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此岸の大地~現実に実在しうる異世界転生~  作者: KVIN
第三章 シャクティ=プラム編
22/40

第22話 謎の男

 一体、どれくらいの間、祈っていたのだろうか。

 ライデルは、目を閉じたまま、何度も心の中で呼びかけていた。


(……シャタルナよ。ボクをこの世界に転生させたのは、貴方か? それとも──)


 何度も、何度も。


(導いたのは誰だ? 何のために? ボクは──)


 次第に祈りは問いとなり、問いは心の奥へと沈んでいく。

 思考と信仰の境界が曖昧になったその時──ふと、気がついた。


 すぐ隣に、誰かがいた。


 見知らぬ男──のはずだ……


「いや、すまん。……エルフ族が、随分と熱心に祈るのだなと」


 そのラオ族の男の声は、静かで重く、皮肉すら(にじ)ませない無感情な響きを持っていた。


「お前は……? まさか……」

 心臓が、やけに騒がしい。


「そうか。あのときの……子ども、か。確か──グリンセイランド戦役の時だったか」

 ライデルの背筋に冷たいものが走る。


「覚えてるぜ」

 この男の声を聞くたび、


「あれは戦争だった。そういうこともある」

 この男と視線が交錯するたび、


「恨んでいいぜ。俺は恨みの数なんて、いちいち数えちゃいないがな」

 自身の奥底が泡立つように、心が、身体が、ザワツク……


 戸惑いと混乱。立ち尽くすライデルを見て、男は口の端をわずかに歪めた。


「まさか、覚えていないのか?」

 ナニヲ?


「まぁ、戦場にいると、そういうこともある」

 センジョウ、ガ、ナンダ?


「聞きたくないことは聞こえなくなるし、見たくないものは見えなくなる」


 † † †


「俺が覚えていているのに、お前が忘れているとはな」


 ──神殿の静けさの中、風に揺れる木々のざわめきが、まるで何かを囁くように耳を打つ。


「父上!」


 突如、子どもの声が響いた。駆け寄る小さな男の子。男の足に抱きつき、顔を見上げる。


「もう、発たれるのですか?」


 男は優しく笑い、少年を抱きしめた。


「戦後処理で一時帰国しただけだ。また戦場にとんぼ返りさ」


「父上、ご武運を……」

「あぁ、達者でな」


 男は子を放し、歩き出す。その足がふと止まり、ライデルを振り返った。


「……思い出したら、俺のところに来い。相手をしてやる」

「それもまた、戦争だ」


 男が立ち去り、再び静寂を取り戻す神殿。自分の中で暴れる、ナニモノかの心音だけが、神殿に木霊していた。


(──ディ! リディ!)


 グラハムの声で、現実に引き戻される。


「どうした? さっきすれ違った男、どうかしたのか?」

「いや…… なんでもない。たぶん」


 しばしの沈黙の後、ライデルはぽつりと呟いた。


「ねぇ、グラハム…… ボクは、ライデル・ウェミナールだよね……?」


 グラハムは一瞬、目を伏せ、黙った。そして──


「……なんだ? 違うのか?」

「いや……忘れてくれ」


 ライデルの声は、どこか遠く、揺らいでいた。


 神殿の天窓から差し込む光の輪が、まるで閉ざされた円環のように、彼を囲っていた。

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