったとして、男子が凄くどうでもいいことで怒っている。が、水玉はそんな怒りにも対応出来ていた。

「大丈夫だって♪全クリゲームソフト1人100本のセットと色んな種類のゲーム機も全部持ってきたから!!」

 水玉だけは家の人に頼んで教室になんとか収まりきるくらいの荷物を持ってきていた。ゲーム機はその一部でしかないが、水玉が全クリしたもののみである。そして荷物のほとんどは和が見れば必要ない物だ。

「旅行なのにゲーム機!!?ていうか修学旅行じゃなくてもうただの旅行だよね!!!?」

「他にも全部分のシルクのパジャマとか高級マットレスなどなど!あとはシルクが苦手な人にはちょっと安いけど綿のものをどーぞ☆」

 水玉は10円のうまうま棒から50000000円のブランドのバッグまで、さまざまなものを安いという。何が高くて何が安いのか一般人にはさっぱりだ。そもそも水玉が高いというものがあるのだろうか。

 それから、水玉が予約したのは高級ホテル。なはずだ。

「それくらいホテルにあるだろうに…」

 当然それは疑問に思う。月影邸に寝巻きやタオルや布団など無いはずがない。

 しかし、和がそう聞くなり

「あんなの貧乏人が使うものだよ~」

 と即答。皆の心にぐさぁ、と突き刺さる一言だった。いつもそれを使っていた皆は貧乏人と言われてショックだったのだろう。

 そんなことを知らずに、

「んー?皆どうしたんだろ~?」

 と不思議に思う水玉。彼女の旅行はいつもこうなのだ

「まあいっか♪とりあえず月影園を満喫しよう!!そのためには…」

 これはマズい。水玉が何かやりだすようだ。

「一時間くらい貸し切りを頼んでくるね~!!」

「よろしく~」

「え、『よろしく~』じゃないよ!!!!?」

 とはいえ、来る前から疲れかけていた和はもうほぼ諦めていた。

―――もうこれはめられない。一時間とはいえこれは大惨事だ…。

 そんな感じで冷や汗をかいている和はもう目に入っていない水玉は、一時間なんて普通でしょ♪というように、いつも通りニッコニコだった。


*****


 歴史に残りそうなトンでもないアナウンスが入った。


「本日は刻邑ときおう月影園に御越しいただき誠に有り難うございます。」

 ここまでは普通。いつも通りだったのだ。

「これから貸し切りをするため、一同退場願います。また、退場する際には五万円をお受け取り下さい。」

「はああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?」

 前代未聞のこのアナウンス、日本一の財力を誇る佐倉財閥の一人娘、佐倉水玉の仕業。1人五万円を配ったとどのくらいのか額になるのだろう。月影園の1日の来場者数。こちらも日本一なのだ。その人数全員にすぐ五万円を配れるのは恐らく水玉だけだ。

 その色々つっこみたい丁寧な放送とお客さん達の叫びを、和はただぽかんと口を開いい一番近くのスピーカーを見上げて聞いているしか無かった。修学旅行ということを覚えているのはもう彼女1人である。

「これでよし☆これからZ組で楽しむぞぉ!!」

「おー!!!」


 こうして一時間四十二分間の和が全く楽しめそうにない刻邑月影園の貸し切りが始まった。

修学旅行編が始まりました!

刻邑都はだいたい東京都の辺りという設定です。

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