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00.いつもの朝

00.いつもの朝


 ────血の臭いが、辺りを満たす。

 暗く、曇り空が心を不安定にする。

 これは、遠い昔の記憶だ。

 戦いの日々の中に身を投じ、剣を振るって敵を倒す。

 周辺には横たわる敵。それがどれ程の数かは知らない。

『はぁ……はぁ……』

 肉体の疲労よりも心が悲鳴を上げている。

 剣を支えに、荒い呼吸を繰り返す。

 …………苦しい。

 戦場に立つ身。こんな思いをするのは覚悟していた筈だ。

 だというのに、自分は情けなくも、この場に耐えられなかった。

『──クレル』

 自分を呼ぶ、落ち着いた声。

 クレル、というのは自分の愛称。親しい者が呼んでくれるものだ。

 クレルはゆっくり顔を上げ、自分の前に立つ人物を視界に入れた。

『……アリス……』

 幼馴染みであり、親戚筋の兄の様な存在のアリスが、クレルに手を差し出してくれていた。

 クレルはその手を取った。

『……ごめん、アリス。 俺は──』

 追い詰められ、疲弊した精神のクレルを察しているのか、アリスは冷静だった。

 元々、滅多なことでは取り乱さないアリスだ。それでも、アリスといえどクレルのように、戦いに疲弊しているのだろう。

 互いの顔に疲労の色が見える。

 クレルは自分の顔についた誰かの血を、戦装束の袖で拭う。

『一度、前線から退こう。クレル』

 アリスの言葉にクレルは驚愕する。

『……だ、大丈夫だ! まだ、やれる!』

『そんな精神状態では無理だ』

 アリスの声はやはり、冷静だ。

 …………俺は、まだ戦える。

 クレルがそう思っても、アリスの考えは違った。

 アリスから見えるクレルは、精神が追い詰められ、戦場に立つには危険な状態だ。

 可愛い弟分がこんなにもやつれて、前線に出ている。

 アリスは眉を寄せ、クレルに告げる。

『危険だ』

 はっきりとアリスに告げられたクレルは眉を下げる。

『隊長が穴埋めにこっちへ来る。お前とお前の部隊は前線から一時撤退の指示が飛んでいる』

 アリスの冷静な言葉にクレルは顔を俯かせ、血溜まりのある地面を見つめた。

 自分では気づかなった。

 このまま戦場に立つには危険、と判断されたのだ。

『隊長……』

 弱々しく、クレルは呟く。

 彼にも、迷惑をかけてしまうのか。そして、不甲斐ない自分の姿を部下に見せてしまうのか。

 クレルは自分への情けなさに、心が締め付けられる気分を味わう。

 そんなクレルへアリスが言う。

『少し、休め。 ……ルークが来ていたぞ』

 ルークが来ている、とアリスに教えられたクレルは目を大きく開く。

『陛下が……? 陸軍を鼓舞しにか……?』

 クレルは不思議だった。

 アリスと自分が所属している軍は王の訪問がなくともやっていけるような軍だ。

 元から故郷を守るために立ち上がった者達の集まりだ。士気は問題ない。

『お前の顔を見に来てるのだろう』

 アリスに言われ、クレルは変な表情をした。

 目が点になったようだ。

 …………何故?

