表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
此岸の大地~現実に実在しうる異世界転生~  作者: KVIN
第四章 南部小大陸編
30/40

第30話 人質!立ちはだかる

 ──最初に気づいたのは、やはりアーニャだった。


 シャァッ! シャァッ! と唸るように鳴く。

 唸るような警戒音が、彼女の喉から響いた。


 サーナはすぐさまその声の意味を理解し、周囲を見渡す。


「あれ……? ……ッ!?」


「リディーーッ!! ルティが(さら)われた!! 追って!!」


 その叫びに、ライデルが振り返る。

 銀灰色(ぎんかいしょく)の瞳の視線の先──


 ──馬上に乗った少年兵。その鞍に、ぐったりとしたルティの姿が見えた。


「ルティィィーーーッ!!」


 ライデルは叫ぶと同時に軍馬に飛び乗り、その馬腹を蹴った!!


「リディ!? 待て!!」


 慌てて追おうとしたグラハムは、自分の巨体に合う馬を探し、半呼吸遅れる。


「どけっ! どいてっ!! 道をあけて!!」


 慌ただしく動き回る兵士の間を縫うように駆ける!!


「危ねえ! 何だ!?」

「准司教殿! 待て! 一体どうした!? 止まりなさい!!」


 立ちはだかる守備隊長を振り切り、猛スピードで野営地を飛び出した!!


「捕虜が人質とって逃げたんだよ! 追撃する!!」


 グラハムがそう叫び、ライデルを追う!


 † † †


 真っ赤な夕日が、大地を血のように染めていた。

 その光は不吉なほど静かで、冷たい。

 鉛色の雲が、空を足早に横切っていく。


「はぁ、はぁ……!」


 逃走する少年兵は荒く息を吐きながら、馬を駆けさせていた。

 鞍にしがみつくように乗っているルティは、意識があるのかもわからない。


 二人乗りの負担に耐えられず、馬の歩みが遅れ、ついに脚を止めた。


「……くそッ!」


 舌打ちしながらルティを下ろし、近くの焼け落ちた教会跡に駆け込む。倒壊した屋根、石の壁は半分倒れている。


 風抜けの壁、崩れかけた尖塔。ギラギラと血色に染まるガラスの破片。傾いた巨大な十字架を背に、大穴の空いた屋根から、真っ赤な夕日が差し込んでいた。


 † † †


 後方から──蹄の音!!


「動くなあああッ!」

「動くな!! 動くんじゃねぇ!! 後ろの奴もだ!!」


 ルティの首元に短剣が突きつけられる。


「そこのエルフゥ!」


 震える声が裏返る。


「その剣を! こっちへ投げろ!」

「今すぐにだ!」


 興奮したその手がガクガク震えるたび、短剣の刃先がルティの首を掠める。


「やめろ! その子を解放しろ!」


 ライデルが叫ぶ。


「ダメ! リディ! 剣を投げないで!」


 ルティが必死に首を振る。


「黙れぇええッ!!」




「……わかった」

 ──ライデルが剣を降ろす。




「言う通りにする」

 ──ゆっくりと右膝をつき、




「その子を傷つけるな……」

 剣を滑らせるように、前方へ放った──



 ──金属が石畳を鳴らし、ルティの足元で止まる。


「──ッ!!」


 ルティが俯き首を振る。


 片手でルティを引き寄せ、もう一方で剣を拾い上げる。


「後ろの奴は外に出ていろ!! 貴様は(ひざまず)け!!」


 ライデルが跪き、グラハムに目配せすると、


「クソがっ!」


 グラハムが扉の外まで下がった。


「そこのエルフ! 白い馬に乗ってたな! ……襲撃の時だ!!」


 ルティを盾のように抱えたまま、ジリジリ近づいてくる。


(あのとき追ってきた三騎のうちの一人か……)


「──親父の仇だっ!!」


 剣先を鋭くリディに仕向けた……──その刹那!


「お願い! やめて!!」


 一瞬の隙に、ルティがその腕をすり抜け、目の前に立ちはだかった!


「リディを殺さないで!」


「そこをどけ!!」


「どきませんっ!!」


「ルティ! ダメだ! 下がって!」


「嫌! 絶対に下がらない!」


 細い背でライデルを庇い、両手を左右へ大きく広げた。


「どけと言っている!! そこをどけぇえええ!!」


 少年は歯を剥き出しにし、剣先をルティに近づける!


「お願いだ! ルティ…… 頼む。下がってくれ!! ボクなら大丈夫だ!」


「いいえ! リディを殺させない!」


「どけっ! てめぇから殺すぞ! そこをどけ!!」


「お願いだ! ルティを殺すな! ルティ! 下がれ!」


 ルティは、両手を広げ、真っすぐ彼の瞳を見る──


「どけぇええええ!!!」


「やめろぉおおッ!!!」


 † † †


 ──鋭い刃が、ルティの胸を、貫いた……


「ルティッ!!」


 崩れ落ちる小さな身体を抱きとめた。


 少年の指から剣が滑り落ち、硬い石畳に当たって転がる。彼は後ろへ二歩、三歩と後退し、崩れた壁にもたれて座り込んだ。


 傾いた十字架が赤く光り、ゆっくりと影を落とす。


 ──そして、冷たい雨が降り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