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無限ホテルの雑務員。  作者: AO
禁書
44/53

記憶 4




テスラは沈黙していた。

「どうしたの?よく思い出せない?」

(……。)

「思い出したくないの?思い出すのに時間がかかっているの?」

(………。)

「そうね。嫌な記憶を思い出すのはさながら怪物の臓物を切り離す様なものでしょう。

それは困難で、かつ嫌な感触がして…。吐き気を抑えるのは困難でしょうね。

まあ構わないわ。では、代わりにこれを読んでみるのはどうかしら?」

そういい、レベルスは一冊の本を差し出した。

(……。)

件のジラーリアが書いたらしい本だ。

それを手に取った。

あたりの風景が変わった。

「ここはどこ?」

レベルスが尋ねる。

今まで座っていた白い椅子ではなく、図書室の様な場所だ。

(私が中学校に通っていた時、よく使った図書館だ。)

あの時は多くの人で常に満たされていた。が、今は誰もいない。

不特定多数の足音とページを捲る音は、彼女の中学時代のBGMとしてレコード代わりに脳裏に刻まれている。

真の静寂があたりを埋めている。

「…ふうん。そうか、あなたは違う世界からきたんだったわね…。じゃあ、読む?」

レベルスが差し出した本を受け取る。

なぜ彼女が司書の格好をしているのか。そしてなぜ受付カウンターにいるのか。

そのメガネはどこから持ってきたのか。理由はわからないが本を開く。

「……長すぎるように見えるわね。貸してみなさい。」

再び取られてしまった。

「じゃあ、読むわね。」

音読してくれるようだ。

椅子に座り直す。


「終わったぞ。」

メチルとエラルドの2人が家に帰ってきた。

学校を退学して約2年。

ここはジラーリアの屋敷。

元はキオンの屋敷だがそれを奪った。

「「私立魔法研究所」は壊滅した。全研究者の殺害を完了した。」

そういい、メチルは机の上に職員一覧をまとめたレポートを投げ捨てた。

ばつ印がいっぱい。赤いマーカーはまるで血のように紙を染めている。

ガングートがお茶を淹れた。

「ええ、お疲れ様…。これでもう、あとは一つだけね。」

ジラーリアは手元の紙を見た。

そこにはキオンの配下と思われる様々な組織や研究所の名前が書いてある。

「最後は私が行くわ。たぶんファウスターがいるでしょうし1人でね。」

メチルは静かに頷いた。

「アゲハのこと、迎えに行っていいか?」

アゲハとエラルドは結婚した。2人の間には1人の子供が、まだ生まれていないがいる。

妊婦は今病院に行っている。

エラルドが病院まで迎えに行くようだ。

名前はジラーリアがつけていいことになっている。これはこの国の名前は知り合いの中で最も強力な魔法使いがつける、という風習があるからだ。

「ええ、手伝ってあげなさい。」

「…祝勝会の準備でもしますか?シリウスも呼んで。」

「ええ。トアレスも呼ぶわ。」


「あああっ!」

情けない叫び声。

全身喪服のような真っ黒い服に身を包み、耳にイヤーカフのようなものを備えている。

ジラーリアの手が、胸を貫通した。

ここは「懲罰教会」本部。

キオンの息がかかった生徒が最後につぶやいた場所だ。

「……。」

ジラーリアは警備にあたっていた連中を虫けらのように蹴散らしながら、最上階に突撃する。

重いドアをまるで木の板を破壊するようにぶち抜く。

「おや。思ったよりも遅かったな。」

そこにいたのはキオンだった。

「……ずいぶんと落ち着いているな。自分が今から死ぬことはわかっているのか?」

「さあな。死ぬのはお前かもしれないぞ。」

「お前の部下たちはみんな死んだぞ。お前を慕っていた生徒たちは全員私とトアレスが殺した。お前の配下にあった組織も、シリウス率いる国軍やメチル、エラルドが潰している。」

ジラーリアはあくまで冷静に言った。本当なら今ここで彼の首を切断してやりたいのだが。

「…メチル、か。知ってるか?あいつかつてここにいたんだぜ?」

「ここって?懲罰教会か?」

「そうだ。ここは痛みで人間たちを統制する場所でな。洗脳の恐ろしさを理解できる。というのも…」

「いい。興味はない。」

ジラーリアは指を銃の形にして、キオンを狙った。

「……。お前は本当に最後まで、そうなんだな。」

「何がだ」

「お前とはじめて会った時、お前は何歳だったっけ?」

「16。」

「あの時お前を…道端であったお前を見て思ったよ。

お前は強くなれそうだ、と。だから…」

「……。」

「やはり、去年あの学校で殺しておくべきだったか…」

「わかってるじゃないか。そりゃそうか。お前だもんな。」

「…娘は元気か?」

「ふざけてるのか?」

「そうだったな。それにしても皮肉なものだ…。自分が与えた力で死ぬかもしれないなんて…」

ジラーリアは妙な違和感を感じた。

キオンはなぜこんなに弱気なのか。普段の彼なら、自分が入った瞬間に発砲しているだろう。

今目の前でぶつぶつつぶやいている男は本当にキオンなのか?

