表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】腹が立つことに、私は世界に試されているらしい。  作者: Debby
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/27

26 婚姻の儀

「令嬢は私のことを好いているわけではないだろう。フィオレからは暖かい、カイエから狂気にも似た熱を感じるが、令嬢からは何も感じない。何故そこまでして妃にこだわる」


 いわれてみればそうだ。プレッサは思った。


 幼い頃から身体が弱く自宅の図書室で本ばかり読んでいた。そして見つけた「センエンティ王国物語」というハッピーエンドの物語。

 そして知った、婚約を無かったことにされた令嬢が自身の祖先であることを。

 私はその物語の裏で嘆き悲しんだであろうかわいそうな令嬢を、家から出られずかわいそうな自分に重ねたのだ。

「私が代わりに王太子に嫁げたならヒレミア・フォッセン公爵令嬢もうかばれるのではないか」と。

 そもそも王太子の地位を追われたレックスと婚姻を結んでも、その気持ちは報われなかっただろう。自分はレックスと結ばれて、どうしたかったのか。


 カイエのこともそう。はじめての友達・・・なのに物語の世界だと信じて、色々吹き込んだ。

 彼女にもフリンツにも、お父様にも申し訳ないことをした。


 二つの物語に振り回され、散々人を振り回した結果がこれだ。


 プレッサは愕然とした。



「フォッセン公爵令嬢。それはセンエンティ王国史の子供向けの物語だろう。令嬢は本当の歴史書を読んだこと無いのか?」


 それまで黙って話を聞いていたイベルノが不思議そうにプレッサに尋ねた。

 他の時代のものはあったのだが、何故かフォッセン公爵家にその時代の歴史書は存在しなかった。あったのは「物語」だけ。


 イベルノが掻い摘まんで話してくれた。


 実はヒレミア・フォッセンには他に好意を持っている人がいた。

 彼は王太子の異母兄弟で第三王子だったが、父親である当時のフォッセン公爵に王妃になることを求められていたヒレミアは彼のことを諦めなければならなかった。

 そこへ、サクラがやってきて王太子と恋におちた。


「おそらくサクラは令嬢と同じ過去生をもつのではないかと推測しているのだが・・・」


 イベルノは話の途中でそう言うとプレッサを見た。


「彼女は過去生をもつ転生ではなく、転移だと思います」


 プレッサはそういうが、レックスたちにはその違いがよくわからなかった。


「桜──いえ、サクラの木は前世の世界の植物なんです。あちらの世界では春のわずかな時だけ花を咲かせ、一斉に散ると、夏は葉が茂り、冬は枝だけに──」


 そこまで言ってプレッサははっとする。現在のサクラの様子は冬の桜の状態とそっくりではないか。


 プレッサがそう気付くと、イベルノは話を続けた。


 サクラと王太子が恋に落ちてくれたお陰でヒレミアは何の疵瑕もなく婚約を白紙にすることになった。

 しかし、王弟として王族に残る第二王子には既に婚約者がいる。勿論フォッセン公爵家に相応しい名家の令息にも。

 結果ヒレミアは望み通り臣籍降下し公爵家を興す第三王子と結婚することができたのだ。


 歴史ある王家に嫁ぎ王太子妃になるはずだった娘が王子とはいえ歴史のない新興公爵家に嫁ぐことになるとは・・・!

 おそらくその事に納得出来なかったフォッセン公爵は家の図書室からその当時の歴史書を処分してしまったのだろう。そして屋敷の敷地にサクラの木を植樹することを許さなかったのだ。


 無事に結ばれた二人は予定通り公爵家を興し、グルークの姓を名乗った。


 ハッと、プレッサが顔を上げ、レックスを見た。


 フィオレ・グルークもプレッサと同じヒレミアの子孫だったとは──。




 その後、プレッサは騎士により屋敷に送り届けられ、自宅謹慎となった。

 フォッセン公爵は計画が破綻したことで第二王子派と画策したサクラの木を襲った件について洗いざらい自供した。結果第二王子派の面々もサクラ襲撃の件で厳しい取り調べを受けたが、自分達の浅はかな考えが平和の象徴である国中のサクラの木を枯らせたということにショックを受けており、素直に取り調べに応じたという。


 サクラの木に魔法を掛けたとして、センエンティ王国で手配されていた闇で仕事を請け負うという魔術師集団が検挙され、第二王子派はそれぞれ処分を受け、事実上解体となった。そもそも第二王子本人にその気が全く無いので派閥もあってないようなものではあったが。






 全てが終わった卒業式の一週間前、予定通り王太子であるレックス・センエンティとフィオレ・グルーク公爵令嬢の婚姻の儀が執り行われた。


 貴族は元より王族が学生結婚をするというのは前代未聞ではあるが、そんなことは平民には関係がない。

 サクラの木がなんの前触れもなく散ったことではじめはよくないことが起こる前触れかと怯えていた国民も、いつまでたっても何も起こらない『よくないこと』に、徐々に活気を取り戻していった。そこに王太子の婚姻の儀(慶事)だ。

 王族は前に進もうとしている。国民は自分達が落ち込んではいられないと、ここぞとばかりに盛り上がった。


 王都の大聖堂で婚姻の儀を終えた二人は、無事に夫婦となり、フィオレは王族となった。


 大聖堂のバルコニーの扉が開き、国王と王妃、第二王子がお祝いに集まった貴族や国民たちの前に姿を表した。

貴族の中にはフリンツに付き添われたカイエやプレッサ、生徒会役員とその婚約者をはじめとする学園の生徒の姿もあった。


「此度のサクラの木の件に関しては皆に不安な思いをさせたと思う」


 風魔法により国民一人一人に国王の声が届く。会場に来ることの出来なかった各地の国民にも。


「しかし安心してほしい。我が国は安泰だ」


そこへ、レックスと夫となった彼にエスコートされたフィオレが登場した。

 もともと美しい容姿をもつ二人ではあったが今日はまた一段と──集まった人々は口々にお祝いの言葉を二人に投げ掛けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