第1話:揺らめく影―思い出した使命!
澄んだ空気がその場を凛とした空間に変える…ここは夜月神社。その神社の神主の娘であり、巫女の夜月輝夜(17)高校2年は今日も朝陽が昇る前から境内にいた────
肩を少し越えた黒髪を後ろでひとつに軽く結んで纏う巫女装束は清楚な彼女によく似合っていた。
空にはまだ薄らと月が見て取れる。
境内をホウキで掃いていた輝夜は空を眺めてから呟いた。
「ふぅ──。これだけ空が澄んでいたら今日もいいお天気になりそうだわ。」
そしてすぐにまた掃除を再開する。
空が薄明るくなってきた頃、境内に続く階段を登る足音が聞こえてくる。
〝あ…、今日も来られたのね。これでもう二週間…、どうやら訳ありのようね。〟
輝夜はその足音の人物が誰であるか気付いているようだった。
その人は一礼してから鳥居をくぐり、手水舎で手を洗い、口を漱いで…と、一連の作法を真剣に行い、そのまま社殿へと向かった。そしてお賽銭を入れて鈴を鳴らし、三度深くお辞儀、両手を合わせて右手だけを少しずらして三度拍手をして願い事を唱えていた。長い沈黙が続く。境内ではスズメがチュンチュン鳴く声が聞こえてきた。
スッとその人物が目を開き、深く一度お辞儀をして社殿を後にした。
輝夜はそっとその流れを遠く離れて見ていた。いつもはそのまま静かに会釈をして終わるのだが、この日は違った。輝夜はその人物に近付いて行った。
「あ…、あの…。」
輝夜が恐る恐る声を掛けると、その人物は輝夜の方を見た。
「はい…。何か…?」
ぶっきらぼうに答えたその人物はその答え方には似つかないような華奢な女性だ。長い前髪が揺れた隙間から見えた瞳は潤んでいた。
〝ぶっきらぼうな返答だと思ったけど、涙ぐんでいたからなのね…。〟
輝夜は悟った。
「いつもこの時間帯にお参りに来て下さってますね。何かご事情が?差支えなければ苦しい胸の内をほんの少しお話されませんか?私でよければお聞きしますので…。」
そう女性に問いかけた。
女性は今にも泣きだしそうな気持を耐え唇をギュッとして
「ご存知だったのですね…。ほんの一瞬ですし、わからないかと思ってました。」
「参拝方法がとてもしっかりとなさって心がこもっておりましたので…。」
女性ははにかむようにしながら
「そうですか…。お恥ずかしながら母が癌を患っており、余命幾ばくもないと告げられまして…。うちは母と私でずっと暮らしてきたので、その母を失うのが怖くて神頼みにきました…。」
女性のその言葉を聞いて輝夜は彼女に同情して
「そうなんですね…。それはお辛いでしょう…。ただでさえ辛い申告を…。二人きりの生活となると色んな思いが巡りますよね。」
「ええ、母は苦労して私を育ててくれたのに、私はまだ何も母に恩返し出来てないんです…。それを思うと母が不憫で…。」
「あなたの気持ちは痛いほどわかります。」
「………………。」
その女性はとうとう涙をポロリと零した。
「お母様はまだご存命ですので、しっかりと寄り添って差し上げて下さい。あなたが出来る事を全てしてあげたらよいかと思います。ただ、その事であなたが無理をしてしまうのはお母様にとってもお辛いことですので、あなたも無理をなさらないようにして下さいね。」
「………………。ありがとうございます。そうですよね、まだ時間がありますもの、私の出来ることをしてみます。」
「ええ、無理のないように……………。」
そうしてその女性は輝夜にお辞儀をして境内を後にした。彼女の名前は神田幸恵26歳だ。このあと仕事なのだろう、パンツスーツをピシッと着こなしていた。
輝夜もお辞儀をして幸恵を見送った。そして掃除の続きをしてすっかり周りが明るくなった頃、
〝そろそろ、時間だな。〟
輝夜がそう思った時、境内の外から声が聞こえてきた。
「輝夜っ!」
