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此岸の大地~現実に実在しうる異世界転生~  作者: KVIN
第四章 南部小大陸編
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第27話 苦悶のなかの煌めき

 ゴトゴト…… ゴトゴト……


 土埃の舞う平野を、牛車が音を立てて進んでいく。


 ギシギシ…… ギシギシ……


 積み荷の上には、やせ細った老婆と、その腕の中で眠る幼い子ども。


 帝国軍の行軍路沿いには、北を目指す避難民の列が続いていた。焦土と化した村々から命からがら逃げ出した人々。その顔には疲労と、不安と、わずかな希望が混じっていた。


「どうぞ、温かいスープです。少しでも、お腹の足しになれば……」


 ルティは、即席の野営所でスープを注いだ木の椀を、一人ひとりに丁寧に手渡していた。


「……ありがとう、聖女さま……」


 (しわ)だらけの老女がそうつぶやいて膝を折る。ルティは慌てて手を取り、目線を合わせた。


「そんな……私こそ。温かいうちに召し上がってくださいね?」


 後方ではライデルが手際よく包帯を巻き、倒れ込む老兵の寝台を整えている。


「……ルティ、大丈夫? 無理してない?」

「うん。平気だよ。……でも、ひどいよね……」


 ルティは手を止め、遠くを見つめた。


「……どうして、こんなことに……」


 言葉を失う彼女の隣で、ライデルはそっと肩に手を置いた。


「必ず終わらせるよ。少なくとも、ボクたちは今、誰かの苦しみを和らげるために、ここにいる」


 その言葉に、ルティは静かにうなずいた。


 † † †


 サーナでーす。


 みーーっんな暗い顔。

 リディも、ルティも、グラハムも、ナギも……


 ……あ、ナギはいつも通りか!


 うぐっ、何かナギにすごく睨まれてる。

 こわーーい。っていうか、声に出してないのに、なんで!?

 流石、ニンジャ……


 まー、皆の気持ちは分かるけどねー

 でも、暗いときに、暗い顔してたら、“真っ黒黒えもん”になるって、婆っちゃが言ってたもん。


「ねぇー、あなた、どこから来たのぉ??」

「シーッ、ダメよ! あの、すみません……どうか……」


 ふんふん。シャーシャ人のあたしは、この国じゃ子どもにしか見えないよねぇ。

(お母さんの方は気づいてるみたいだけど)


 こんなときは…… じゃーん。“甘罪(かんざい)のキャンディー”!


「はいっ、これあげるね♪」

 少し戸惑う女の子の口に、ヒョイッと放り込む。


「わわっ、あまーい。おくちがしあわせー」

「──え、なになに??」

「ねぇ、僕にもちょうだい?」


 サーナの周りに子ども達の輪ができる。


「はーい、はーい。ちゃんと並んでー」

「フライング・ゲッツは禁止だよー」


 んっふっふー♪

 ではでは、ここでリサーナ様の単独ライブといきますか♪


 ──そういうとサーナはリュートを取り出し、陽気な曲を奏でるのだった。


 大人たちも集まり、サーナの周りに笑顔の輪が広がった。


 † † †


 夕暮れの風に吹かれながら、ライデルとルティは並んで腰を下ろしていた。


「サーナはすごいなぁ……」


 ルティがぽつりと呟く。


「ふふっ、ホントにね」


「神様の言葉じゃなくて、自分の言葉で、あんな風に周りをすぐ笑顔にしちゃう」

「ほらっ、大人達まで踊り出しちゃったよ?」


 そういうとルティはクスクス笑う。


「……私ね、男爵家のお(めかけ)さんの娘なの。お母さんは私を産んだときに亡くなって……」


 語り出した声は穏やかだった。


「正妻さんが育ててくれたんだけど……いろいろ、難しくって……」

「……うん」


「だから……実はここにはね、あまりいい思い出はないんだぁ」


 ルティは空を見上げた。


「でもね、帝都に出てからは、そのお義母さんが、ずっと手紙をくれて。体のこと、暮らしのこと、気遣ってくれて……」

「……すれ違ってただけで、ちゃんと……愛されてたんだなぁって思えたの」


 ライデルは、黙って聞いていた。


「……私、ちゃんと誰かの助けになれてるのかな?」


 ルティは草をいじりながら、ぽつりと呟いた。


「神様からお借りした言葉、帝国の物資……私自身の何かって、あるのかなって……」

「あるよ」


 ライデルの声は、驚くほど優しかった。


「ふふっ、知らないの? ルティの作るスープは絶品なんだよ。さっきもおじさんに、息子の嫁にって絶賛されてたでしょ」


「それに優しい声。ルティの説法はすごく評判がいいんだよ。まるで天使様の声を聞いてるみたいって」


「……へへっ。 ありがとう、リディ」

「……ちょっとくすぐったいや……」


 ルティは頬を染め、俯いた。


「わたしも、やさしくされるとね……間違いじゃないって思えるの。」


 そのとき──


「お姉ちゃん、ありがとう!!」


 少年の声が飛び込んできた。

 手には野原で摘んだ小さな花束。


「これあげる! お姉ちゃん、きれいだから!」

「え、あ、ありがとう……!」


「大人になったら、けっこんしてね!!」

「え、ええええっ!?!?!?」


 戸惑うルティを見て、思わず口元を膨らませるライデル。


 † † †


「さっきの男の子可愛かったね」

「うん…… ふふっ、もしかして……」


 ルティが珍しくいたずらっぽく笑った。


「もしかして、ヤキモチやいちゃいました?」

「……ッ!!」


 無言で耳まで赤くなるライデル。


「……ふふっ。ヤキモチやいてくれたなら、私、うれしいよ」


 自分の言葉に気づき、今度はルティの顔も真っ赤に染まった。


 焚火の火が、ふたりの頬をさらに赤く照らす。

 静かな夜風に、リュートの音がまだどこかで鳴っていた。


「きっと、いい未来があるって、思いたいな。」


 リィィン──


 そういって前髪を耳にかけると、優しい鈴の音がふわりと風に乗って消えた。

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