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無限ホテルの雑務員。  作者: AO
禁書
53/53




さて救護室。

メチルとレカルアが交戦する約30分前。

「なぜ…ですか。アリエル一級…」

どこのチームか知らないが、二級職員がつぶやいた。

「体を真っ二つにされてるのによく喋れるね。」

アリエルはそれだけいうと、とどめを刺した。

「お姉ちゃん…」

マリアがつぶやく。

視界にはアリエルの足しか見えない。

周りには死体の山が連なっている。

自分も後数分でそうなるのだろう、とマリアは実感する。

冷たい地面の感覚が頬を伝う。


なぜアリエルがこんなことをしているのか、マリアは知っていた。

そして、いずれこうなるかもしれないことも。

ジラーリアがアリエルの尊敬する人たちを2人も殺したからだ。

1人はトアレス。

彼女はキオンの魔法研究所時代の上司だった。

いつもひたむきに努力する姿勢と、優しい性格を彼女は尊敬していた。

医療技術も、彼女に教わった。

しかし帝都で暴走したジラーリアと闘い戦死した。

結果としてメチルやアリエル、ガングートなどは生き残ったが、アリエルにとってはどうでもいいのだ。

だからジラーリアに復讐するために無限ホテルに入った。

彼女はすぐにでもジラーリアを暗殺するつもりだった。

が、そこで2人目にであった。

シリウス=テリアメス。

彼女はトアレスによく似ていた。

髪の色や魔法は違っても、どこか共通部分があった。

だがシリウスも、ジラーリアの命令で帝国軍相手に戦い、最後は死んだ。

(それを恨んでいるんだろうな…)

マリアが考えていたのはテスラだ。

(彼女はどこに行ったんだろう。)

テスラの行方を案じるのは、自分がどう足掻いてもアリエルには勝てないことを知っているからだ。

自分は3級の中くらいの実力。対して姉は一級最強。

どうやっても縮まらない。

(一応努力はしたけれど…)

こうなることは薄々わかっていた。

だからもしそうなっても止められる様に頑張った。

でも、無駄だったらしい。

仕方がない。他の人も好きだった。守りたいと思った。

でも、姉が殺されるのはもっと嫌だった。

結果、こうなった。

「お姉ちゃん…」

「何?」

(しかたないね。仕方ない…)

その時、彼女はわずかな足音を聞いた。

こちらに来る。

(来ちゃダメ…お願いだから来ないで…)

口元が自然と動く。血が垂れてきて、鉄の味がした。

そんな願いも虚しく、足音は大きくなるばかり。

やがてドアが開いた。

アリエルは後ろを向き、何も言わずに「万物創造」を発動した。

金属が何かを貫く音がした。

万物創造。あらゆるものを自分が思う場所に作る能力。

この能力に勝つには、メチルのように瞬時に魔法を展開するか、シリウスのようにそもそも存在を悟らせないか、相手の魔法を阻害するタイプの魔法を使わなければ突破は不可能だろう。

なぜなら彼女は「万物」、すなわちあらゆる物体を創造する。

たとえそれがこの世に存在し得ないものだとしても。

唯一の例外は、「実在する人間」は作れない。

当然作るものの難易度によって魔力の消費は変化するが…。

故にまず大半の魔法使いでは瞬殺されるのだ。

目の前の二級職員たちや、今入ってきた人の様に。

「…ごめんね。お姉ちゃん。」

マリアは謝った。

「私が、あの人たちの代わりになれるくらい強かったら…」

アリエルは何も言わずに、マリアを見ている。

その視線は軽蔑でも愛情でもなく、ただ見つめるだけだった。

まるで石膏像を鑑賞する様に。

「…。お姉ちゃん。でも…わかっている?やっていることはあの人と変わらないこと…。

このままずっと続けても、何も得られないこと…」

マリアはただ続けた。続けるしかない。

尊敬する人がいるのは素晴らしいことだ。

頭を押さえつけられるのがわかる。

痛い。

「ばいばい。マリア。」

ふっと体が浮き上がる。

(…天国に行ってるのかな…)

朦朧とした意識の中で思う。

「目を開けて。」

どこかで聞いた様な声がする。

シリウスの声だ。

「…シリウスさん?」

つぶやく。

「寝ぼけてるの?」

そう返されて思わず笑った。

体が下に下がり、冷たい感触がする。

マリアは目を開けた。

あたりは雲の上で、金色の光が差していて、そこに天使がいたー

わけもなく。

今まで通りの血まみれの救護室だった。

違ったのは、ただ一つ。

見覚えのある後ろ姿があった。


「…あなたは?」

「記録チーム3級。レーカ・モルテーノ。」

「三級?はあ。兄弟喧嘩の首を突っ込まないで。」

「そうもいかないー」

いうより早く、何かが飛んできてレーカの体を串刺しにした。

(…これは触手!)

「「触手」ね。作るための組成が不明すぎて苦しんだ。」

「…。いや、完全に再現できてるわけじゃない。

元々、あの人の触手は魔力の塊。対してこれは魔力を結晶化させている。

あの柔軟さ、鋭さは全くない。」

レーカは引き抜いた。

少し血が出たが、すぐに止血した。

(3級?とてもそうは見えないけれど…)

魔力量からしてその辺の1級より確実に多い。

普通にアリエルより多い。

まるで月のように開かれた目。

こんな逸材がどこに眠っていたのか。

(記録チーム…?

