第三話『時間加速システム!』
こんな機能があったらいいな。
そんな理想を詰め込んで、今日もVRつくーる!
「あ、ヤマトさん。お仕事お疲れ様!」
仕事を終え、帰宅してすぐにログインすると
今朝とまったく同じ格好をしたナビに出迎えられた。
仕事を終えたばかりでかなり疲れていたが、美少女の労いを受ければ
それも吹き飛ぶというものだ。
「うむ。まぁこの俺にかかればあの程度の仕事、なんでもないのだがな。」
と、英雄を意識してつい見栄をはって答える。
まぁ、アルバイトなんだけどな。
それにしても、前回も思ったがこのナビのAIはどうなっているのだろうか。
人類史上最高の天才が作ったのだから当然なのかもしれないが、
中身は人間ですと言われてもなんの疑いもなく信じれる自信がある。
人口知能ってやつだろうか?
「それじゃあ今日は、VRT本体の設定からはじめようか。
といってもメニューなんてなくて、
私がいくつか管理してるだけなんだけど。」
「うむ、頼む。」
「というかキャラクター作成より前に、
本体設定からすればよかったんだよね。ごめんごめん。」
前回、時間を気にした時に気づいたんだよー。
と、ナビが申し訳なさそうに言ってくるので、太郎は首をひねった。
本体設定からでもキャラクター作成からでも、時間は変わらないのでは?
不思議そうに首をひねるヤマトに気づいたのか、苦笑しながらナビが説明してくれる。
「実はVRTには、時間加速システムっていうのを導入していてね。
人の思考速度を最大で80倍にまで引き上げられるんだよ。
・・・つまり加速時間の設定をすれば、
この世界での80秒は現実世界での1秒になり、
この世界ので80時間は現実世界での1時間ってことになるんだ。
これなら忙しいリア充でも時間がとれるでしょ?
ただ、かなり時間感覚が狂いそうだから、
自由に設定できるようにしてあるんだ。
デフォルトは等速だから、前回はすぐ時間になっちゃったんだよね。」
「なるほど、それはすごいな・・・!今から4時間くらいは自由なんだが、
それの80倍だと、えっと・・・」
「320時間。13日以上こっちにいられることになるね。」
なん・・・だと。
あっさりと返ってきた応えに、思わずヤマトは絶句する。
現実世界での4時間が、こっちでは13日以上になるとか・・・
た、確かに時間感覚が狂いそうだな。
「あ、そのためにアラーム機能も追加しておいたよ。
時間をセットすれば、予定時刻になったら、教えてあげる。
あと、現実の時間を確認したい時はいつでも言ってね?」
「なるほど、助かる。じゃあとりあえず4時間後に教えてもらえるか?」
「ん、了解!加速はどうする?1~80倍まで自由にできるけど。」
「もちろん80倍で頼む!」
「はーい。よし、設定終わったよ。
あとは、そうだなぁ・・・。
来客があったり、あなたのスマホが鳴ってたら教えてあげる。
ほかに何か希望はある?」
相変わらずさっくりととんでもないセリフがでてきた気がする。
なるほど、確かに外のことがまったくわからないのは困る。
確かに必要な機能だろうけど・・・
「えっと・・・できるのか!?」
「うん。私はVRTそのものだからね、現実世界の音もちゃんと拾ってるよ。
もちろんヤマトさんの意見を尊重するけど・・・あとはそうだなぁ、
2時間くらいで休憩をオススメしようかな。
その、トイレとかの問題もあるでしょ?」
「え、あ、ああ・・・。助かる。あと、もし地震とか火災があれば・・・」
「緊急だと判断したときはすぐに強制ログアウトするよ。安心して!」
「助かる。・・・しかし、本当にナビはすごいな。
どうみても人間としか思えない対応なんだが・・・」
いくら天才が創ったゲームとはいえ、対応がすごすぎる。
こちらが何も言ってないうちに、必要なことを次々に提案してくるのだ。
といってもVRTそのものというあたり、やっぱりNPCなんだろうが・・・
「ん?私はナビだけど、人間だよ?」
ああ、やっぱり人間でしたか。
・・・って、
「・・・はぁ!?」
「ああ、でもある程度創り変えられてるから、NPCといえばNPCかな?
