第二話 紫の髪の異世界人
一応確認しておきましょう、レナ、十六歳身長百六十五センチ体重黙秘
昨日やや強引に金貨十枚と木の箱鍵付きを貰い
百八十日以内に隣の国へ行って帰ってこいと言うお使いをやや強引に引き受けさせられ
やや強引に旅に出ることにしたわけである。
さて、次の日
ほぼ手ぶらに近い状態でレナは旅に出る。
服を二日分ほど、箱と金貨と一緒に肩掛けカバンに入れているのみ。
何かを買うにしても金貨十枚を城下町に持っていけば、いつ盗られるか分かったものではない。
かといって、一枚だけ持って行って家に残りを置いて行くと言うのも心配。
などと、考えているうちに一日経ち、おとなしそうな顔をして行動派なので
「お隣の国だし、まぁ、大丈夫ですね」
と地図も持たず完全に何かありそうな決断をして旅立った結果。
ここはロイバルト王国の関所の外の荒野、魔物の住む危険地帯であるが
レナがそんな事知っているはずもなく
現在ワニもどきに食べられる寸前である。
さっきから必死で逃げ回っているが、このワニがめちゃくちゃでかい。
このワニはナドラルという陸地に住むワニのような魔物、足が六本あって非常に凶暴。
陸地に生息するので、水の中に生息するワニとは違いしっぽが短く、体がその場の色に合わせて変色するカメレオンのような奴でもある。
久しぶりの獲物を目の前に、きっちり仕留めようとするナドラル。
涙目で思わず目を伏せるレナに
大口を開けて襲いかかる
その時点で死亡フラグ
「マジックエフェクト、伝説の盾!
このターン俺のフィールドのガーディアンは破壊されない!」
どっかから声が聞こえると、ナドラルとレナの間に巨大な銀色の盾が立ちふさがった。
ナドラルが盾にぶつかり鈍い音を響かせる。
レナは何が起こったのか分からずに、しばらくその場に立ち尽くし
不意に声のした方を振り返った。
「……いざ叫ぶと恥ずかしいな、これだったらトラップ発動!の方を貰うんだった……
なんでこっちにしたかな……ネーミングセンスの欠片もねぇよこれ」
レナから十メートル程離れたところに、紫色の髪をした男が頭を掻きながら現れた。
年齢は二十歳程、髪は紫だが瞳は黒い
「おーい! そこの緑色の髪~怪我無いか?」
「え、あの……」
そこまで言うと、爆発したような音が響き、盾が大きく揺れ始めた。
ナドラルが盾に突進でも仕掛けたのだろう。
レナはその音に耳を塞ぎ、目をつぶる
ゆっくり目を開いた時には、十メートル先にいた男がすぐ目の前でしゃがんでレナの顔を覗き込んでいる。
「大丈夫か? 生きてる?」
「だ、大丈夫……です」
男の身長は百八十センチほどと言ったところ
すらっとした無駄のない体つきをしていて
見た事もない模様の、布でできたそでが長い服と
丈夫そうな青い長ズボンを履いている。
要するにオレンジのチェックのシャツとジーパンである
「さて、多少の融通は利くみたいだ、そうじゃないと叫ぶ甲斐が無い」
男は正方形で裏の黒いカードを眺めそうつぶやいた。
「じゃあ、悪いんだけど、もうチョイの間耳塞いどいてくれる? これめちゃめちゃ恥ずいから」
レナは頷き、耳にギュッと手のひらを押し当てる、男はズボンのポケットから正方形のカードの束を取り出し、その中から一枚引き抜くと。
「マジックエフェクト、生き写しの町娘。
フィールド上のガーディアン一体を選択しこのカードをそのガーディアンと同じレベル、BPのカードとして降臨させるっと……」
男は正方形のカードを地面に突き刺す。
するとカードを中心に砂やチリが集まりレナの姿をした人形に変わる
「で、執念の一撃。
自分フィールド上のガーディアンと相手フィールド上のカード一枚を破壊する! 食らえ! ワニもどき!」
目の前で人形が風船のように破裂すると同時に盾の向こうで、先ほどと同じくらいの爆音が響く
男はしばらく立ち尽くすと、ゆっくりと盾の方へ歩き、盾の陰から向こうをそーっと覗くと
「……やっぱこのカードで良いか」
