第13話:今度こそ…………!四人で誓う夜
────その日の夜月神社。
澄み切った空には綺麗な月が出ていた。
〝月…丸いなぁ…。もうすぐ満月かしら…。〟
輝夜は一人、境内へ出て狛犬の石造の近くでぼんやりと夜空を眺めていた。
〝今日のあの声は一体何だったのだろう……………。誰だったのだろう…。〟
輝夜は聞き覚えのない声に思考を巡らせていた。だが、どんなに思い描いても覚えがないので思いつきもしない。
〝最近は考えてもどうにもならない事が多くなったような気がするわ…。〟
そう思いながら、母からもらったお守りを握りしめた。
〝ねえ、お母さん……………。お母さんはどんな思いで悪鬼に立ち向かっていたの?その時、お母さんは一人だったの?お父さんは…その事をどこまで知っているの?〟
そう母に尋ねたいのに、母は既にこの世に存在しない。母の最期ですら輝夜はまだ小さすぎて覚えていないのだ。あの記憶の覚醒があった時、全てが思い出せたわけではなかった。ただ、輝夜には雷雨の夜に対してだけ尋常ではない恐怖を抱えているのだけは確かだった。
生ぬるい風が輝夜の鼻先をかすっていった。
〝また…、あの季節が来るのね…。〟
輝夜は視線を地面へと落とした。
「……………。」
そして小さく息を吐いた。
そんな輝夜の前に満流が現れ、静かに輝夜に語りかける。
「こんなとこで何してるんだよ。いくらもう夏がくるからと言って長居してると風邪引くぞ?」
そう言って輝夜に上着をかけた。満流の目が輝夜を心から心配しているのが伝わってきた。
「うん、…ありがとう……………。」
それだけ言って輝夜は俯いてしまった。満流はそんな輝夜を見てフッと小さく息を吐いて空を見上げて輝夜に声をかけた。
「なあ、何か悩みでもあんのか?」
輝夜はドキッとした。
〝悩み?満流のことはもう気にしないで目の前の満流を信じるって決めたわ。だったら今の私は…?〟
輝夜が答えられずにいると満流が話しだした。
「俺もちょっと考えてたんだが、……………お前のお袋さん、封印を解けなかったって狛たちが言ってたな。」
「………………、うん。」
「狛たちはどこまでお前のお袋さんのことを知ってるんだろうな…?」
「あ、そうね……………。狛ちゃんたちの封印が解けなくて代わりに悪鬼を封じたって言ってたわね。」
そう輝夜が返答してふたりで狛犬たちを見た。
「……………。」
もちろん、狛犬たちからは返事はこなかった。その様子を見て満流が〝チッ〟と舌打ちをしてから
「なあ、お前たち、知らんぷりは今更なしだぜ?」
そう鋭く言い放った。
すると諦めたのか、狛犬たちはまた子供の姿になって二人の前に現れた。
「クスクス。その姿、久しぶりね。」
輝夜は子供が好きだから喜んでいるが、満流はそんな姿には騙されていなかった。満流には目の前の子供の姿の狛犬たちからは〝雄〟として〝成人〟の気配を纏っているのが見えているからだ。
「輝夜ぁ、会いたかったぁ!」
そう言って輝夜に抱きつこうとするものだから、慌てて満流がそれを阻止した。
「全く!油断も隙も無い!」
「ちぇっ、満流のケチ!」
「その姿で輝夜を惑わすんじゃないぞ?」
満流は二人に牽制をしたうえで
「輝夜もだ。アイツらあの恰好なのは消費を抑えるためで、本来はちゃんと成人してるんだからな!」
「え?でもダナは女の子だから大丈夫でしょ?」
「~~~~っつ!」
本当の事を言いたいけど、何か問題があった時に対処出来ないから我慢する満流。そんな満流を見て勝ち誇ったような顔をするダナ。
〝クソッ〟満流は思わず心の中で呟いた。
「そうだわ。本題に入らなくちゃ!ねえ、狛ちゃんたち。あなたたちはお母さんの時、どうだったの?」
ケンとダナは顔を見合わせてから
「輝夜、君のお母さんは妖力しか持っていなかったんだ。だから7つの封印を解くことが出来なかった。それは神の信徒である僕たちの封印を解けなかったからだ。」
「え…?正鬼は霊力も持っているんじゃないの?」
輝夜は当然のことだと思っていたが、
「輝夜は正鬼の母と神主の父から産まれてるから、妖力と霊力を兼ね備えているんだよ。君が特別なんだ。だから代々の正鬼の〝姫〟は悪鬼を殲滅させれずに封印するしか出来なかった。全ては君に期待されてるんだ。君が持っている霊力は君も知っての通り、悪鬼にとっては猛毒だ。」
「代々の正鬼の〝姫〟は全員自分を犠牲にしてきた……………ってこと?」
「ああ、僕らも目の前で君のお母さんが苦悩していたのを見て来た。僕らも封印を解いてもらわないとどんなに君らが苦しんでいてもどうにも出来ないからね……………。」
そう言って狛犬たちは悲しそうな顔をした。
「そっか……………。狛ちゃん達もお母さんを助けたくても出来なくて悔しかったんだね……………。」
輝夜も狛たちの気持ちを察して落ち込んでしまい、その場はしんみりとした空気が漂っていた。
「だったら!俺らで終わらせようぜ!」
満流がそう、強く言った。三人が満流の方を見た。そこには揺らぎのない、信念で満ち溢れている一人の男が立っていた。
「満流…。」
「そうだよ、満流の言う通り、今度こそ!」