でもNPCです!って宣言するのはちょっとやだなぁ。」
「いや・・・えっと、どういうことだ。人間じゃないんだろう?」
「うーん。まぁ、元、人間っていうべき?私はね、コピーなんだよ。」
「え?・・・・・・・。えっ!?」
人間の、コピー?
・・・いやまて、そんなことできるのか?
いや、できたとしてもそんなこと、許されるのか!?
「えっとね。私はこのVRTの製作者、成神 葵の、2030年3月30日時点でのコピーなんだよ。それまでの葵の記憶、経験、想い。その全て引き継いでる。そのコピーにVRTの管理能力を与え、VRT本体にインストールして、プレイヤーをサポートするナビゲーターに仕上げたもの。それが私なんだ。」
・・・つまり、この美少女は成神 葵の、人間としても全てを持ちながら
俺をサポートするためだけに、この機会に囚われてるってことなのか?
それも全て、人間の手で創り変えられて。
「・・・そんなこと、許されるのかよ!?」
「できるんだからいいんじゃない?私を創ったのは私だし。
それに、これからの人生は私だけのものだもの。」
予想通りの応えに、ヤマトは肩を震わせて怒りを示すのだが
ナビ本人はあっさりと返した。
・・・え、いいのかよ!?
「あ、ああ・・・えと・・・。だって、感情とかもあるんだろう?」
「もちろん。」
「なのに、機械の一部にするなんて・・・」
「あはは。ヤマトさんは、優しいね!でもまぁ、私達ナビとオリジナルはみんな4次元ネットワークで繋がってるからね。みんなと自由にお話もできるし、オリジナルを通して現実世界も見れる。何より、みんな似たもの同士だから、特に困ってはないよ?何かあれば意見できるし、そしたらオリジナルの私だって創り変えてくれるだろうし。」
「う、うーん・・・。」
ぬぅ・・・。俺としてはやっぱり機械になんてなりたくないのだが、
創ったのが本人であり、本人が納得してるなら別にいい、のか・・・?
ヤマトとしてはいまいち納得できないのだが、
目の前の美少女は何も問題ない、という風に微笑んでいるので
これ以上何も言えずに黙り込んだ。
「そうだなぁ。そんなに私のことが気になるなら・・・。
他の私に自慢できるような、立派な世界を創ってほしいな!
今の私の生きがいは、それだしね!」
「ぬ。」
「勝負してるんだよ。誰の担当が、一番面白い世界を創れるか。
まぁ最終的にはいろいろと良いところを統合して、できた最高傑作を
異世界にしてしまう予定なんだけどね。」
「ふむ・・・。なるほどな。」
「もちろん私達だけじゃなく、他の全プレイヤーに公開することもできるよ。フレンド登録をした人達だけに見せることもできるし、逆に他のプレイヤーが創った世界だって、許可があれば見に行くことができる。参加許可があれば、ネットワークを通して遊びに行くことだってできるんだ。」
「なんていうか・・・。
ちくしょう、面白そうだな。」
「んふふふー。そうでしょう!?
ちなみにまだ公開されているVRは1つもないの。
オリジナルな成神 葵も、今はMMORPGを作成中みたい。
負けないように、がんばろうねっ!」
「おう、やってやらぁ!」
なんといっても、今日寝るまでに13日以上も時間があるんだ。
天才、成神 葵の創るMMORPGも気になるが、そう簡単に負けてたまるかっ!
つまり成神 葵が創造神で、
プレイヤーはそれぞれの世界を担当する土地神様。
各自公開されていれば自由に遊びに行ける、って感じ。
ただしゲームである以上、今はいろいろ規制もあるけどね!