第十五話『休憩所』
今日は九月四日日曜日。
新学期に入って四日。
修学旅行に来て三日。
改めてどういうことだろう。新学期早々クラスメートの顔ばかり見ている。今、高級ホテルの食堂の前にいる。係の方に冷たい目で見られている。
体調も整わない。今朝から頭やら喉やら、いろいろ痛い。
こんなにも疲れる環境に居続けると、そろそろ家が恋しくなってくる。
いつもはそう帰りたいとも思えない、寂しいくらいの静かな一人の空間だが、私には一番ちょうどいいところだ。
でも出来るんだろうか、帰らせるなんて…
出来るものなら今ここにはいないはずなのだが…
そう考えているうちに係の方が食堂の扉を開けた。
「ふーん手動なんだ安っちいね!!」
「言ってやるなよ!」
「お客さま…本日はバイキング形式でございま…」
「全ッ然足りてないよ☆」
「…無くなったら報告してください。そ…」
「もう食べてる!!?ていうか立ち食いはやめてよ行儀悪い!!せめて座って!!!」
「まさうろくごかやおはえまお」
「いつもの調子だけど係の方が本気で困っちゃってるよ!!」
「もう食べ物無くなっちゃったよ?」
「あ…はい…少々お待ちください…」
「さっさと出せ☆」
「恐い恐い恐い恐い…」
「支配者って恐いな…本人には快感だが…」
「そうだよね…へ?」
急に話しかけて来たのは赤髪の少女。
彼女が発する言葉はいつも不思議だ。事実を言っているように聞こえて、普通簡単には分からないようなことを当たり前の事実のように話す。
「お前の場合はうまくいかずに体調まで悪くなってるみてーだな…だれも帰る気ねぇんだし帰らせるのは諦めたらどうだ?」
「…」
「…お前も意見は曲がらないか。ま、勝手に疲れるだけだし最終的に決めるのはお前だ。帰らせたいなら帰らせろ」
だれも帰る気が無い。それはわかってた気がするが実は今始めて知ったことだ。
いう通りだと思うが、そのくらい覆してやらないと駄目だ。
――ダメ元だけど…
「ねえ水玉、その…本当に30泊するつもり…だよね?」
「うーん、なんというか~…和ちゃんっぽくないね☆」
「結構こんな感じだけどね!?」
「あ、和ちゃんだ それでなんの用?」
「もう帰らないかっていう相談」
「却下☆」
「デスヨネー」
「だってまだまだ学園帰りたくないからね♪」
確かに帰ったところで皆の態度は同じなのだが…いい加減私が限界なのだ。
お客さんにも迷惑かけっぱなしで……一部は私達を見るなり避けるようになってしまった
何をボーッとしていたんだ私!なんとかして帰らせないと…
「じゃあ今日も月影園へ!れっつらごー☆」
「はいはい」
…いや、意地でも今日中にコイツらを帰らす!
[こうして和のなんかよくわからない戦争が始まった、らしいよー!]
*****
もう馴れ出してしまった入場口の光景。
堂々と前に並ぶお客さんを横切り、あっという間に先頭にたどり着く。
そして水玉はこう言う。
「通してね♪」
そして水玉は差し出す。
『一ヶ月フリーパス38名』
そして水玉は尋ねる。
「十万円いる?」
「要りません」
私は水玉を園内に押し込む。
…そこで気がつく。
さっき話した赤髪がいない。
「まあいいか…」
「ん?なにが~?私はでよければ相談のりまっす!」
次に話しかけて来たのは表情と声が全く合っていない時雨
私には足止めされてしまったようにしか思えないが、とりあえず気にかけてくれたことには感謝する。
「あのさ時雨…剣岳さん見なかった?」
「う~ん…朝はいたねっ!でも確かにいないよね~…一人で帰っちゃったのかな…?」
「えぇ…」
「だってあの子さ…いっつも学園来ない日って周辺で飛び回ってるらしいしね!」
「ええぇ…」
「あの子は話によれば……ええとなんだっけ!てへっ!」
「え…その辺は覚えといてよ…」
「えへへごめんね和ちゃん…思い出したら話すよ~」
「全く……」
…なんかいろいろ気になるがとりあえず水玉についていくことにした。
「まずは、ビッグブリザードマウンテンに行こうか!」
「ちょ…ちょっと待って水玉!確かスペードマウンテンはあの恋ばなと同じくらいつまらない、って言ったよね?」
笑顔を見せるようにしながら話す。しかし自分でもそうなっているのが分かるほどの苦笑いだった。
