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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

友情はチョコレートのように

作者: 遊月奈喩多

 皆様こんにちはこんばんは、遊月奈喩多と申すものでございます! 全年齢作品ではお久しぶりかも知れませんね。


 このところ成人向けばかり書いていたので(しかもジャンルは寝取られものでほぼ統一)、たまには頭を空っぽにして読めるようなお話も書きたいなと思っていたところにちょうど楽しげなお題を見つけて、筆を執った次第です。


 それでは、本編スタートです!!

莇敘(あざのぶ)、今日ポッキーゲームしな~い?」

「なんだよ、そのどこかのCMみたいな誘い方」


 11月11日。

 毎年世界各地で「ぼくは1番が好きだ。ナンバー1だ!」と豪語する青少年の姿がSNSに投稿されるのが当たり前になっているこの日、昼間の喧騒が嘘だったかのように静まり返った教室で、空に未練がましくしがみつく夕日を眺めていた俺に声をかけてきたのは、親友の華汐(はなしお)侑李(うり)だった。

 もちろん、一緒に特殊な呼吸法の修行をしたり、共に死闘を繰り返しながらエジプトに向かったりという一般的な親友像を思い描かれると、俺たちの関係はそこまで強いものではないように見えるかも知れないが、お互いにそこまで他人と関わるタイプでもない俺たち当人にとっては、幼い頃から一緒にいるというだけで「親友」と呼びたい理由として十二分だった。


 俺たちの出会いや友人付き合いの始まったきっかけについては、あれこれ吹聴して回るようなことではないから割愛するが、ここ数年でようやく「命の恩人だから」なんて義理じみた言い回しをしなくなった侑李の姿に、俺は地味ながら確かな満足感を覚えたりしている。

 わけなのだが……。


「てか、なんでいきなりポッキーゲーム? 侑李甘いの好きじゃないだろ」

「あはは……、まぁそうなんだけどさ。クラスの子たちがやってるの見てたら楽しそうだなって」

「あー、あのズキュンズキュン鳴らしてたやつか」


 言われて記憶を(さかのぼ)ると、クラスの女子共がそこかしこでポッキーゲームをやっていたように思う。授業中にも昼休みにも絶え間なく『ズキュゥゥゥン』なんて音がしていたから、きっと失敗して唇が触れたりしていたのだろう。ったく、お盛んなことで。


「女子の真似すんのかー」

「駄目かな……」

「うっ、」


 侑李がその妙に愛くるしい顔に段ボールの仔犬みたいな表情を張り付けてこっちを見てくる。くそ、こいつだって男だ、男なんだ……!


 で。

 結局俺たちは、放課後の教室でポッキーゲームに勤しむことになったわけなのだが。


「お前、絶対わかってやってるだろ……」

「? 何が?」

「や、いいや」


 これが汐華侑李だ。

 修学旅行なんて行けば私服姿の女子に見とれたり、思わず「ザ」と頭につけたくなるくらい正統派なアイドル歌手をテンション高く見ていたりと、一緒に大きくなった俺からすれば確かに男だとわかる部分も少なくないものの、そのどうにも中性的な顔立ちで頼まれると、多少の無茶なら聞いてやるかと思えてしまう。それが得なばかりでもないことは今までの半生で俺にも理解できているが、それでもやっぱりちょっとだけ得をしているような気もする。何をするにしても女子受けがいいのと、あとこういう、頼み事をするとき。俺たちくらいの年代の、女子への免疫が薄い野郎共からすると、こういう風に頼まれると断るのに勇気が要るんだ、これが。


 自覚的にやってるなら「あざとい」の一言で終わるところを、こいつはなんと無自覚だ。だからこそどうしようもない──よっぽどのことでなければ、大人しく聞くしかないってわけだ。


 え、侑李は男だろって?

 わかってない、何もわかってない。


 侑李はそこらの女子すら太刀打ちできないレベルで可愛い部類だ。背丈もそこそこあるし、決して極端に華奢というわけでもないが、纏う雰囲気や立ち居振舞いが、悔しいことに可愛い。俺の可愛い初め──一年最初に見る可愛いものは毎年侑李だ。

 で、そんな侑李だから昔からトラブルに事欠かない。こないだなんて『俺は女児しか好きじゃなかったはずなのに!』と逆上した警官から襲撃される憂き目に遭い、危ういところで俺が気付いて返り討ちにすることができたが、……やれやれだぜ。


 と、現実逃避のようにあれこれと侑李が可愛いということについて語ってしまったわけだが、そんなのは俺からするとコーラを飲んだらゲップが出ることくらい当たり前の事実で、取り立てて言及することではない。

 そのはずだったが。

 いざポッキーを咥えた状態で相対してみると、ちょっとヤバい。これは素数を数えて落ち着かないとダメだ、2、3、5、7、11、13、15……違くね? あー駄目だわからん!


 こうなったら、手早く終わらせちまうしかない……か!? 俺のひと噛みひと噛みの咀嚼が、侑李のポッキーを削り取る……!

 と、1分間に600回の噛みつきでどうにかポッキーゲームを制しようとしたはいいものの……何か、ふと抱いた違和感に俺の口は止まる。まるで張り巡らした糸を全て、寸分違わず、コンマ1秒の差すらなく同時に断ち切られてしまったのを目の当たりにしたかのような、不思議な違和感。


 そう、そうだ。

 わかってしまった。

 こいつは……侑李はッ!

 『一歩たりとも進んじゃいない』ッ!


「な、何やってんだ侑李! このままじゃ俺が勝っちま、」

「いいんだよ、それで」

「……は?」


 危うくポッキーを落としそうになったが、口を必死に動かしてキャッチする。っぶねぇ……まさかそういう作戦か、侑李!?

