ファウスター
一方、無限ホテル。記録チーム本部。特別指定職員はシャルロッテ。
そこは彼の亜空間によって作られた「壁」で守られており、硬い防御を誇る。
彼らは戦闘において保安チームの次に秀でている。
理由は数多の戦闘記録が部員全員の脳内に蓄積、解析されているからだ。
数は少ない。が、個々の戦力はトップクラスであり、中には「白剣」と同じくらい戦える者もいる。
「…保安チーム、港町を制圧。しかし数は大きく減り、部門員の1/6ほどしか残っていません。」
「了解。敵には謎の個体がいた様だが、その死体は今どこにある?」
「港町に置いてある様です。」
「わかった。回収してくる。」
そういうと、シャルロッテは亜空間で本部を出て行った。
「はあ…やっと行った?」
部内の空気が緩んだ。
保安チーム一級、ギアートは呟いた。
「ねえレーカくん。あいつどう思う?」
ギアートはレーカに聞いた。
彼女は記録チーム3級。入社時からそうだ。これは前例のないことであるが、エルドアはそんなに深く考えていなかった。
「………。いい人です。」
レーカは特に何も考えず、率直な感想を言った。
元帝国軍の人間らしい、ということ以外はよく知らなかった。
彼女は別のことを考えるのに必死だった。
(…あの敵…)
「実はさー」
ギアートは何かずっと喋っているが、彼女はほぼ何も聞いていなかった。
レーカは映像記録、エントランス付近で戦っているメチルを見ていた。
(……)
そして何かを思った様に、本部から出て行った。
無限ホテル、エントランス。
全ての特別指定職員が集合していた。
目的はメリアドール社最高戦力、「黎明」の抹消。
「…エラルドを放置していいものだろうか?」
ガングートは聞いた。
「さあな。」
メチルは答えた。
「…。あいつは何があったんだ?」
ノスタルが聞いてくる。
彼は統括チームの特別指定職員。
いつも命令に忠実だったエラルドが命令を無視したことが衝撃的だったらしい。
「ああ。あなたは知らないんだっけ?
まあ…要は嫁と子供を殺されたようなものなんだ。
直接手を下したのはジラーリアだけど」
「?じゃあジラーリアを…とはいかないか。」
「そう。そういう意味でも彼女は罪深いんだ。」
「おい、くだらないおしゃべりをしているほど暇じゃない。」
唐突に話に割り込んできたのはサノワール。
特別指定職員の中では珍しい女性職員だ。
「あいつらをどう対処するつもりだ?」
「もちろん、1人一体だろ。」
「数も数えられんのか?「黎明」のギルド構成員が5人。
私たちも5人だ。ファウスターとあのシリウスもどきを誰が対処するんだ?」
そう、それが問題であった。
「黎明」のギルド構成員だけなら負けることはないが、流石にファウスターまで相手している余裕はない。
「…シャルロッテは?」
「今港町に出ている。」
「レーカードはあとどのくらいで帰ってくる?」
「戦闘後だ。とてもあの2人を相手できるとは思えない。」
(…詰んだか?)
と思ったその時。
「…お前たち、特別指定職員を全滅させれば、もうここは僕のものだな。」
ファウスターがつぶやいた。
あたりを大きな衝撃波が襲った。
波動は空気を震わせ、部屋を揺らし、中の生命を破壊する。
「…「クロノウェイブ」。君たちといえど無傷では済まない。」
メチルはグラグラする頭を抑えた。
「さあ、終わりだ。」
彼がメチルに向けて手を伸ばした瞬間。
その手が切り落とされ、血に落ちた。赤い液体が小さな池を作った。
「…させないわ。」
いつのまにか後ろにジラーリアが立っていた。
が、いつもの様な邪悪さは感じない。
顔が赤い。全身から汗が吹き出ている。
足元はどこかおぼつかない。
(……。は?)
「おい、どうした?」
「…別に。」
「え?媚薬でも誤飲した?」
全く空気を読まない発言をしたのは、財務チーム特別指定職員、アキレアだ。
今の今まで黙っていたのに急にどうした、と思ったが、よく考えればいつもこんな感じだ。
(また性懲りも無く…)
と思いつつメチルは少し笑っていた。
「……。」
ジラーリアは軽く睨みつけた。
逆に不気味だ。いつもならこの後彼女に習字用半紙くらいの薄さに潰されるのに。
「おいジラーリア?病気か?具合悪いなら寝てた方が…」
メチルはいう。
「…うるさいわね。あなたまでそんなことをいうの?」
「……。」
いつもの覇気がない。
ジラーリアはファウスターの前に立った。
そして、
「FR」で壁に激突させる。
無限ホテルの壁を破り、そのまま遠くまで飛んでいくかと思われた。
が、ファウスターはある程度まで吹き飛ぶと、そのまま戻ってきた。
「時間遡行」。時間を巻き戻すことで、さっきと同じ動きを逆から行うという魔法。
(…はあ、本当面倒くさい…。ただでさえこっちは具合悪いのに…。
これだから時間系統の魔法使いとはやりたくないのよね…)
ジラーリアはファウスターの顔を掴み、床に叩きつけた。
何度もあたりに恐ろしい音が響き渡る。
シリウスもどきが突進していいく。
「「壊撃-3」!」
しかし攻撃は空を切り、剣はへし折られた。
ジラーリアは冷静にファウスターの腹を貫き、押し潰した。
が、すでに彼の体は回復していたため躱わされ、地面が抉れるに留まった。
しかし明らかに魔力を大きく消耗している。
「まあ、あれは大丈夫そうだな。」
メチルは呟いて少し違う方向に視線を向けた。
「どれがいい?好きなのをとれ。」
ガングートはしばらく眺めていたが、
「じゃあ、左から二番目を。」
「そうか。理由は?」
「なんとなく、だな。」
「あ、そう。」
左から二番目というのは、赤い髪の男だ。
特に特徴のない、どこにでもいそうな顔である。
しかし全身を流れる魔力量は明らか凡人のそれではない。
ガングートは一つ息を吐き、男に飛び掛かって行った。
だが、途中で止まった。
理由は件の銀髪、シリウスもどきが目の前に現れたからだ。
彼女の剣をすんでで避け、メチルの横に戻ってきた。
「私の相手は?」
(…性格まで若干似てるんだが?)