「うーん…何もやらないのは百京倍つまらないんだけどな☆」
「百京倍!?」
「じゃあ抜かすよ!」
「待てい」
げんこつで上からぽこっと叩いてやった。
「ちょっと水玉ちゃんあっちのアイスでも食べようか~?」
…とにかく、問題を起こすのは確実だ。もう防ごうだなんて考えずにできるだけ小さい問題にすることに狙いを絞ることにした。たとえ自分らしくない言い方でも。
「お、あれは果汁をケチりにケチって砂糖多めと着色料で誤魔化したアイスバーじゃあああないか!!」
「どうしようもならないことをボロクソ言うなお前は!!?」
「よし買い占めてやる☆」
「それだけ酷い言い方しといて買うって言われるとなんか逆に…なんだろう…」
買い占めるのもどうかとは思うがなんとかビッグブリザードマウンテンから遠ざかることができた。
*****
「やっほーこの店くださーい」
「店ごとお買上かよ!!!!!!????」
「だってその方が楽じゃない?」
しかしそんな水玉にも通常営業の係員は冷静に対応してくれたのが救いだ。いや、あんなことをやっていることを知っているから冷静なのもまぁそうかもしれないけど
「…すみません。当店ではアイスとドリンクのみ販売しております…」
「仕方がない商品全部よこせ☆はい千万円」
「ありがとうございます……」
「…じゃあ帰ろうか」
「嫌だ☆」
何度でも言えばいつか許可がでると思ったが即答だった。…でもまだ諦めるのは早い。
菊野を中心に買い占めたアイスバーを黙々と食べている。
「アイスとドリンク買い尽くしたし…次は月影園内アイス売店制覇しよう☆」
「やめろ!!!」
「ならビッグブリザードマウン……」
「アイス売店制覇でお願いします。」
*****
こうして園内のアイス売店を制覇したあと、また「帰ろうか」と言ったが「次は食事も制覇しよう☆」と言い、なんとサンドイッチやカレー、ポップコーンなどを買い占めに行くことになってしまった。
私の恐れるアトラクション破壊も相当マズいが、これもこれでじわじわ迷惑がかかっている。
ポップコーン(3軒目)を買い尽くした後に、「今から帰れば音楽の授業だから帰ろう」と言った。答えは「もっと面白いもの破壊しよー!」…
これは逆にマズいことになった。
周りを見渡して休憩所を発見した。
「水玉…そろそろ休憩しようか…そこに休憩所あるからさ」
「え?もう疲れたの??…どゆこと??」
理解不能だと首を傾げながらも休憩所に入っていく。全員がそれに続く。
クーラーの効いた部屋のベンチに座ると、何人かは寝てしまった。
寝なかった人も上を見上げてボーッとしたりしている。思ったよりも疲れているようだった。
菊野の方に目をやると、「トイレ…トイレ嫌だけど…行かなきゃ…」と震えていた。
「ちょっと水玉…なんでそんなに帰りたくないの…」
「うーん…特に何も無いけど、柑月の方が何も無いじゃん☆」
「あれを何も無いって言うなよ!!?校内に川とか墓とか滑走路とか森とかあるのが普通か!!??」
「普通ではないよね!だってブラックジェットもヘリコプターも全自動水耕栽培施設もゲームセンターも無いんだよ?月影園の方がまだましだよね!」
「無くて結構!」
「は?ゲーセンは欲しいよなぁ!!」
東風が首突っ込んできた。
「前ゲーセン行ったらクレーンゲーム爆破されて面白かったぞ!!」
…そんなことを話しているときふとトイレ組の話が聞こえた。
「帰るぞ。起きろ白夜」
「ん~…アンズか…折角気持ちよく寝てたのに~…」
「あはは、ごめんって…茅野、佐敷、帰るるぞ」
「『では私達は先に帰るとしましょう』と妖精が囁いております。」
[じゃあ皆バイビーww]
「お前ら全員聞けーサンドイッチは食うんじゃねえぞー!」
「え…」
そう最後に言って彼らは踵を返した。
「あれ、花子ちゃん達帰るんだー!」
「え、マジで!?」
絶対に(やっとトイレに行ける…)と思っている菊野がほっとした表情を見せた。
…誰も帰る気が無かったはずじゃ――
四人の影は人混みに紛れて消えていった。
*****
その後死人のようになった菊野が倒れ込んでいた。
「もう帰ったと思ってトイレに直行したら花子がいた…」
「どんまいきくのん」