 ルークとクレルには確執があったからだ。

 敵対関係にまで拗れた。

 クレルは首を横に傾ける。

『えぇ……』

 戸惑いの声が口から漏れた。


 ────呑気な機械音が鳴る。

 それが追憶の夢から現実へとクレルを導いた。

 クレルは重たい瞼を上げ、金色の目に自室を映す。

 視界の中には見慣れた天井と照明。

 …………あ、朝か。

 クレルはベッドの横に置かれたテーブルの上でけたたましく、呑気に鳴く目覚まし機械に手を伸ばした。


 ●


 クレルは腕で両眼を覆う。

 目覚めの気怠さと、複雑な心情になる夢見に、クレルは大きなため息を吐いた。

「はぁ────」

 起きなければ、と思う。

 先ずは目覚ましの機械を止めようと、身体を動かす。

 呑気な音に、やかましく鳴っている。設定したのはクレル本人だが。

 クレルは寝起きの重い身体を動かし、機械を止める。

 眠気が身体に残る中、一緒に寝ているぱるふを見る。

 ベッドの上で眠っているぱるふは長い耳を垂れさせ、頭を枕に沈めている。

〈おはようございます! クレル様!〉

 元気の良い声がクレルの耳に届く。

 母が可愛がっている自動人形がクレルの部屋に飛び込んできた。

「おはよ〜、ころん」

 部屋を開け、飛んできたころんは羽根を動かし、クレルのもとへとやってくる。

 クレルの母が可愛がっており、大切にしている自動人形のころんは朝から元気で明るい。

 母がころんを購入する時に「出来れば明るい性格の子が良いわぁ〜」ところんを選んだ。

 腕の中に飛んできたころんの体を撫でる。

 ころんの体はふわふわした感触をしており、手触りが良い。

〈くすぐったいです〜! あ、シュリ様が来ましたよ!〉

 ころんの言葉にクレルは部屋の扉を見ると、弟のシュリが開けっぱなしの扉からこちらを覗いていた。

「…………」

 シュリは無言。

 お喋りな性質ではない弟に慣れているクレルは、シュリに朝の挨拶をした。

「おはよう、シュリ」

 クレルがにっこりと笑顔をシュリに向ける。

 シュリは小さく頷き。

「……おはよう……、姉さん」

 と、小声で返してきた。

 クレルと同じ、鮮やかなピンク色の長い髪、金色の眼。端正な顔立ちの持ち主で黙っていても、人を惹きつける。

 シュリは不思議な魅力を持つ美青年だ。

「朝ご飯食べた?」

 クレルは弟に訊く。

「……まだ。姉さんが起きるの待っていた……」

 シュリは呟くように言った。

「ああ、ごめん。待っていてくれたんだ、ありがとう」

「……大丈夫」

 昔からクレルの後をついて歩いてくるシュリ。

 クレルはそんな弟を可愛く思っており、姉弟仲は相思相愛だ。

 仲が良い姉弟のやりとりを聞いていたころんが、頭についている長い耳をぴょこぴょこ動かす。

〈朝ご飯、ママさんが用意してますよ〉

 ママさん、というのは姉弟の母親のことだ。

 姉弟の母はふんわりとした可愛らしい女性。クレルとシュリの髪の色は母親譲りだ。

 クレルは母が料理している姿を思い浮かべ、夢見で不安定だった心が落ち着く。

「…………」

 姉の表情を見て察していたシュリは無言でクレルの顔を見つめていた。


 ────朝ご飯の良い匂いがする。

 二階から一階へ降りてきたクレルは朝ご飯の良い匂いに笑みを浮かべる。腕の中にはぱるふがいる。

「美味しそうな匂い」

 勿論、母の手料理は美味しい。

 長年食べている母の料理は慣れ親しんだ味。

 クレルは「今日の朝ご飯は何かな〜」と、頬に手を当てて想像する。

 姉弟はころんとぱるふを連れて一階の廊下を歩きつつ、母親がいるであろうキッチンへと向かう。

 キッチンでは母親のマナが鼻歌を歌いながら料理している。キッチンには五人掛けの円型のテーブルが置かれており、一つの席には姉弟の父親が座っている。

 クレルとシュリはキッチンに入ると、両親に朝の挨拶をした。

「おはよう〜!」

「…………おはよう」

 姉弟の挨拶にマナの明るい返事。

「おはよう〜! クレル、シュリ」

 朝ご飯に出すサラダを用意しながら、母のマナは可愛らしい笑顔をし、姉弟に返す。

 綺麗なピンク色のふわふわとゆるいウェーブがかかった長い髪と、大きな金色の瞳が愛らしいマナ。幼さの残る顔立ちが若々しく、シュリやクレルの方が歳上に見える程。

