第4話:記憶を取り戻したことを父に打ち明ける夜
今日も青葉学園は平穏のようだ。この前、生徒による犯罪が発覚したにも関わらずそれぞれのクラス、部活動は平穏を取り戻していった。
今日も輝夜は満流の部活が終わるのを教室で待っていた。
ふと、
〝お父さんは私の真実をどこまで知っているのだろうか………。〟という事が頭を過った。母親が正鬼であることはわかっているはず。それでも一緒になったのだから…。正鬼は女性が跡を継いでいくのだから当然、自分にもその素質があるはずなのだ。それをわかているはずだが、父の輝夜への接し方は輝夜が記憶を取り戻して以来も、その前とは全然変わらないのだ。
〝私が記憶を取り戻したこと、ちゃんと話すべきよね?きっと封印に携わっているはずだもの。〟
そういう考えに辿り着いたのだ。そして〝もしかしたらお母さんからカードのこと、何か聞いているかもしれない…。〟という淡い期待もあった。
そしてその夜、輝夜は父の帰りを待っていた。思い切って話をするためだ。輝夜は緊張しながら待っていると父が帰ってきて驚いていた。
「何だ?まだ食べずに待っていてくれたのか、今日は会合で遅くなると言っていたから先に食べていればよかたのに…。」
輝夜は笑って
「一緒に食べたかったんだもん!」
と言うと父は照れくさそうにしていた。
食事を二人で終えて後片付けもし、お風呂に入ってさあ、寝るだけという段階で輝夜は父に向き合うことにした。父はテレビを見ていた。
「ねえ、お父さん…。」
輝夜は声をかけた。輝夜は知っていた。父はテレビを見てはいるが、ただかけているだけで内容を楽しんでいるわけではないということを…。
「ん?」
父はそのままテレビの方を見たまま返事をした。
「大事な話があるの、ちょっといい?」
そう言うと父はテレビを消して自分の湯飲みを持って輝夜の傍にやってきた。
「どうした…。」そう言うと同時に湯飲みをテーブルに置いて着席した。
テレビの音が消えた夜の社務所は驚くほどに静かだ。
その静けさの中で緊張しながらも、おもむろに輝夜は話を切り出した。
「うん…。あのね、私、記憶を取り戻したの。」
「そうか…。」
父は短くそう答えた。輝夜は違う意味で驚いた。父がもっと驚くか何かアクションを起こすと思っていたからだ。
「驚かないの?」
「ああ、何となく気付いていたよ。」
「い…、いつから?」
輝夜は父が気付いていた素振りすらなく、いつも変わらなかったから聞いてみた。
「ん-、そうだな、」
父は暫く思い出すかのように静かに目を閉じて一呼吸整えて輝夜に話をする。
「揺らぎを感じたんだ…、あの日。多分、お前が覚醒した日だろう。この社務所にいてもいつもと違う空気感が漂っていた。どこか張り詰めていたんだよ。普通の夜の静けさなんてものじゃなく、異様に静かだった。まるでうちの神様が神力を発しているかのような鋭い緊張感があったんだ。」
「へぇ…、」
「信じてないな?」
「いや、信じてるよ。私が実際この変化だもの。」
父は〝それもそうか〟というような顔でハハッと軽く笑った。
「そか、あの時から気付いていたんだ…、」
輝夜がそう少し残念そうに言うと
「お前がきっと自分から言い出すと思ってな。」
父がそう言うものだから俯きかけていた輝夜はパッと顔を上げた。
「じゃあ、待っててくれたの?」
「ああ、お前の封印が解けたという事は、時期が来たんだろう…、」
そう言って父は輝夜に向かってジッと見つめた。
「本当はこのまま封印が解けずに大人になって欲しかったさ。だが、解けてしまったものは仕方ない。私が知っている事を全て話そう。」
「うん。お願い。わからない事だらけなの。」
そう言って輝夜は父に悪鬼を退治したあとで落ちてくるカードを見せた。
「悪鬼に出会ったのは今まで3回なの。ナイトが一枚、ボーンが二枚、奴らを退治したあとに落ちて来たわ。これって何か意味があるのかしら…?」
父はそれらのカードを手に取り「ふむ…、」と言って眺めていた。
「特段、普通のトランプのようなカードだね。」
「そうなの、取り敢えず保管してはるのだけど、意味のある物なのかどうか…、」
輝夜は考えあぐねていた。
「もし、チェスの駒として表されているのなら、キング1枚、クイーン1枚、ルーク2枚、ビショップ2枚、ナイト2枚、そしてポーンが8枚だ。それらを全部揃えると悪鬼を全滅させられるとか?」
「なるほど!そういう考え方も出来るのね!」
「あくまで一つの推理だ。ただ、チェスが基盤となっているなら同じ内容でもう1セットになるのだが…、」
父はそこで考えを止めた。
「と、いうことは白と黒で対決するからね?」
「ああ、そうだ。お前たちのカードは今のところ、黒い駒の柄だな。」
ふぅーと輝夜はため息をついた。
「そもそも、どのカードが出るかなんて、退治してみなきゃわからなし、効率悪いわね…、」