耳につけている機械は「魔道分析機」。

魔力の干渉を分析して次の攻撃の予測や魔力の解析を行う。

その解析結果によると目の前にいる男は…。

気になる点はさらにある。

ファウスターがいない。

こいつのことだからきっとファウスターもいるだろうと思って構えていたのに拍子抜けだ。

魔力探知で探しても少なくとも半径10km以内には自分の攻撃を一発でも防げそうな奴はいない。

「…。ジラーリア、最後に一つ教えてくれ。」

「…知るか。」

それだけいうと、ジラーリアの攻撃が発動した。

一瞬でキオンの首元を掴み、壁に叩きつける。

が、それとほぼ同時にキオンの魔法が発動した。

「狂気」。

相手の魔法とそれに対応可能な魔法を同時に入手し、さらにそれを使いこなす。

(こいつは誰かを圧倒するためだけに生まれてきたのか?)

意味がわからない能力だ。実質的に敗北する要因がない。

(まあ、自分もそうかもしれないが…)

そう、ジラーリアもそうかもしれない。

いつだってクラスに1人は、勉強も運動もできる奴がいる。

努力をとても積み重ねたのに、残念ながらあまり努力してこなかった人間に敗北を喫することがある。特に運動や芸術の分野で。

ジラーリアはそう言った人間を羨ましいと思ったことはない。なぜなら彼女がそうだからだ。

(そしてきっとキオンもそうなんだろう。)

高い能力を行使することは、人から尊敬されることと同時に嫉妬される可能性を孕む。

嫉妬という感情が人間に特有なものかは知らない。

ただ自分の種のDNAを残すことを使命とする生物として、自分より多くDNAを残せそうな相手を憎く思うというのは本来ならばあり得ない感情なのではないかと思う。

それとも種としてよりむしろ自分の遺伝子を残すことに執着していて、それの延長上に嫉妬という感情が存在しているのか。

はたまた、本能的欲求より高次の社会の承認欲求を満たすための足掻きの原動力であり、自分をより高度な存在へと昇華させようとするための羽なのか。

(人間の一生というのは、すなわち嫉妬という狂気の連続なんだ。

誰もが誰かに嫉妬して、嫉妬されて、それの繰り返し。)

これが誰の言葉なのかもう忘れたが、ジラーリアにはわからない。

嫉妬するほど他人のことをよく知らないし、興味を持ったこともない。

「自分は自分」だと生きてきたから。

「さあ、最後だ。」

キオンがそっとこちらを向く。

ジラーリアは一瞬、ためらった。

(…なんだ、この違和感。)

キオンらしくない。本当にキオンなのか?

だが、そんな迷いは一瞬のものだった。

ジラーリアは凄まじい一撃で、キオンを完膚なきまでに破壊した。

壁の破片やガラスが飛びちる。

「終わったな。」

そっと呟く。

ジラーリアは壊れた部屋を後ろに、再び歩き出した。


帰ってきた彼女を迎えたのは、メチルとガングート、トアレスの3人だった。

「キオンは?」

「殺した。もう遺体すらも残っていないだろうな。」

ガングートがパチパチと手を叩いた。

つられてトアレスとメチルも手を叩く。

空虚。だが、雑然として澱んだ空気よりもこうした冷凍庫のような澄んだ空気の方が彼らの心情には合っていた。

「長かったな…」

メチルが呟く。

ほとんどの組織を潰したのは彼とエラルドであった。

トアレスはキオンの追跡をしていて忙しく、ジラーリアも諸々の情報集めに忙しかった。

「そういえば、エラルドはまだ来てないのか?」

ジラーリアは聞いた。

「うん。まだみたいだね。でもそのうち来るんじゃない?」

トアレスが答えた。

「…。ああ、やっと終わったか。」

もう一度ジラーリアはつぶやいた。

「もう休んだら?精神がまだ安定しないでしょう。」

トアレスが提案する。

























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