記憶 8
帰ってきたシリウスが見たのは、半分壊れた屋敷だった。
(…………?)
唖然とした。
今度は何だ、と思った。
幸い周りにほとんど人がいないから、噂にはなっていない。
中途半端に開いた扉を押して中に入る。
まず玄関でガングートが寝ていた。
(……。)
その眠る顔にイラッとした。
胸の辺りを踏み室内に入る。
「うぐっ」と不思議な声を立てて、彼は起きた。
無視して中に入る。
(トアレスは…?ジラーリアは?)
メチルを一階で寝かせて、2階に上がる。
部屋の扉を片っ端から開けるが、人影すらない。
嫌な予感が拭いきれずにいた時。
「誰…?ってシリウスか。」
一番奥の部屋からトアレスが出てきた。
「ああ、トアレス…無事か?なんで家がこんなふうになってる?」
「それがわからない。昨夜、ファウスターがやってきてジラーリアに手を出そうとしたから応戦したはずなんだけど…」
彼女は首を捻った。
「いつのまにか寝ていたの。私もガングートも。というか記憶が曖昧で、ファウスターに確かに攻撃を与えて、彼が傷を負って出ていくところまでは見届けたんだけど…」
「2人同時に同じ夢でも見ていたのか?」
「いや、それはない。でも、なんで屋敷がこんなふうになっているのか見当もつかない。
それに…」
「ああ。問題、というか本題は…」
「ジラーリアはどこにいったか、だな。」
ようやくガングートが上がってきた。
「よくないな。精神的にかなりきつかっただろうし、これ以上の戦いは…」
そう言いかけた時。
遠くの方で爆発音がした。
「何だ!?」
ガングートは慌てて外を見た。
遠く離れたところでわずかに煙が上がっているのがわかる。
「…あれは帝都のほうか?」
ガングートは1人かけだした。
トアレスもそれに続く。
が、シリウスはそれを追いかけなかった。
不思議な匂いを感じた。
(これは…)
「すまない、先に行ってくれ。私は雑用がある。」
2人を見送り、シリウスは部屋の机を開けた。
(やっぱり!)
そこには果たして思ったとおり、彼女が買った花束がおいてあった。
(でも、なぜこれがここに…?)
その時、花びらが机から落ちてあるところに続いていることに気がついた。
それを辿ると…
(ゴミ箱だ。何かがある。)
それは紙切れだった。
拾い上げる。内容を読む。
それは、メチルに当てられた手紙とほぼ同じ内容だった。
(…。)
話を聞くに、ファウスターはこの部屋に足を踏み入れることはできなかったようだ。
だから玄関の花にこの手紙を紛れ込ませた、と考えられる。
そして彼女はすでにこれを読んだようだ。
(……くそ。じゃあ、もうジラーリアは自分がやったことに気が付いているのか。)
それはまずい、と確信する。
精神的に追い詰められた状況で、自分がまさか友人を殺したなんてなったらいよいよ彼女は精神が崩壊する。
(だが、だからどうしたんだ?それでどこに行ったというのか?)
シリウスは疑問に思っていた。
が、手紙には裏があった。そこがメチルへの手紙の違いであった。
そこに書かれていた内容をみて、シリウスは愕然とすると同時に駆け出した。
(まずい、間に合うか?いや、間に合ったとしても…)
手のひらの汗が手紙の字を滲ませた。
そこにはこう書かれていた。
「次の実験材料はお前の妹だ。
お前は彼女を絶対に捕まえられないと思うかもしれないが、こちらには帝国がついている。
そう、これは国ぐるみの実験なのだ。諦めたまえ…」
彼女は玄関の前で止まった。
自分の決断がここまで揺らいだのは初めてだった。
まるで蝋燭の上の空気のように、ゆらゆらとゆらめく。
(…。無理かもしれない。もうここで終わらせてから逝こう。)
そして、
「メチル。」
と呼びかける。
メチルは部屋のベッドで寝かされていた。
「ああ、シリウス。どうした?」
眠れた時間は20分程度だが、かなり体力を回復できたようにメチルは思った。
シリウスはベッドに潜り、彼の上に乗った。
メチルは困惑したような顔を浮かべた。
そしてー
地獄。見たことがあるわけではないが、もしあるなら多分ここだろうとガングートは確信する。
帝都は焼け野原となっていた。
黒い稲妻が辺りを駆け巡り、建物は軒並み薙ぎ払われている。
あちこちに点在する壊れたなにかから黒い煙が上がり、人々の悲鳴が破壊音に紛れて聞こえる。
帝国軍が対処しようとしているが、残念ながら横を通られただけで首が飛んでいる。
(…なんだよ、これ。)
彼らはトアレスの「万能反射」で影響を抑えられているが、それですら完全に無効化できているわけではない。
ガングートは自分の腕を見る。いつのまにか腕に抉れたような大きな傷ができていた。
トアレスはどうやら死を覚悟したらしい。
ガングートも同様だった。
(あれ、ジラーリアだよな…)
遠くの空を飛んでいる、ゆらゆらゆらめく煙のようなものを眺める。
とてもそうは見えない。
ただの黒い塊だ。恐ろしい。
黒い塊が辺りを這いずり回りながら全てを破壊しているのだ。
瓦礫が飛んできて、2人にぶつかった。
魔法障壁で防ぎつつ、目の前を見る。
何か飛んできて視界を奪われる。
手で掴むと、おそらく元人間の一部だ。
正直どこの部位なのか全く見当がつかないほどに損傷している。
帝国軍の大将や中尉などの幹部クラスもほぼ何もできずに命を取られているのが見える。
「はあ…シリウスがいれば…」
(こんなときにあいつは何をやっているんだ…)
イライラはマックスに達した。
ガングートは魔法を発動した。
「…ごめん、ガングート。少し用事があるから、ちょっとだけ待っていてもらえる?」
「ああ?いいよ。」
(果たして自分はこの化け物に勝てるのか?)
わからない。別に勝ちたいと思うわけでもない。
ただ、メチルのためー。そう、メチルのために動く。
彼は空高く飛び上がり、ジラーリアと対峙した。
「…ん、んん…」
「……。大丈夫?強すぎた?」
「ああ……………うん。」
「……。」
「…。」
「……………何を考えているの?」
「いや、その痣…」
「いいよ。それよりもほら。もっと…」
「……ああ。」