 料理をするマナを眺めつつ、座っている姉弟の父親も挨拶を返してきた。

「……おはよう」

 クレルとシュリの父親。名前はユエという。

 髪は姉弟とは違う、銀色の美しい長い髪。金色の両眼。顔立ちはシュリに似ており、人を魅了する美しさがあった。

 性格は寡黙。そういうところもシュリと似ている。

 料理している妻の姿を見るのが好きな父親は朝も早くから、妻であるマナと一緒に起きている。

 クレルは今日も両親は仲良さそうだ、と満足した。

〈マナ様〜! レティー様は、今日はお仕事ですか?〉

 背中についた羽根を動かし、ころんはマナの横へと飛んでいく。

 ころんが口にしたレティーという名前はクレルとシュリの妹。末っ子の名前だ。

「うん、ちょっと遠いとこみたい。朝までに帰ってこれないって連絡があったの」

 マナは言うと、ボウルに入れた野菜にドレッシングをかける。

 続けて、マナは横にいるころんへ言う。

「ころん、アリエルちゃん起こしてきてもらっていい?」

〈はいです! マナ様!〉

 頼まれたころんは良い返事をし、アリエルを起こしに、張り切ってキッチンを出て行った。

 飛んでいくころんの姿を見送ったクレルは自分の腕の中で眠るぱるふを見た。

 いつもは立っている長い耳を垂れさせ、すやすやと熟睡している。

「ぱるふ! 朝だよ〜」

 クレルは自分の腕を揺すり、ぱるふを起こす。

 腕の中のぱるふは「ん〜!」とむずがるような声を上げる。

「朝ですよ〜!」

 クレルの声にぱるふは頭を横に振った。

 起きたくないらしい。

「ぱるふさん、お着替えしましょう?」

 起きたくないぱるふにクレルは諦めずに声をかけた。

 ぱるふは重たいであろう瞼を開け、丸くころころした金色の瞳を見せる。

 口は不満そうにへの字に曲げられている。

「ぷー!」

 どうやら怒っているようだ。

 気持ちよく寝ていたところを無理矢理起こされ、ご機嫌が斜めなのだろう。

 目覚ましの機械の音には起きないので、こうやって起こすのだ。

 不機嫌を主張してくるぱるふにクレルは苦笑を浮かべる。

「はいはい、ぱるふちゃん。朝ですよ〜」

「ぷ〜! まだ、寝るの〜!」

 まだ眠りたい、というぱるふにクレルはにっこり笑顔を向けた。

「だーめ! はい、お着替えしましょうね〜!」

 クレルはぱるふを腕に抱えたまま、魔法を使う。

 魔法はぱるふの身体を包み込み、ぱるふの服が寝間着から日常用の服に変わる。クレルの魔法によって、ぱるふの服が可愛らしいものに。

 ぱるふはフリルたっぷりの服を見て、「わあ〜」と嬉しそうな声を上げる。

 機嫌はどうやら上へと向かったらしい。

「かわいい〜!」

 ぱるふは自分の顔に手を当て、目を輝かせる。

 白い袖にもフリルが付いており、膝丈のスカートにもたっぷりのフリル。

 満足気なぱるふにクレルは安堵の息を吐き出す。

 …………良かった。機嫌、戻ったみたい。

 ぱるふはクレルと顔を合わせる。

「シュリにも見せてい〜い?」

 ぱるふが訊いてくるのでクレルは頷く。

 クレルは腕を広げる。すると、ぱるふはふよふよと浮遊し、シュリのもとへと向かう。

 飛んできたぱるふを迎えたシュリはぱるふに言葉をかける。

「……うん、かわいい……」

 シュリの言葉にぱるふは「きゃー!」と嬉しい悲鳴を上げる。

 ぱるふは頬を朱に染め、喜びの表情を浮かべた。

 そのまま、勢いよくシュリに抱きつき、ぱるふはシュリの胸元に頬を擦り付けた。

「嬉しい〜! ぱるふとシュリは相思相愛だね!」

 ぱるふは恋焦がれる少女のような言葉をシュリに言う。

 シュリの反応はと言うと。

「…………」

 無言である。

「そこは王子様みたいに『うん、俺もだよ』って言うとこだよ〜⁉︎」

 ぱるふは叫んだ。

 シュリは首を横に傾け、微笑む。

「……王子様?」

 美しいシュリの微笑み。それを向けられたぱるふは自分の手で、自分の目を覆った。

 照れてしまったのだろう。

 クレルは微笑ましい、とシュリとぱるふを見守った。

「……クレル、今日の予定はどうなっている?」

 今まで発言しなかった父親のユエが口を開いた。

 クレルはユエの問いに「んー」と自分の顎に指をあてる。

 ……予定、どうなっていたかな?

