第1話 始まりはありふれた悲劇と共に
メイアズは、普通の人間だ。
彼女は20歳の女性で、特別な家の人間でもなく、誰かの注目をあびるような職業についているわけでもなく、普通の一般市民として生きている。
「メイちゃん頼んでいた靴を受け取りにいたよ」
「いらっしゃいおばさん。この間預けてくださった靴ですね。もう修理できていますよ」
このように地元の住民たちと触れ合いながら、靴屋の店員としてありふれた日常を送っていた。
しかしーー
「メイちゃん、お使いにいってきてくれんか。休憩中の従業員にのませるいつものジュースが足りなくてね」
「分かりました」
店長の頼みを引き受けて、店じまいをする前にと黄昏に染まる空の下、路地を走る。
しかし行きはともかく、道路の工事や、馬車の事故などで帰りが遅くなってしまった。
(最近街の通りをゆくようになった最新式の)人間の体内に宿す気の力を使って動く馬車が、目の前を通り過ぎていくが、煙を盛大に吹きながらガタガタと大きく揺れていた。
「あの馬車が広まるようになってから、この町での死亡事故や事件が多くなったのよね。交通が便利になるとよその土地から大勢人が来るのは当たり前の事だけど、気をつけなくちゃいけないわ」
同僚のキャシーという同年代の女性も数日前から店にこなくなり、心配だった。
メイアズは気を引き締めて通りを歩き、靴屋へ戻ろうとする。
しかし、彼女の歩みは途中で止まる。
路地をまがった先で、巨大な怪物が、立っていたからだ。
全身を真っ黒な色で染め上げたその怪物は、普通の動物でも、巨漢の人間でもない。
それはまさしく、怪物という言葉にぴったりの生き物だった。
言葉もなく立ち尽くすメイアズを、怪物は太い腕で叩き潰そうとした。
メイアズは悲鳴を上げる間もなく、その場から必死で逃げる。
袋小路に行きあってしまうメイアズだが、そこにエクソシストを名乗る男性と出会う。
「もう大丈夫だ。後は私に任せてくれ」
「あなたは?」
「グラシスだ。あのような怪物から人々を守るために戦っている」
グラシスという名前のその男性は、聖武器と呼ばれる特殊な品物でデモンズを撃破、メイアズを助けた。
「あの怪物は、デモンズは倒れた。これでもう安心してくれてもいい。さあ、お家に帰りなさい」
「あ、ありがとうございました」
メイアズは、グラシスから日常に戻るように言われるが、彼の事を忘れられなかった。
メイアズは無事に靴屋に戻る事ができたが、信じてもらえないと思い、先ほどあった事は誰にも言わないでいた。