とつぶやいた。
盾が崩れるように消滅すると、男はレナに話しかける
「もう良いよ」
「あの……あ、ありがとう……ございました……」
レナは男に頭を下げる
「……ところで……君、なんで髪が緑なの?」
お礼に答えるわけでもなくいきなり切り出す
「……え……生まれつき……です……紫の方が珍しいと思いますけど……」
「やっぱ魔族はそういう人が多いの?」
「えっと……私にはよく分かりません……」
「そーか……」
少しがっかりしたように男は肩を落とす
「あの……どうかしたんですか?」
「いや、別になんでもない」
レナはしばらく考えると、思い出したようにカバンの中に手を入れ
「あ、その……これ、どうぞ」
袋から金貨を一枚取り出し、男に差し出す。
「……何? これ」
「お、お礼……です」
男は金貨を受け取ると、少し眺めてすぐにレナに返した。
「いらん」
「え……どうしてですか?」
レナは受け取るのを拒みながら質問した。
「金は使えないと意味ないだろ? 俺は使わないし」
そう言って押し付けるように無理やり金貨を返す。
「じゃあ、どうやって生活してるんですか?」
レナは仕方なく金貨を受け取る、さらに口調がだいぶ落ち着いてきた。
男はしばらく上を見て考えてから
「……宿?」
やや疑問形で答えた。
「宿に泊まるのだってお金が要りますよね?」
「俺の場合はいらないんだよ」
レナはその言葉に首を傾げ、男を眺めた。
しばらく眺めるとレナは唐突に
「……もしかして……ニンゲン……ですか?」
「まぁ、そうだ」
男が即答するとレナは驚き、すぐに頭を下げた。
「そんな……ごめんなさい! 私知らなくて! 本当にごめんなさい!」
……訂正、下げたと言うより荒野に顔面を擦りつけて土下座してる
「……えっと……とりあえず……顔上げてもらえるとこっちが助かる……かな?」
今度は男の方の口調がちぐはぐになってきた。
レナは男の言葉を聞くとすぐに顔を上げるが、顔は泥だらけで涙目、絶望に満ち溢れた顔をしている。
「とりあえず、落ち着いて話を聞いてくれるか?」
「はい! なんでも聞きます!」
男が下手なこと言うと、とんでもない展開になるのは目に見えている
それは男も重々承知しているようだ。
男はとりあえず、目の前の魔族がちゃんと話を聞いてくれるうちに
いろいろ説明し、いろいろ聞きだすことにした。
「まず、俺はお前には危害は加えないし……真面目に話し聞いてるか?」
「も、もちろんです」
絶望的な表情はだいぶ治まったが未だに涙目だ。
「とりあえず俺の事は京助って呼んでくれ、君は?」
「レナです」
「名字は無いんだな?」
「私は平民でその中でも貧乏な方なので……」
「……金貨渡してきた奴の言うセリフじゃないだろ」
京助は呆れるように言うが
「これは貰ったんです!」
レナは必死に言い返す。
「誰に?」
「よろいを着た人です」
「ふ~ん」
京助はレナの表現がアバウトなので、これ以上聞いても無駄と踏んだようだ。
男は魔族でも一応、人 という相手の指し方をするようだ、という、どうでもいい情報を手に入れた。
「じゃあ次の質問、こっちの世界で人間ってどんな扱い?」
「どんな……とにかく盛大に持て成されるのは……あ、私はちょっと無理ですけど……」
レナは人間という言葉が出ると、しどろもどろになる。
「人間って聞くとレナはどんなイメージを持ってる?」
「それはもう……神様です、こうして話せている事が奇跡ですから……」
「なるほど把握」
京助は後ろを振り返り
「おい、見てないで説明してくれ、本気で困ってんだから」
と何もない空間に話しかけた。
すると
「あ~ばれてたか~」
という声と共に、レナが今まで見た事のない服装の女性が、何もない空間から歩いてきた。
若干怒り気味の京助と再び唖然としているレナ
そして、当然のようにどっからか歩いてきたレナの見た事もない服装……
まぁ、要するに紺色のレディーススーツに赤縁メガネといかにも仕事してそうな人が歩いてきた。