 指を動かし、画面を起動する。空間に表示された四角い枠の中に様々な情報が流れている。クレルは画面を操作し、メール画面を出す。

 ……うーん、隊長からの連絡は特にないか。

 クレルは画面を閉じる。

「今日は特に無いみたい。隊長、休みかなぁ……」

「……珍しいな……」

 ユエは目を細める。

 クレルが隊長と呼ぶ人物を、ユエはよく知っている。瞼の裏に思い出せば、すぐに自分と同じ銀色の髪を持つ男の姿が浮かぶ。

 ユエはマナに淹れてもらった茶を飲み、一息吐く。

「……連絡が入るまでは待機か」

 父の呟きを拾ったクレルは顔を伏せる。

 平和であるのなら、それが一番良い。自分たちが動くような事は無いのが良いのだ。

 クレルはそう思いながらも、どこか不安を心に感じる。

 何故か、不安なのだ。

「……クレル?」

 サラダを作っていたマナが娘の様子に気がつき、声をかけてくれた。

 クレルは頭を横に振った。

「……あ、うん、ごめん。そうだ、お母さん、手伝うよ。お皿出せばいい?」

 まるで誤魔化すようにクレルは母に言った。

 クレルの様子に母親として勘づく部分もあったが、マナは笑顔を浮かべ、娘に応える。

「そうね、お皿だしてもらおうかな」

 ふんわりと包み込むような母の空気にクレルは頷くと、勝手知ったる我が家のキッチンを歩く。

 皿が仕舞われている棚を開け、皿を数枚取り出して抱える。

 そんなクレルのもとへシュリとぱるふがやってきた。

「……手伝う」

「ぱるふもー!」

 申し出てきたシュリとぱるふに、クレルは微笑みを向けた。

「じゃあ、シュリにはお皿。ぱるふはスプーン持っていって」

 クレルの指示にシュリとぱるふは頷く。

 それぞれの任せられた役割につく。

 ぱるふは浮遊しながら、スプーンをテーブルへと持っていく。

「……ぱるふ、クレルの夢見が悪かったのか」

 ユエがぱるふに訊く。

 訊かれたぱるふは特に悩む素振りも見せず、答えた。

「うん、いつもの。過去の記憶〜」

「そうか……」

 ユエは納得し、娘に視線をやる。

 父親の視線に気がついたクレルは気まずそうに目を逸らした。クレルの態度にユエはため息を吐く。

 娘が過去を引きずっているのは仕方のないことだ。それは、ユエにも分かっている。

 だが、父親として案じずにはいられない。

「クレル」

 ユエはクレルを呼ぶ。

 クレルは目を大きく開き、シュリに視線を向ける。視線を受けたシュリは落ち着いた表情で目を閉じ、首を横に振った。

 ……シュリ⁈

 弟からの助け舟は期待できそうにない。

 クレルは諦めて父親の前へと歩いていく。

 努めて落ちつかせようと、心を安定させる。

 が、父親の金色の目はクレルを射抜いているようだった。

「……クレル、精神が乱れている」

「──う!」

 指摘されたクレルは声を詰まらせる。

 父親は無表情のまま、クレルを見つめた。ユエの美しい金色の両眼にクレルが映る。

 その眼にはクレルの心も見抜いているかのようで、クレルは取り繕う言葉しか言えない。

「お父さん、だ……大丈夫です……」

「大丈夫? 何がだ」

「うぅ……」

 責めているのではない事は父親の声音で分かる。

 しかし、クレルはユエにどう言うべきか悩む。

「……大丈夫だよ、本当に」

 大丈夫だと、声を振り絞るクレルの手に、ユエは触れる。

 父の手の温もりがクレルにも伝わる。

 ずっと、自分は家族に心配かけていると、クレルも頭では分かっていた。

 口にした『大丈夫』という言葉が自分自身を呪っているようにさえ、感じてしまう。

 けれども、クレルは言うのだ。繰り返し、何度も。

