表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
此岸の大地~現実に実在しうる異世界転生~  作者: KVIN
最終章 グリンセイランド編
34/40

第34話 行軍開始

 カッ、カッ、カッ!


 副指令のモルニエール卿が、剣のつかで地面を三度叩くと、ざわめきは収まり、辺りは静寂に包まれた。 ライデルが壇上に上がると、騎士たちが槍旗そうきを一斉に傾ける。


 そしてライデルは説法を始めた。静かに、そして諭すような声色で──


「今日、我らが踏むこの大地は、神より託された教区『グリンセイランド』。

 しかし、祭壇は倒れ、鐘楼(しょうろう)は黙したまま──


 我らは報復ではなく、回復のために剣をる。

 神の田畑を耕す、十字のすきとして刃を振るえ。

 罪ある者を憎まず、罪そのものを討て。


 ──これぞ騎士修道の誓い」


 静かな説法が、じわりと胸を震わせる。


 しかし、上陸部隊本隊壊滅の報は誰の耳にも届いており、皆一様に表情は暗い──


「祈りつつ進め、信を違えずに戦え」

「“神が我らと共におらば、誰が我らに敵し得ようか。”」


 聖典の一節が落ち切った瞬間、その声色がわずかに変わった。 ライデルは准司教としての言葉ではなく、自分の言葉で語りだす。


「──既に皆も聞いていると思うが、上陸部隊の本隊は嵐に呑まれ、海の泡と化した」


 騎士たちは、その声に顔を上げ、聞き入る。


「今ここにあるのは、我ら先遣隊の三千のみ。対する敵は、 ……万の軍勢だ。我らに『死』が迫っている。──死は怖いか? 私は怖い」


 その言葉に、騎士たちは息をのむ。


「しかし、真に恐れるのは己の死ではない。大切な人の死だ。私はこれ以上、大切な人を死なせないために、ここに立っている。


 そして皆もそうであると信じている。


 敵は我らより数が多い。しかし、彼らは数を頼む者であり、我らは志を頼む者である。


 一日だ、一日だけでいい、敵の侵攻を防ぎ切って見せよ!

 さすれば我らの叡智えいちと、神の御力が必ずや奇跡を起こす! 必ずだ!!


 私はここに宣言する!! 我らこそが勝者であると!!


 聖オーランの導きと、あなた自身の誇りに誓って、今こそ、その武勇を示せ!!」


「「 おう!!」」


 騎士たちがその瞳に、わずかな光を宿した気がした。


 † † †


 騎士団は東部平原に向かい行軍を開始する。死地におもむく、その足取りは軽くない。


 グラハムはひとり思案する。


 昨晩──


「リディ、本当にできんのかよ? 大水門を決壊させて、洪水で敵を飲み込むなんて」


 グラハムはそう口にしながら、いぶかしげにライデルを見やった。


「ああ、洪水で敵を飲み込む。

 そして物資を水没させ継戦能力を奪う。

 さらに橋を押し流し敵部隊の侵攻を防ぐ」


 ライデルの声に、迷いはない。


「ああ! 確かにそれなら、増援の到着まで耐えられるだろうよ! だが敵も馬鹿じゃねぇ! こっちが討って出て、川岸に陣を敷いた時点で気づかれるぞ! 大水門の守りを固められたら終わりだ!」


 グラハムの懸念に、ライデルはふっと目を伏せた。


「……これだけの戦力差、そろそろ裏切りや降伏を画策する人もいるかと思ってね」


「……?」


 グラハムはその言葉の真意が分からず困惑した。


 † † †


「モルニエールきょう、本隊の指揮を任せます」


「……はっ!」


「最初の狼煙のろしから四刻です。四刻を防ぎ切ったら、撤退して構いません」


 ライデルとグラハムは静かに馬首を返すと、北へ向けて駆け出した。 別動隊が浸透する、静かな川沿いの道を進んでいく。


「三ノ門から大水門までの距離は、凡そ十四キロメートル。帝国軍と残党軍の戦力差と、水門同士の距離を考えると、水門の破壊にかけられる時間は二刻半だ。最初の狼煙から二刻半。それが『約束の刻』だ」


「ここからは別行動だね……ボクは東岸から、グラハムは西岸から攻め込んでくれ」


「……リディ、死ぬなよ」

「グラハム、君も」


 † † †


 グラハムは別動隊の一隊を従え、川の西岸を遡上そじょうする。


「──グラハム殿、大水門への道より、少々西にずれているかと」


 別動隊に同行する騎士が、不審げに尋ねる。


「あぁ! 俺たちは大水門には向かわない」

「──なっ!? 一体、何をおっしゃっているのです!?」


 ──その問いに答えるように、グラハムは昨夜の会話を思い返す。


 † † †


「グラハム、君にだけ伝える。これが、本当の作戦だ」

 ──ライデルは地図を広げ、現在の位置を指し示す。


「ボクたち別動隊は、大水門を目指し北上する」

 ──ライデルの指が、北へ向かい地図をなぞる。


「そして、それを『通り過ぎる』」


「──??」


 ライデルが指し示す指は、更に北へ……


「ボクたちが落とすのは、大水門じゃない。その上流にある三つの水門を一気に落とす」


「──ッ!?」


「人工的に鉄砲水を発生させ、その猛烈な流れをもって、大水門を決壊させる!!」


 ライデルの指が指示したのは、川の遥か上流。


「まずは、上流にある一ノ門、そして支流にある二ノ門を同時に襲う。奇襲により敵を素早く殲滅せんめつしたら、水門を開く。恐らくこの時点で敵は気づく。


 ここからは時間との戦いだ。下流に向かい、三ノ門に両岸から攻め込みこれを落とす。


 二つまでは、耐える。

 三つなら……大水門は、決壊する!


 水は水竜となり、蛇行だこうする川の東側──低地にある残党軍陣地を飲みこむ!!」


「こいつぁ…… すげぇな…… 流石さすがは俺の坊っちゃんだ」


「頼りにしてるよ、相棒!」


 † † †


「信じがたい…… そんな作戦……!」


 別動隊の騎士たちが、ライデルの真意を知り、思わず息を呑んだ。


「恐らく、大水門を決壊させる作戦は、敵にれている」


「内通者がいると?」


「それを逆手にとり、大水門に敵の視線を集める!」

「敵の目が大水門を向いている隙に、上流の水門を落とすぞ」


 まっすぐ前を見据え、馬を駆ける!


「見えたぞ! 一ノ門だ!」


 いま、雌雄しゆうを決する戦いが幕をあけた !!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