「いや、そうでもないぞ?キングやクイーンが出たらどうなるかわからないからな。」
「とにかく、もう少し様子を見てみないとわからないわね。」
「ああ、慎重に動くべきだな。お前にこのお守りを渡しておこう。きっといつか役に立つだろう。叶柄からお前が大きくなったらきっと必要になると言っていたんだ。」
「お母さんが…。」
「ああ。」
輝夜は父に渡されたお守りをそっと胸に抱きしめて母の思いを受け取った。
「うん…、感じる。お母さんの思いが伝わってくるよ。」
「そうか。」
そう言って父は目の端に涙を浮かべながら笑った。
それはこれから娘が妻と同じ路を歩むことへの不安と応援、そして亡き妻への思いとが合わさったとても複雑な思いなのだろう。
「お父さん、色々聞いてくれてありがと!」
「ああ、いつでも相談に乗るからな。」
「うん、おやすみなさい!」
「ああ、おやすみ。」
そうして輝夜は自分の部屋に戻った。布団に入り、輝夜はお守りをジッと見ていた。
赤い布地に白い縁取りの手縫いの小さな袋だ。きっと小さい頃の自分に合わせて作っていたんだろうな。と、思うと切なくなってきた。
「あ…そうだ。お父さんに記憶の封印に対して聞くのを忘れたわ。ま、また今度聞こうかな。ちょっと眠くなってきた。」
そう言って輝夜は布団の中でぐっすりと眠りについた。
そんな輝夜の手に握られていた母お手製のお守りだが、輝夜が眠っている間にほんのり赤く〝ぽぉっ〟と光った。が、その光、発光現象はすぐに収まった為に輝夜は気付かずにぐっすりと夢の中だった。
まだ社務所の畳の間にいる父は黙ったまま俯いていた。
〝なあ、叶柄…。あれでよかったのか?私はあの子にお前の最期の様子を伝えるのが怖いんだ……………。〟
父は妻の叶柄の最期を思い出して嘆いていた。それは輝夜の記憶封印と関係している、父にとっては大切な二人を亡くしたような瞬間だったからだ。
そのまま静かに夜月神社の夜は更けていった…。
翌朝、いつものように凛とした空気に触れ、目が覚める輝夜。
日課の境内の掃除を済ませる。
そしていつもの満流の声によって学校へと行く準備にかかる。
なんだかんだと言って輝夜は幼馴染の満流と一緒にいる時間が結構楽しいようだ。しかも共通の秘密まで出来てしまったせいで、より二人の距離は縮まって、常に一緒にいることが増えた。
「ん?なんだよ、そんなマジマジと見てさ…。」
そう言うのは満流だ。
「ううん、何でもない。昨日ね、お父さんと少し話をしたの。」
そう話をしだした輝夜に満流は輝夜の顔を覗き込んで
「へぇ、珍しいな、お前が親父さんに話をするだなんて…。」
「べ、別に仲が悪いわけじゃないのよ?何となく少し距離感を感じるというか…。」
「だから、だよ。この際、いい機会だからもっと親父さんを頼りなよ。」
「んー、そうだね、私も小さい頃の記憶を少し取り戻したんだし、もう少し歩み寄ってみるね。」
そう輝夜が言うと安心したのか満流は〝ニカッツ〟と笑った。
輝夜はこの無邪気に笑う満流の笑顔が案外好きだ。満流は裏表がなく気さくな奴だ。もちろん、幼馴染っていうのもあるのだろうが…。何だか時々すごく頼りがいがあるように感じるのだった。
「ねえ、今日部活何時に終わるの?」
「んー、そうだな。もうじき大会が近いからちょっと遅くなるかもだわ。悪りい、先に帰っておいてくれ。」
「そうなんだ。じゃ、仕方ないから先に帰ってテストの為に少し勉強でもしておくかな。」
輝夜がそう言うと満流は
「ゲッ、テスト近かったんだな、相変わらず取り掛かるの早いよな。」
そう焦りながら言う満流に
「何言ってるのよ、あんたスポーツ推薦狙ってるんじゃないの?」
「んまぁ、それもあるけど、俺、輝夜と一緒の大学行きたいしなぁー。」
そういう満流に呆れながら
「そういう考えで決めちゃ駄目だと思うよ?大学卒業したら就職だし…。」
「それは心配いらんだろ?俺、神社継ぐ気あるし…。」
あっさりとそういう満流に対して輝夜は驚く。
「え、だったら尚更神道学科に進学すべきよ?!」
「お?輝夜、ちゃんと調べてたんだ。輝夜もそっちへ進むのか?」
少しおちゃらけて満流がそう言うと輝夜は冷めた表情で
「まだ決めてないわよ!それに今、悪鬼が復活してきてるんだから、それどころじゃないっていうか…。」
「だよな、……………。ま、ゆっくりと考えればいいんじゃないか?まだ俺ら二年だし。」
「…………………………。そうだね。……………ってほら、満流の教室は向こうだから!」
「お、いけね!ははっ、じゃ、また明日な!」
満流は慌てて自分の教室へと去って行った。
「もう………、おっちょこちょいなんだから。」
そういう輝夜の顔はどことなく楽しそうだった。
ご覧下さりありがとうございます。今回、対決シーンはありませんでした。今後の物語を展開していく上で重要な話を盛り込んでみました。今後の展開をお楽しみに!