「……大丈夫。私は、大丈夫。──あ、お母さん、私、アリエルところんの様子見てくるよ」

 言って、母の返事を待たずにクレルはキッチンから足早に出た。

「クレル……、あの子ったら……」

 マナは眉を下げ、クレルの心を思う。

 ……背負わせてしまったのよね、あの子に……。

 クレルが過去の記憶を見るたびに、マナは感じる。クレルに多くのものを背負わせてしまったのだと。

 遠い昔をマナは思い出す。傷だらけで戦っていたクレルの姿を。

 我が子に苦しい選択を取らせてしまった。

 マナの金色の瞳に悲しみの色が滲む。

「マナ」

 夫であるユエが自分を呼ぶ。

 ユエの意図を察したマナは両眼を指で拭う、そしていつもの柔らかい笑顔を浮かべた。

「朝ご飯、すぐに用意するわね」


 ──クレルは二階へと上った。廊下を歩き、アリエルの部屋へ向かう。

 アリエルはワケあってクレル達一家と一緒に住んでいる女性だ。

 クレルはアリエルの部屋の扉の前まで歩いてきた。

 扉は開けっぱなし。それはころんの仕業だと理解しているクレルは開けたままの扉を背に、部屋の中を覗いた。

「アリエル〜! おはよう! 起きた?」

 声をかけ、部屋を覗くとアリエルがベッドに座っていた。

 肩につく長さの金色の髪、金色と赤色のオッドアイの女性がベッドに座りながら、クレルを見てきた。

 アリエルだ。

 クレルはいつものアリエルの姿に柔らかい微笑みを浮かべた。

「おはよう、アリエル。朝ご飯、もうできるよ」

 ころんに起こされたらしいアリエルは腕にころんを抱えて、ぼんやりとしている。

 まだ起きたばかりなのだろう。頭がはっきりしていないアリエルにクレルは再度、声をかける。

「おーはーよーう! アリエル」

 朝の挨拶をアリエルに言うと、アリエルはやっと目が覚めてきたらしい。

「……あ、おはよう。クレル。まだ眠くって……」

 アリエルは眠そうに、小さな欠伸をした。

「眠いよね〜! 伸びしたら、良い感じじゃない?」

 クレルが言うと、アリエルは身体を伸ばす。

 背中と腕を伸ばし、瞬きを繰り返した。

「うん、ちょっと眠気取れたかな」

 アリエルはクレルに言った。

「……どうしたの? クレル」

「……え、何が?」

 友人がぶつけてきた突然の疑問に、クレルは聞き返した。

「……何だか空回りな元気さを感じるわ」

 言われて、クレルは苦笑する。

 友人は昔から鋭いのだ。クレルの機微を感じ取って、素直に聞いてくる。

 クレルは誤魔化すように笑うが、アリエルは納得してなさそうに頬を膨らませた。

「クレル!」

 アリエルに怒られ、クレルは肩を落とす。

「……あ、はい! ごめんなさい!」

 慌てて、アリエルに謝罪する。

 アリエルはころんを腕に抱えたまま、ベッドから降りると、クレルの前へと歩いて来た。

 二人は互いに視線を交わす。

 クレルは金色の瞳に、アリエルの赤と金のオッドアイを映す。

「アリエル……、私なら大丈夫……」

「クレルってば、そればっかり」

 アリエルは呆れる。

 クレルの強がりは今に始まったことではない。

 だけど、友としては心配なのだ。

「さ、朝ご飯食べに行こう」

 逃げるようにアリエルから視線を外したクレルは言った。

 納得していないアリエルだが、クレルの強がりな性格はよく知っているので渋々、頷く。

「マナさん達、待たせてしまうものね」

 アリエルは微笑んだ。

 二人はころんを連れ、一階のキッチンへ向かう。

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