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【完結】腹が立つことに、私は世界に試されているらしい。  作者: Debby
第二章 裏

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14 毒入りクッキー?

 おそらくこの失礼な反応からカイエも目の前の令嬢が誰の婚約者なのか知っているのだろう。


 フィオレはカイエの表情をみてそう確信した。と、ランチを持っていない方の手をぎゅっと握りこんでいるのが見えた。


(まさか「嫉妬してそれを咎めるため」、なんてくだらない理由で呼び止めたなどと思っている?)


 そもそも現在進行形でフィオレたちと婚約者の仲は良好。きちんと現状について説明を受けているためフィオレを含め、彼らの婚約者たちはハッキリ言って何とも思っていないのだが・・・カイエを安心させるために今それをなんの脈絡もなくそれを伝えるのもおかしな話だ。

 そもそもカイエを安心させてあげたいなどとはこれっぽっちも思ってはいない──もちろん腹立だしく思っているわけでもないが・・・。


 しかしこれではフィオレが最初に言った「廊下を走らない」という言葉も、彼女に届いているのか怪しい。

 思い込みが激しく人の言葉を聞かない。もしくは自分にとって都合のいいように捻じ曲げている。

 未知の力の存在を知ったうえでの計算なのか・・・。


 最近ではいそいそと中庭に向かっている姿を見かけるものの、声を掛けているのはカイエではなく生徒会役員の方だ──しかもそういった手合いからレックスを守る立場にあるはずのフリンツが自ら招き入れているというのだから、殿下の言う未知の力がどれほどのものか想像することが出来る──ということも知っている。

 認めたくはないが自分の婚約者をはじめとする生徒会役員の見てくれはかなり魅力的である。その方々に食事をしようと誘われるのだ。その甘言から逃れるにはかなりの精神力が必要となってくるだろう。

 そもそも貴族のルールを疎かにし、無視している一介の男爵令嬢に断るのは無理な話だろう。まぁ、最近の彼女はそれを日常として受け入れているように思えなくもないが。

 しかし、このようなことを続けてもしも何かあった時に──


「──何かあった時に()()をするのはあなたなのよ。気をつけなさい」


 計算であるのだとした場合、あまり近くにいてこちらまで未知の力の影響を受けては敵わない。フィオレたちはそれだけ言い残すと、さっさと立ち去ることにした。

 しばらくして、再びカイエが走り出したのか廊下にバタバタとこの学園に似つかわしくない音が木霊した。


(これはマナー以前の問題ね。)


 フィオレはため息をついた。




 レックスたちが中庭で昼食を摂っているとランチを抱えたカイエがやってきた。今日は時間が合わないため来ないだろうと安心していたのだが、そうではなかったらしい。

 余程急いできたのか肩で息をしている。


(まさか令嬢が走ってきたのか?)


 レックスが心の中で眉をひそめた。


 カイエの様子から「何があったのか」とフリンツが尋ねた。

 なかなか言い出さないカイエだったが、フリンツのしつこさに諦めたのかとうとう重い口を開いた。


「グルーク公爵令嬢と皆様の婚約者の方に叱責を──」と。


 レックスは少し考え込んだ。無関心を決めたフィオレがこの件に関わって来るとは珍しいことがあるものだと。それなのにカイエに自ら声をかけたということは、カイエだと気付かなかったのか、余程のことがあったに違いない。

 まぁ、カイエがここに来たときの肩の動きと呼吸の荒さから、何があったのかは想像はつく。

 下手にカイエに近付いて自分たちのように言動の自由を奪われるなどということは、フィオレたち令嬢は絶対に避けなければならない。

 

「(私たちの婚約者にまでこの力が及んでは大変だ)気にするな」

「私たちが(危険だからリーエング男爵令嬢に近付かないよう)注意しておく」


 フィオレたちが心配だ。






「今日は皆さまへのお礼にクッキーを焼いて来たんです」


 昼休憩中、カイエから手ずから作ったというクッキーの袋を渡された。


「へぇ、手作りなんだ。ありがとう(え?変なもの入ってないよね?)」


「手作りクッキーなんて貰ったのは初めてだな(一般常識があれば普通、手作りなんて渡さないからな)」


「リーエング男爵令嬢は器用なのだね(もしこれを食べて私たちに何かあれば、死罪だって理解しているのか?)」


 側近がそう言って受け取っているが、皆すぐに開封はせずにポケットへ入れる。心の声が聞こえるようだとレックスは思った。

 それはそうだ。彼女は寮住まい。料理人でもない男爵令嬢がどんな状態、どんな環境下で作ったのかも分からないものを食すわけにはいかない。この時間までの保管状態次第では王太子とその側近を害しようとするものが毒物を混入することすら可能になるのだから。

 カイエは最後の一袋を「レックス様もどうぞ」と差し出してきた。

 許可もしていないのに婚約者以外からその名を呼ばれる苦痛。これまで自身の言動に責任と矜持を持って生きてきた。こんなに失礼な真似をされているのに拒否することが出来ない。こんなに不快な思いをしたのは生まれてはじめてだ。

 そしてこれまでどんな問題であろうと飄々とこなしてきたレックスにとって、こんなに思いどおりにいかない問題に直面したこともまた、はじめてであった。

 これは将来国王に──フィオレの夫となるための試練なのか?

 世界が私を試している?──


「ありがとう。リーエング男爵令嬢」


 しかし、王太子である自分は勿論将来国の中枢を担う高位貴族に手ずから作ったものを渡すとは・・・カイエに対してのみ働くらしい未知の力で仕方なく受け取ることになってしまった菓子袋をじっと見る。

 こっちはこれまで培ってきた精神力と理性で未知の力により今すぐ口に入れたいという衝動に耐えているというのに、視界の隅でフリンツがすぐに菓子袋を開封し、ひとつだけ口に入れたのだ!

 皆、信じられないといった形相でフリンツを見ている。レックスも然り。

 食べ物はさすがに無いが、こういったものをレックスに手渡そうとする令嬢が全くいないわけではない。

 しかし、レックスが直接断るのは角が立つため、それを断るは護衛の役目だ。レックスは護衛が令嬢に断りを入れた後に微笑んで「ごめんね」と一言声をかけるのが常。

 しかしフリンツは護衛対象を放置するばかりか、率先して受け取りひとつとはいえ仕事中に不用心にもらった食品を口に入れる始末。

 これまで散々護衛として不適格な言動をとってきたフリンツだが、未知の力のせいとはいえこのような力に少しも抗う様子をみせないのであれば護衛として登用し続けるわけにはいかない・・・ただ、そう思っているのに任を解かないのもまた、未知の力の影響なのかもしれない。

 そんなことを考えていたレックスの様子を勘違いしたのか、カイエが微笑みを浮かべ小声で言ってきた。


「実は、レックス様のにだけ他の方には入ってないお味のクッキーが入っているんです。特別ですよ」

(まさか本当に毒が入っているんじゃないだろうな)


 レックスはそう思い念のためこの菓子袋は検査に回した方が良いだろうと考えた。


 カイエに名を呼ばれることは拒否できない以上、周囲も()()なのだと──カイエが特別なのだと思うに違いない。

 近日中にフィオレとの席を設けて話をしないといけないな。

 フィオレの予定は熟知している。さて、一番早いのはいつだったかな。

 愛する婚約者の面倒臭そうな顔を想像し、レックスはふっと笑った。フィオレのことを考えると未知の力も効果が弱まる気がして、その勢いで菓子袋をポケットに仕舞った。

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