 思わず唸りそうになったが、侑李のリアクションは薄い。というか、心ここにあらずというか。


「おいおいどうしたってんだよ侑李、そんなんじゃ……あっぷ、あっぷ、あっぷあっぷ!」

「Shake,shake,shake it up?」

「顔ちゃうわ!」


 おっと、気を抜くと落としちまう!

 ……ったく、いったいどうしちまったっていうんだ?

 怪訝そうな顔をする俺に答えるように、侑李が口を開く──もちろんポッキーは落とさないように。


「僕はね、この状態になってみたかったんだよ。莇叙と僕と、ふたりで……変な茶化しとか入れられないとこで。ポッキーゲームをやれば、けっこう自然にできるだろ?」

「…………え?」


 その顔を見れば、わかる。

 侑李の言っていることは嘘や冗談なんてもんじゃない、もっと真剣なものを帯びている──そんな、今まで俺も知らなかった心の片鱗みたいなものを垣間見た気がして、


「次に莇叙は、『いやっ、侑李お前そんなこと言われたって……!』って言う」

「いやっ、侑李お前そんなこと言われたっ……ハッ!」

「莇叙、落としてるよ」

「ハッ!!」


 こうして、この日のポッキーゲームは呆気なく俺の敗北となった。……ポッキーゲームって、こういう盤外戦術もアリだったってことか。奥深いぜ!


「今日は負けたが、またやろうな! 次は俺が勝ってみせるから、首洗って待ってろよ、侑李!」

「わかったわかった、洗いすぎて取れないように気を付けとくね」


 カァ~~!

 勝ったからって余裕かましてやがる!

 勝利を誓う俺の頭上では、何だか妙に赤い夕陽が西の彼方へ沈もうとしていた。


 そう、これでいいんだ。

 俺たちは、僕たちは。

 これがちょうどいい。

 前書きに引き続き、遊月です。本作もお付き合いいただきありがとうございます! お楽しみいただけていましたら幸いです♪


 さて、前書きでも申し上げた通り、全年齢作品ではお久しぶりでございます。というのも作者、この2ヶ月ほどは迸る熱いパトスで思い出を裏切るがごとく紳士向けサイトの方で作品を連載しておりまして、なんと2作品書いて2作品ともいわゆる寝取られジャンルでございました。とはいえ最近沸々とハピエン指数の上昇している作者のこと。安心してください、ハピエンですよ!(ヘェェェイ!)

 ここ数ヵ月くらいそういうジャンルの音声作品を聴くことがあったからなのか、夏頃見た「体格差」というワードから即座に寝取られものの導入を考え付いてしまったからなのか、それは作者にとっても定かではありませんが、そうなんですよね、寝取られたってハッピーエンドにはなるんですよね!(寝取られ報告が辛くて彼女を傷つけそうになった自分に(おのの)いて別れを決意した青年が思い直して彼女とまた付き合う話と、いわゆる勇者に幼馴染みを寝取られたものの最終的に彼女と家庭を築き支えていく決意をする村人の話を書きました)


※ ということをかつて参加したオフ会で熱弁したところ、「自分的には一度でもヒロインが他の男と寝たらアウトかな」というご意見も頂いたので、以上のお話はあくまで作者の個人的な趣味嗜好です。


 趣味嗜好といいますと、作者は最近SNSで「マトリョーシ姦」なる単語を見かけました。とある作家さんが呟かれていて、そこにファンの方々が相乗りする形でやいのやいのと賑わっていたのですが、いやはやなんとも禍々しい字面をしているものだと戦々恐々としたものでした。しかしやはり知らないまま怯えているのも如何なものかと調べてみたんですね。そうしたら、はい。全年齢向けのサイトであるこちらでは『気になる方はお父様やお母様にお尋ねくださいね★』というより他に選択肢のないような内容だったわけで、もう……そうですね。書こうとするとたぶんマトリョーシ姦される側の、幸福な日常と確かに目の前にあったはずの未来を突然壊される悲劇や絶望を書くのが正道かなという内容でした。いや、あの性癖はどういう楽しみ方を想定したものなんでしょうね。作者は考えているだけで自身の体内には存在しないはずの部分に該当する辺りが痛くなるような思いなのですが、もしかしたら書き手が感じるこの苦しさこそがマトリョーシ姦の最たる特徴なのかも知れません。お腹の奥が痛くなるような思いです。やいのやいのしていた方々は、本当にこんなのがお好きなのか?


※ れっきとした性癖として存在する概念に対して『こんなの』とか言ってはいけません。ここはリョナと溺愛、純愛と寝取られが肩を寄せ合い生きてる国なのです。


 それはさておき。

 そうですねぇ……たぶん私が書くとしたらテンプレながらも「やめて、お腹の子が死んじゃう!」という旨を叫ぶ台詞を入れると思うし、お腹の中で何かが喪われる感触が……みたいのも書くことになると思うのですが(マトリョーシ姦ってたぶんそういうコンテンツだと思うのです)、なんというか『たぶんこうなるんでないかな』と展開のセオリーを予想しているだけでなかなかに心がしんどくなってきますね。書くとしたら相当な覚悟が要求されると思いますよ、皆様!


※ 何故か皆様が書くみたいに言い放つ作者


 閑話休題。

 ということで、今回はSNS上で盛んに活動されているハッシュタグ『SNS文芸部』の11月のお題「ポッキーゲーム」をテーマとして短編を書かせていただきました。併せて現在当サイトで開催中の友情コンにも載せてみようかなと画策してはいたものの……書き上がってみるとパロディネタが多すぎる気がしたので、とりあえずコンテストの応募はまた別のお話でチャレンジしようかな?

 また次回お会いしましょう!

 ではではっ!

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