「うん、今度こそ!」
狛たちもそう言う。輝夜もうなずいて
「うん…、私達の手でこの戦いを終わらせよう!」
四人は結束して決意を新たにした。もうじき夏だというが、まだ涼しい夜の神社。四人の周りだけは不思議な空気が纏ってた。
***
そんなある日、街中で幸恵を輝夜たちは見かけた。幸恵、神田幸恵だ。母が癌で毎朝輝夜の神社にお参りに来ている女性だ。相変わらずずっと来ており、輝夜も満流もただ、挨拶をするだけだがそっと二人で彼女を見守ってきていた。
そんな彼女が少し先で男性と口論になっているようだった。それを見た輝夜たちは幸恵の元に駆け寄った。
「どうしたんですか?幸恵さん、大丈夫ですか?」
輝夜たちが幸恵と男性の間に割って入った。
「輝夜さんっ!」
「お前は何だ?俺は彼女の上司だが?」
そう言ったのは彼女に迫っている専務の鈴木だった。幸恵の母の治療費の為に幸恵に愛人契約の話をもちかけた人物だった。
「専務っ、そのお話は以前ちゃんとお断りいたしました!」
「わしはまだ諦められんのだよ、君。」
そう言って鈴木は幸恵の肩を抱こうとした。その手を輝夜は払いのけて、
「本人、嫌がってますけど?それって〝セクハラ〟って言うんですよ?」
毅然とした態度で言った。それを聞いて鈴木は激高した。
「はっ!小娘が偉そうに!」
そう言い放った鈴木の足元の影は大きな揺らめきを見せた。
「輝夜、コイツ…。」
満流が輝夜に耳打ちする。
「うん、わかってる。」
満流がうなずいて、
「幸恵さん連れて離れてろ!」
と輝夜に言った。
輝夜は幸恵の手を取ってその場から逃げようと駆け出す。
「待てっ!この野郎っ!何てことするんだ!?」
鈴木は幸恵が逃げてしまったので目の前で邪魔をした満流に殴りかかろうとした。だが、満流は運動神経がいいので〝ひょいっ〟とその攻撃をのけた。
「おじさん!いい役職にも就いてんのに、こんなことで全てがパーになってもいいんだ?」
そう言って鈴木をわざと煽った。
「はあ?このクソガキがっ!」
そう言って満流を追いかける!どんどん町から外れて戦うのに適している場所へと誘導していく満流。
〝へえ、悪鬼が憑いてる人間てのは限界がないんだな、おっさんの年齢でこのスピードについてこられるとはね、しかもこの暑苦しさなのにさ、〟
満流は全身で汗をかきながら冷静な顔でそう考えていた。
そして誰もいない公園まで誘導した時、
「待ってたわよ、満流!」
既に輝夜がスタンバイしていた。
「やっぱ、お前凄いわ。」
「あんたの考えなんてお見通しなんだから!」
その時の輝夜は覚醒した姿だった。────そう、この公園には既に鈴木が足を踏み入れた時に瞬間的に結界が張られたのだ。そして輝夜のその姿を見た鈴木は気を失って代わりにとり憑いていた悪鬼が本格的に目を覚ました!
〝オマエハッツ!〟
そう言って大きく動揺したかと思うと、いきなり影が巨大化した。悪鬼にとって正鬼は敵対する一族であり、輝夜の姿は正鬼の〝姫〟。正鬼の姫相手に本来の姿にならなければ勝ち目がないからだ。
そして巨大化した悪鬼は輝夜に向かて牙を剥く!
だが、満流はそれを黙って見過ごさなかった。すかさず霊札を取り出しては悪鬼の影に放つ!が、悪鬼はその札を払いのけてしまった。
「クソッツ!」
満流は悔しそうにそう言って再度悪鬼の隙を狙って霊札を思いっきり放つ!
〝……………!?〟
悪鬼は一度満流からの攻撃を回避したことで満流に対して眼中になく、輝夜にだけ気を向けていたので、満流によって足を捕獲されるとは思っていなかったようだ。動けなくなった悪鬼は脱出しようと暴れる…。
「輝夜!早く!」
「ええ、わかった!────神刀、影切っ、召喚っ!」
そう言って自身の左手から影切刀を取り出し、両手で構えて悪鬼に向かって走り出し、思いっきり影切を振りかざして影を刺す!
「悪鬼っ!────断つ!!」
輝夜の身体から影切刀を通して輝夜の霊力が大量に注ぎこまれる!これらは一瞬の出来事で
〝グォォォォォォォォォォーッ‼〟
悲鳴をあげて悪鬼は光を纏って昇天した。
輝夜と満流の間に、またもやカードがヒラリと舞い落ちた。
輝夜が手に取り、
「ポーンね。」
と呟いた。
「と、いうことは…。あと3枚か?」
「うん、あとポーン3枚。そしてキングとクイーン。」
輝夜が静かにそう付け足した。
「ポーンの手の入れ方はわかったけど、キングやクイーンはどうなんだろう…。同じように悪鬼を退治すれば出現するのだろうか…。だとすればコイツらの〝長〟みたいなもんだろ?すげぇ強いんじゃ……………。」
「そうね……………。覚悟していかなきゃね。」
「ああ、だけど、必ずしも順番ってわけじゃないよな?イレギュラーだってあり得る。」
二人は不安を覚え、一刻も早く悪鬼たちとの決着をつけたいという焦りの気持ちが出てきた。
ご覧下さりありがとうございます。満流の状況は相変わらずわからないままですが、輝夜を大切に思う気持ちはどうやら本物のようですね。輝夜、満流、そして狛犬たち。母の叶わなかった願いを叶えるために団結して誓うのでした。