年齢的には京助と同じ二十代。
「……場違いだ」
「呼んだのは京助くんじゃないか~」
しかし、話し方に全く掴みどころが無い
「呼んでない、何で来た、何故に荒野でスーツだ、もう少し雰囲気考えろ」
「注文が多いね~先生は聖徳太子じゃないんだよ?」
「だよ? じゃねぇだろ、そもそも話してんのは俺一人だ」
「まぁ、要求を一つずつ丁寧に~お願いするよん」
「何で来た」
京助は面倒くさそうに質問する
「お知らせだよ~」
「……なんの?」
「まぁ、それは後にして、そっちの緑の髪の子は誰だい?」
レナは、未だ固まっている。
「……あー怖くないよ? 私はただの神様だからね~」
スーツの女性はいきなりとんでもない事を言い始めたが、紛れもなくこの人は神様である。
いや、ホントに
「神様……?」
「あ、知らないかね? えーっと、ちょっとだけ偉い人だよ~」
「そう言えば、お前神様の中でどんくらい偉いの?」
京助は相変わらずいきなり切り出す。
「上から二番目~」
「……ホントは何番目だ?」
京助は疑いの眼差しを神様に向ける
「ホントに二番目だよ~」
「……ウソ付け、お前が二番目だったら世界を任せられん」
「良いんだよ、基本的に神様は何にもしないんだから~」
「……まぁ、後でじっくり聞くとするか」
「そそ、後で後で、さて、魔族の君は誰だい?」
魔族から見れば人間はすでに神様のようなもので、その上神様を自称する見た事もない服装の女性が現れて、夢と思わない人は、ほぼ居ないだろう。
レナはさっきから耳や頬を引っ張り、真っ赤になっている
神様はお婆さんに姿を変えると
「あー、これ、かわいい顔にそういう事をしてはならん」
そう言ってすぐに先ほどの姿に戻る。
「そういうことだから~ちょっと引っ張るのやめないかい?」
まぁ、こんな事があって驚かない人はいないわけで……
レナは目を真ん丸くさせ、神様を見ている。
「……完全にビビってるだろ、どうすんだよこれ、めちゃくちゃ話しにくい」
「あー、驚かせる気は無いんだよ?」
「あの……本当に、神様なんですか?」
レナがそう聞くと
「信じなくっても天罰はあげないよ~」
神様はにこにこ笑っている
「じゃあ、俺らはそろそろどっか行くか」
「えー……なんで~まだこの子の名前も聞いてないのに~」
「その子の名前はレナ、金貨持ってる、以上」
「なんだい、そんだけかい?」
「は?」
思わぬ切り返しに京助は戸惑った。
「レナちゃんは、ロイバルト王国に住む十六歳現在リンルグル王国に箱を届ける途中だよ~」
「……あたってる?」
京助はレナの方を見て確認する
「……はい」
「リンルグルって……」
京助はポケットから明らかにポケットに入らないサイズの筒状の紙を取り出し広げる
「神様、今俺らどこにいる?」
「ここだね~」
ロイバルト王国の隣にある平地の下あたりを指した
「で、リンルグルがこれだよな……結構な距離だ、レナは大丈夫なのか?」
「まぁ、何とかなりますよ」
レナは堂々と胸を張る、その自信はどこから来るのか
「でも、見る限り手荷物は肩掛けカバンだけだろ? 腹減ってないか? もう昼ごろだし」
京助はまぶしそうに太陽を見上げる
「お腹は……あんまり減ってないです!」
言いきると同時にレナのお腹が鳴る
「……お約束の展開か」
「あー神様ちょっと用事を思い出したよ~」
神様は慌てて立ち去ろうとする
「待て、この貧しき世界の住人に救いの手を差し伸べるのが先だろ」
京助は神様を引きとめようとするが
「金貨持ってる人は貧しいって言わないんだよ~」
「使い方に乏しいんだから貧しいようなもんだ」
「知らんがな~じゃあまったね~」
破裂音と共に近くに煙が充満し、風に煙が流された時にはただ地平線が広がっているだけだった。
行き当たりばったりな感じになりましたね。
この先どうなるのか、不安であります
読んでくれる人がいるのかも同時に不安であります。
大丈夫かなぁ……