声を聞いて輝夜はクスっと笑った。〝時間ピッタリだな。〟
境内に現れたのは幼なじみでもある神凪満流(17)で少し離れた神凪神社の息子だ。小さい頃に市町村の神社総会に出席する父に付いて行った時に出会ってからずっと輝夜に懐いていた同学年の男子高校生だ。
「まだ掃除やってんのか?早く用意しないと学校に遅れるぞ?」
「うん、ごめん。用意してくるわ。」
そう言って輝夜は社務所に戻って行った。満流は小走りで去って行く輝夜の後ろ姿を見送った。
一人残った満流は境内を見回した。
〝いつも思うけど、輝夜は一体何時から掃除してるんだ?こんなに綺麗にするなんて。〟
と感心していた。実は満流も朝から境内を掃除するが、いつも神主である父にもっと丁寧にと怒られるからだ。
「ごめんー。お待たせ。」
しばらくして輝夜が戻ってきた。制服姿の輝夜を見るとやっぱり高校生なんだと実感する。多分姿勢がいいからだろう、巫女装束だと大人びて見えるのだった。
夜の公園
ブランコに座っているのは神田幸恵だった。何やら思い出しているようだ。
「高額な治療代を稼ぐなら俺が変わりに出してやってもいいぞ?ただし、お前が俺の愛人になってくれたら!の話だがな。」
「この前の話は考えたか?早くしないといい治療が受けられないんじゃないか?」
これらは専務の鈴木が幸恵に迫った言葉の数々だった。それらが幸恵の頭の中をグルグル回って幸恵の気持ちを曇らせていた。
〝悔しいが専務の鈴木に頼るしかないのか…!〟
一刻も早く母にいい治療を受けさせたいという思いと〝愛人〟という事への不安と怒りと誘惑に幸恵は迷っていた。ただひたすら母を救いたい一心なのだ。
そんな時、幸恵の足元の影が揺らぐ……………。
〝フカク カンガエナクテモ イイジャン。テットリバヤク オカネガ テニ ハイルンダ……………。〟
悪魔の声が幸恵の頭に響く……………。幸恵は頭を抱えていた。
そんな時、幸恵のいる公園のそばを通ったのは輝夜と満流だった。
「あ…、あれは幸恵さん……………?」
夜の公園で一人でいる幸恵の姿を見つけたのは輝夜だ。満流の部活が終わってからの帰宅途中だった。
「なんだ?知ってる人か?……………ん?なんか、様子がおかしくないか?」
満流がそう言った。輝夜は幸恵をよく見るといつもの彼女とは雰囲気からして違った。咄嗟に幸恵に駆け寄る輝夜。そしてその輝夜の後を追う満流。
「幸恵さん!どうしたの?」
その声を発端に幸恵の影が大きく揺らめいて幸恵の前に立ちはだかった!
「えっ?!何???何が起こってるの?」
輝夜は驚いてその場で立ちすくんでしまった。
影が輝夜に襲いかかる!
迷わず輝夜の前に飛び出した満流!
〝このままでは二人ともやられてしまう‼〟
そう思った時、〝パ───ッ!〟と輝夜の身体を光が包んだ!眩いその光は輝きを増していく…。
その光を浴びて影はよろめいた。その隙に輝夜と満流は影から距離を取った。が、輝夜の身体はまだ発光している。
「輝夜…………?」
満流が心配そうに輝夜を見守る。
やがて光が徐々に消えていき、輝夜の姿が露わになった。
「輝夜っ?お前っ!髪???」
そう、そこにいた輝夜の髪は銀髪になっていた。そして輝夜の瞳も赤く…揺らめいていた。制服を着ていたはずなのに巫女服のような違う服に変わっていた。そんな輝夜を見て驚いていた満流。
「……………。満流。」
輝夜がポツリと言葉を発した。
〝な…んだ?いつもとは違う輝夜の声?威圧的だ…!!〟
その存在感に満流は冷や汗をかいて動けない………。
満流とは対照的に輝夜は語り出す。
「思い出したわ。私は神主の父と正鬼の母を持つ鬼一族の姫。私の使命は母の一族の使命、悪鬼を退治する事‼そして、あなたも思い出して!」
輝夜は満流に対してそう言い放ち、満流を指さした。すると満流は金縛りに遭い、同時に激しい頭痛が襲った!