あそこは面倒なチームだ。)

「とりあえず殺…」

「ごめんなさい、ちょっと今急いでるので一回寝てもらっていいですか?

1時間くらいで目が覚めると思うので。」

「は?」

レーカはポケットから何かを取り出した。

アリエルは何かを取り出したことすら気がついていなかった。

レーカは身を軽く捻ると、一瞬で移動し、アリエルの腹部に何かを取り付けた。

アリエルの攻撃を容易く躱し、そのまま走り抜けた。

数秒後には、アリエルはもう部屋から消えていた。

「大丈夫?」

マリアを助け起こす。

「…お姉ちゃんは?」

「ちょっと、異世界に。」

「……!?」

「彼女につけたのは休暇用のポケットトリッパー。「海辺」。

体感は2泊三日くらいかな。

3食と綺麗な夕日付き。

一時間くらいで遊んで帰って来れるとおもうよ。」

「……」

「じゃあ、あなたは負傷しているし安全なところへ。私はちょっと用事があるし。」

大きな魔力が接近している。

メチルが相手していたやつと同じ魔力だ。

レーカは腰につけていたベルトから一丁の銃を取り出した。

マリアは非常口から出ていった。

その後ろ背中を見送る。

「さて…」

レーカは後ろを振り向いた。

「あなたは何者?」


「お名前は?」

「…バデラス。下の名前はない。」

「名前は2人とも同じなの?」

「…ああ。」

「どうしてあなたはシリウスさんの魔法を使えるの?」

「アリエルさんに手伝ってもらった。

彼女の万物創造でシリウスの魔力そのものを作って、シリウスの血液を再現したものに取り込ませる。

それを体内に摂取して、徐々に適応していく。」

「元々の魔法は?陶臓によって作られる魔力は?」

「そんなものはない。なぜならー」

バデラスがにやりと笑う。

「私たちはこの世界の人間ではないから。」

「…なるほど。そういうこと…。

私も1人知っているわ。異世界から来た人を。」

レーカは銃を構え、弾丸を放った。

二発の弾丸は正確にバデラスの眼球を貫いた。

「…というか、私こそお前が何者なのかを聞きたいんだが。」

目を撃たれているのに特に痛がるそぶりも見せない。

「その圧倒的な魔力量…。ただものじゃないな。」

「いいえ?私はただの、みんなと同じ魔法使いよ。」

レーカは答える。

「ふーん…」

バデラスは軽蔑した様な視線を向けた。

その次の瞬間。

彼女の姿が消えた。

「…壊撃-3。」

一瞬の間に移動したらしく、彼女はレーカの後ろに立っていた。

しかし、レーカは何ともない様な顔をしている。

(…?切ったと思ったが。早すぎてまだ切られたことに気づいてないのか?)

「…壊撃。王家の分家であるテリアメス家に代々伝わる剣術。

速度、威力、精度、全てが圧倒的でとても他の剣術を寄せ付けないほどの強さを持つ。

でも、それはテリアメス家の血液のおかげ。初代であるレベルス=テリアメスの遺伝子が作る血液のおかげなの。」

「……。」

「あなたはさっきシリウスの血液を再現したといったけれど、完全ではないようね。

ほら。」

レーカはバデラスの頬を指差す。

ヒビが入っていた。

「一撃一撃ごとに体にダメージが蓄積されていく。

凡人が真似をしても、一発で体を壊してしまう。

それでも真似をする人はいっぱいいて、多くが死んだ。だから「壊撃」なの。」

「…なんでお前がそんなこと知ってんだ?

そしてなんで無傷なんだ?」

「シリウス=テリアメスの記録を見たわ。私は記録チーム職員よ?

あと、一度見たものは決して忘れないの。」

「…記憶系の魔法か。」

「あながち間違っていないけど、正確には少し違うわ。

具体的なことは言わないけど。」

「クソ女が。」

「うん、よく言われる。」

「…壊撃-6。」    

イライラしているのが見てわかる。

バデラスの剣はレーカの頬を掠めたが、ほぼダメージになっていない。

夜風が当たる様に耳たぶを優しく撫でただけだ。

「「壊撃」の動きは私も知っている。

どれだけ優れた剣術も、動きがわかれば躱わすのは簡単なもの…」

レーカは「壊撃-1」を医療用バサミで止めながら言った。

「ちっ…」

バデラスの顔に焦りが見える。

と思ったがすぐに無表情になった。


「……兄貴。」

旧館。エラルドは兄、オルガレスと対峙していた。

「エラルド。お前とアゲハのことは聞いていた。」

オルガレスは徐に話し始めた。

「出ていったお前のことを心配しなかったわけじゃない。

お前なら大丈夫だ、とそう思っていた。」

エラルドは前を見つめたままだ。

あたりに制御できなくなった魔力が漏れ出し、彼の輪郭をぼやけさせた。

「お前が無限ホテルで働いていることも噂になっていた。

お前の活躍、俺は嬉しかったぞ。それがどんなものであれ。

ーただ、少し…多くを殺しすぎたな。」

オルガレスは魔法を発動した。

彼の能力は「術式保存」。

すなわちエラルドと同じだ。

「…俺の跡と兄貴の跡、どちらが優れていたか…決めようじゃないか。」

エラルドの口から言葉が漏れ出した。

次の瞬間。

旧館は跡形もなく吹き飛んだ。










































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