表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
此岸の大地~現実に実在しうる異世界転生~  作者: KVIN
第三章 シャクティ=プラム編
21/40

第21話 宇宙創生とシャタルナ

 一行がシャクティ=プラムに滞在して、数日が経った。


 † † †


 重厚な扉の向こう、国王の執務室では静かな対話が交わされていた。


「ウェミナール准司教の動静は如何(いかん)


「はっ。着京以来、大半の時を王宮図書館に籠もり、外出は一切ございませぬ。国内の騒擾(そうじょう)に鑑み、護衛も最小といたしております」


 侍臣のひとりが一歩進み出て答える。


「聞くところ、シャタルナ神の典籍(てんせき)渉猟(しょうりょう)しておるとか」


「左様にございます。熱誠比類(ねっせいひるい)なく、ときに鬼気迫るほどの没頭ぶりかと。さりながら態度は終始温順(おんじゅん)、宮廷神官らもその謙譲(けんじょう)を褒めております」


 国王が、眉を僅かに寄せる。


「不審の兆し、間諜(かんちょう)の影など見受けられぬか」


「今のところ、学を修むる敬虔(けいけん)なる神学士としか見受けられませぬ。禁閲(きんえつ)写本の提示を断った折も、素直に首肯(しゅこう)いたしました」


「──さようか。ならば(しばら)く静観とせよ」


「はっ。なお、昨日新たにシャタルナ神殿への、参拝許可を請う書付を提出しております。礼式を直に学びたき由」


 国王は低く唸る。


「……真に信仰の探究か、あるいは他意か。見極めねばなるまい」


「仰せのとおり、慎重に監守いたします」


 † † †


 静寂と古書の香りに包まれた一室。

 ライデルは、一冊の厚い書物を開いていた。


 ──『シャタルナ神話 創世記』。


 世界は秩序と混沌の、永遠の調和で成り立っている。


 シャタルナは秩序の化身。すべてが輪廻し、永遠に繰り返されることで、宇宙が保たれると信じている。


 ヴァジュラ=グラハは混沌の化身。輪廻とは苦しみの循環であり、それを断ち切ることに、救済があると信じている。


 シャタルナは「永遠の輪廻」を望み、ヴァジュラ=グラハは「救済の終焉」を望む。


 ライデルは頁をめくる手を止め、天井を仰いだ。


(秩序と混沌……シャタルナとヴァジュラ=グラハ……)

(ヴァジュラ=グラハは、エレウス教の神と同一視されることがある)

(最後の審判、魂の救済、復活する楽園……確かにヴァジュラ=グラハの教えは、エレウス教との共通点が多い)

(だがここでは、混沌を象徴する者……)


「リーディーー! おやつ買って来たよー。食べよー」

「サーナ! いまいくよー。この前食べたドラ焼き?」

「んっふっふー。今日は“人を堕落させるプリン”なのだ!」

「うわっ、何それ!? 気になる!」


 † † †


 二柱の神は協力し、昼と夜、太陽と月、星と空、海と大地、植物と動物を作り、最後に宇宙を守る四天使(してんし)を作った。


 だが争い、互いの身体を引き裂いた。その骸から人間が生まれた──


(だから、人の中には秩序と混沌が宿る。争いは……内なる神の闘争)


 ライデルの指が震える。


(……これは、どちらが正しいという話ではない。信仰は鏡だ。神を通して、人間を映している)


(ボクは魔王レーヴァタスを討つために努力してきた。でも、それは……本当に“敵”だったのか?)


「リディ! まだ起きてんのか! 寝ろ!!」

「わっ、ごめん、グラハム! すぐ寝るよー!」


 † † †


 ──四天使


 浄火(じょうか)の天使 アグニシア  宇宙の輪廻を司り、魂を浄火し導く。

 調和(ちょうわ)の天使 レティシア  宇宙の調和を守り、星と魂を巡らせる。

 記憶(きおく)の天使 マリーシア  輪廻の記憶を紡ぎ、魂の継承を行う。

 黙示(もくし)の天使 ヴィラミシア 輪廻の終末に現れ、最後の審判を行う。


 二柱の神が御隠れになった後、残された四天使は、シャタルナの意志を継ぎ、輪廻の守護者となった。


 だがその一柱──黙示の天使ヴィラミシアだけは、違った。


 彼女は輪廻を断ち切るため、反乱を起こす。だが敗れ、地に堕ち、協力した人間たちは不毛の地へ追放された。


 このとき三天使に協力したのがシャーシャ人の子孫で、裏切りの天使に協力したのが人類の子孫だ。三天使は、裏切りの血が交わらぬよう、シャーシャ人と人類が子を成せないようにした。


(ヴィラミシア……裏切りの堕天使。でもこれは裏切りと呼べるのか? ヴィラミシアは、永遠の牢獄である輪廻からの、救済を願ったのではないか?)


 遠く、時計台の鐘が鳴る。昼を告げる音が、思考を断ち切った。


 そのとき、扉の外から声がかかった。


「ウェミナール准司教殿。陛下より、神殿訪問の許可が下りました」


 ライデルはゆっくり立ち上がり、本を閉じる。


「……ありがとうございます。案内をお願いします」


 † † †


 ──シャタルナ神殿


 繊細な幾何学(きかがく)模様に彩られた壁。天井からは金属製の輪が吊るされ、光を反射して回っていた。まるで宇宙の輪廻そのもの。


 神官たちは白と緋の法衣をまとい、淡々と儀式の準備を進めている。


 ライデルは慎重に一礼し、神官に礼拝の所作を乞う。


「この神殿での礼拝は、神に命の循環を感謝し、自らの魂の位置を確かめるものです」


「魂の、位置……?」


「はい。生まれ変わりは常に円環の中にあり、魂がどの季節にあるかを知ることで、今の生を理解するのです。 ……それが、“秩序”に従うことの第一歩となります」


 ライデルは静かに目を閉じ、シャタルナの象徴たる“輪”に手を添えた。


 ──祈りの言葉が胸の内に満ちていく。だがそれは、自分の神ではない。


 それでも、確かに──何かが、心の深い場所で共鳴していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