〝うぅ…。頭が…ギンギンして割れそうだ…‼〟
満流はギュッと目を瞑った。大量に流れ込む記憶が満流の頭を締め付ける…。一気に流れ込んだ記憶がオーバーヒート寸前で落ち着きを取り戻したようだった。
「────────ッ!……!ハァ、ハァ、ハァ…。」
痛みから解放され、項垂れる満流。額から激痛に耐えた痕跡の汗が流れていた。
「ああ…。思い出したよ。…輝夜。俺はお前を守るナイトだ!」
そう言って満流も立ち上がった。
影は一度はひるんだものの、輝夜の姿を見て驚いていた。
〝オ…。オマエノ ソノ カッコウハ…‼アノ イチゾクノ……!! ?〟
輝夜は悪鬼を睨みつけて
「悪鬼!お前を断つ!」
輝夜の髪が神気で満ち溢れ、瞳には強い霊力が宿って揺らめいている…。そして、輝夜は左手を伸ばして手を広げ、妖力が入り乱れる手の平から神刀、影切を神力で呼び出して影切を構えて悪鬼に向かう。
すかさず満流のサポートが入る!
霊札を悪鬼の影に向かって放つ!
〝ヌォォォォォォォ────!〟
影は動きを止められたせいで藻掻き苦しんでいる!
「今だっ‼輝夜!」
「任せてっ!」
輝夜は ザッ‼と影に向かって影切を突き刺した!
〝フガ────────ッ‼〟
と影が声をあげて苦しんだかと思うと輝夜を包んだ光のように発光してから光の粒となって消えていった。
「……………。やったわ、満流。」
「ああ。驚いたな。はは…。」
輝夜は満流に向けてふっと笑ってから幸恵の方に向かって駆け寄った。よく見ると輝夜の姿はもう元の高校生の輝夜になっていた。
そして二人の前にヒラヒラと一枚のカードが落ちて来た。
「……………?何かしら………。」
輝夜がそのカードを拾うとそこにはチェスの駒の絵が描かれており、その駒は「ナイト」だった。
「何だ?これは何か意味があるのかな…?」
満流もそのカードを不思議そうに見ていた。
「確かにあの悪鬼が消滅した時の光の粒から出てきたわよね?取り敢えず保管しておきましょうか…。」
そう言って輝夜は胸のポケットにカードをしまい込んで幸恵の元へと歩み寄った。
「幸恵さん!幸恵さん!大丈夫?」
ふらぁ~としていた幸恵が輝夜の声で正気を取り戻す。
「あ…、私、どうしてここに…。」
そして輝夜の方を見て
「あなたは…今朝の…。」
輝夜はコクンと頷いた。
「あなた、高校生だったのね…。しっかりした答えをもらったから少し年下位であんまり変わらないんだと思っていたわ。まさかまだ高校生だったとは…。でも、今朝はありがとう。お陰で気持ちは固まったのだけど、どうしても現実問題がね…。」
「幸恵さん…。お母様のためにと思ってされるのはいいのですが、あなたが無理をしてはお母様が辛くなります。ご自身を大切にして、病院にがん患者の為のケアセンターがあると思うんです。そちらに相談されてはいかがでしょうか?」
「そうね、私、一人で抱え込みすぎていたのね。」
「そうみたいですね。でも、あなたは一人じゃない、頼り方を知らなかっただけで手を伸ばせば誰でも助けてくれると思います。どうか勇気を持って、そして自分を責めないで下さいね。」
輝夜がそういうと幸恵はポロポロと泣きながら
「ありがとう…。ありがとう…。」
と何度も御礼を言っていた。
そして次の日も同じ時間に幸恵は輝夜が掃除をしている境内にやってきた。
輝夜の姿を見つけた幸恵はニッコリと笑って輝夜に深くお辞儀をした。輝夜もそんな幸恵を見て
〝もう…大丈夫みたいね。〟
と心の中で思って安心した。
ご覧下さりありがとうございます。今作の元となるお話はアメブロで書いておいり、その時はAIに本文を依頼しておりました。その時も作品の構成は私自身が作ったものであります。
今回の作品は本文も全て私が書いております。同じ「輝夜・満流・悪鬼・影切刀」などありますが、前回のものとは違うパラレルワールドのような感覚で見て頂くとよいかもしれません。
今回も1話完結型にしたいと思います。この形での挑戦は初めてとなり、かなり不安な中からスタートしました。
が、1エピソードが7万文字以内ですので、安心して取り組んでいきたいと思います。
毎回一人人物を登場させて、それぞれの悩みを盛り込んでの展開となる為、どこまで書いていけるかが心配ですが、「進まなければ何も変わらない」をモットーに頑張ってみたいと思います。
―慧依琉―