ガングートは頭痛がしてきた。
「壊撃-5!」
と叫ぶ声が聞こえる。
メチルは触手を伸ばし剣を抑えた。
ギリギリ相殺できる程度の威力。
(これならー!)
メチルが反撃に移ろうとした時、
ふっと彼女の姿が消えた。
(は?)
目で追うことすらできずに消えた。
この感触をメチルは知っている。
(まさかー)
脳裏に嫌な予感がよぎった瞬間。
腹部に激痛が走った。
メチルが少し首を傾けると。
(……!)
血が吹き出しているのが見えた。
ガングート、ノスタルがすぐに向かってくるが、「黎明」らに防がれた。
アキレアとサノワールも同様だ。
「…本当にシリウスみたいだな。」
「…。
結構頑張ったんだ。シリウス=テリアメスという魔法使いは非常に強力だからね。
必死に能力を使いこなせる様に何度も何度も練習してー
完全に模倣した。もはや私はシリウスそのもの。」
「…。でも、一つ違うところがある。」
「何?」
「お前の名前は?」
「バデラス。」
「…。そうか。
たしかに、能力も運動神経も壊撃も、間違いなく本物だ。シリウスそっくりだ。」
「…。」
「だがな。ーあいつは、俺の嫁だ。
本気で喧嘩したこともなくはなかったけれど、ここまで本気で切ることはない。」
「……!!」
メチルの触手が白く染まり、先が青く燃え出した。
「これを使うのは三回目だ。せいぜい死なない様にー」
そう言いかけた時。
メチルは再び黙った。
バデラスが笑っていたからだ。
「何笑ってんだ?」
「いや。ただ、一つ…」
彼女がいうと、
ずるりという恐ろしい音と共に、背後から何かが出てきた。
「私、双子なんだ。」
(…は?)
信じがたいことに、バデラスと全く同じ見た目の人間が出てきた。
(どこから出てきたんだ?)
まず、双子はほとんど存在し得ない。
魔眼の発現は、死産を経験した親、もしくは双子であった場合と言われる様に、魔力が互いの魔法を食い合うせいでどちらかに吸収されてしまうのだ。
双子という存在は奇跡的と言えるだろう。
(……。)
というかそもそも、なんでこいつがシリウスと同じ魔法を使っているのかわからない。
(…クローン技術?だがクローンを使用して体は再現できても魔法を再現することはできない。
魔法は遺伝子とは独立して発生し、その人に刻まれるからだ。
考えられるのは…シリウスの魔力を何かしらの方法で貯蓄し、それを誰かに…。
いや、それだとその人の持っている魔力と反発する…。
ああもう、面倒だ…)
メチルは触手を双子に伸ばした。
数本貫通したが、どちらも致命傷には至ってない。
炎が彼らの体を焼き尽くすのも当分先になるだろう。
その時。
双子の片方が突然走り出した。
「!?」
メチルは後を追おうとするが、もう片方に止められる。
「……。」
彼女が向かった先にあるのは、救護室。
(だが救護室には今アリエルをはじめとする職員数名がいる。
なんとかなるー)
と思った瞬間。
彼はふとあることに気がついた。
アリエルの魔力がどこにもない。
このホテル中のどこからも、まるで死んだ様に忽然と消えてしまった。
(アリエル!?どこに行った?)
バデラスはどんどん救護室に近づいていく。
(まずい、このままではー)
救護室の職員たちが死んでしまう。
(というかあいつ本当にどこに行った?)
メチルの魔力探知は非常に繊細。引っかからないはずがないのだが。
バデラスはずんずん進んで、救護室の前に着き、そしてー
止まった。
(…。なぜ?)
救護室の中に、一つの膨大な魔力を感じた。
自分の知らない魔力だ。
一級、いや特別指定職員にも匹敵するほどの魔力量。
(誰だ?)
考えてもわからない。
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。




