23 君を選ぶと約束しよう
「レック──「殿下の名を口にするな」
レックスに話しかけようとしたカイエにイベルノの叱責が飛ぶ。
なぜ?今まではそんなこと言わなかったのに。
「イベ──」──ルノ様、何故そのような意地悪を言うのですか?と、カイエは尋ねようとしたが、イベルノの名を最後まで言うことも出来なかった。何かに口を塞がれてしまったのだ。
「あのね、リーエング男爵令嬢。普通家族か婚約者で無い者は貴族の名を呼んではいけない──特に男爵令嬢でしかない君が殿下や高位貴族の名を口にするのは不敬なんだよ。これまでは僕たちの力が未熟で未知の力の影響を受けていたから許されていたけど、今はみんなその力からも解放されている──フリンツは相変わらず見たいだけど・・・だから言葉使いには気を付けて」
ジャザがそう言って軽く手を振ると、口を塞いでいた何かが消えた。どうやらジャザの魔法で口を塞がれていたらしい。
未知の力の影響?楽しかったあの日々が本意ではなかったと言うの?
「レ・・・殿下──」
カイエは胸の前で手を握ると、懇願するようにレックスに話しかけた。
レックスはなんの感情も持たない目で、ただカイエを見ていた。
「サクラの花が全て落ちてしまったことで王族の方々の立場が危ういのだという噂を耳にしました。私がサクラの木を元に戻します」
「司教から聞かなかったか?サクラの花が散ったのは病気や魔法の類ではないと──」
そもそも病気であれば国中のサクラが一斉に散るのは不自然であるし、魔法であるならば一晩で国中のサクラの木全てに魔法をかけたことになる。
あり得ないと、わかりそうなものなのだが・・・。
王太子であるレックスの言葉に、広場に集まった人々は王家がすでにサクラの木がこのようになった原因を突き止めているのだと知り胸を撫でおろした。
そして100年ぶりに誕生した治癒と浄化の神聖魔法の使い手が今から神に祈りを捧げるようだということにも期待した。
「私はこのサクラの木を咲かせた100年前の王妃殿下と同じ神聖魔法を使えます。それに──それに、私はフォッセン公爵領の被害を押さえました。あの時もあなたの良からぬ噂が流れていたと聞きました。私があなたを救ったのだと自負しています」
これは水害の後プレッサに会いにフォッセン公爵邸に行ったとき、公爵様にお礼を言われ、その時に聞いた話だ。
しかし、生徒会役員や周囲の騎士には、この娘はなんと傲慢な思考をしているのかと言う印象を与えただけだった。
「フィオレ様はあなたのために何をしたというのですか。災害と関係のない王都で過ごしていただけでしょう?」
あの時のフィオレの働きぶりを知っているレックスの表情が怒りでピクリと動く。
レックスの気持ちを取り戻そうと必死なカイエはそんなことにも気付かない。レックスの気持ちがカイエに傾いていたことなどただの一度もないのに。
「あなたを王太子の座から降ろそうという人たちがいるという話を聞きました。治癒と浄化の神聖魔法を使う聖女である私と結婚したらみんな納得するのではないでしょうか。国民が安心するのではないでしょうか。あなたは王太子のままいられるのではないでしょうか」
「・・・聖女?」
不快感を表に出さず、カイエの言い分を聞いていたレックスだったが、突然出てきた聞きなれない単語に反応した。
「『聖なる乙女』という意味だそうです。あなたの隣にふさわしいと思いませんか?」
「ふぅん・・・」
そう言って考え込んだレックスは表情を変えずに言った。
「そうだな、そこまで言うのなら君の神聖魔法でサクラの木に再びピンクの花弁が戻った暁には──私は君を選ぶと『約束』しよう」
レックスの言葉にカイエは気持ちが通じたのだと、まだ物語は終わっていなかったのだと喜んだ。
「見ていてください!きっとサクラの花を取り戻して見せます」
カイエはレックスのそばを離れ一本のサクラの木の前に跪くと、胸の前で手を組み祈った。
(神様!!!!)
カイエが祈り、それに応えるように空から光が差した。
カイエとレックスのやり取りを見守っていた人々が息をのむ。
その光はサクラの木を暖かく包み込んだ──。




