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無限ホテルの雑務員。  作者: AO
禁書
39/53

記憶



「……。」

テスラはページをめくった。

が、そこはぐちゃぐちゃと塗りつぶされていた。

次のページも、その次もそうである。

いや、塗りつぶされているわけではないようだ。本が塗られているのではなく、自分の視界の方がこの本の部分だけ見れないように汚されている。

コンタクトを確認するが、外しても変わらなかった。

「あの、この本…」

「言っただろう。それは「禁書」だ。そこからは情報規制によって読むことができなくなっている。この国の闇に触れることになるからな。」

「そうですか。」

テスラは本を返そうとした。

「いや、いい。君にあげよう。お代は結構。

そして、これとこれもあげよう。」

老人はさらに本を二冊差し出した。

一つは「帝国史」というタイトルの薄い青色の本。もう一つは「剣術基礎」という緑の本だ。

「ありがとうございます。」

彼女は三冊の本を抱えて本屋を出た。

出た後もゾクゾクした感覚が止まらなかった。

ふとその時、視線を感じた。

後ろからだ。

すぐに振り返る。

が、誰もいない。

しばらくあたりを見回して、ふと恐ろしいことに気がついた。

誰もいないのだ。

あれほど賑わっていたはずの街に人が誰もいなくなっていた。

まるで時でも止まったように、静かな空気が空に満ちている。

彼女は頭がガンガンするのを感じた。

足音も聴こえない。自分の心音だけがメトロノームのように規則的に時を刻んでいる。

彼女はかけだした。

その瞬間。

まるで瞬間移動してきたように、何かが後ろに立っていた。


全身赤い人型の何かだ。

人間ではないのはすぐにわかった。

目らしきものが5つついている。

二足歩行で腕も2本あり、その手には人の体の一部らしきものが握られている。

武器は持っていないらしい。

テスラはレベルスを抜いた。

何かが目の前を横切った。

速すぎて見えなかったが、レベルスの「防御結界」が攻撃を防いだ。

一瞬の間に目の前に迫っていた'それ'を切り裂こうと剣を突き立てた。

が、逆に剣が跳ね返された。

キーンという金属を殴ったような音と共に、レベルスが地面に突き刺さった。

自分の体が大きく後ろに突き飛ばされる。

起き上がってみる。

'それ'を見て彼女は驚愕した。

背中のあたりから数本の細い何かが見えている。

(これは…)

それは紛れもなく、メチルの「触手」だった。

(………)

額から血が一滴だけ滴った。


(……ん?)

一方の無限ホテル。

メチルは20000階の「図書館」にきている。

「ここは本当に多くの本があるな。それこそ、無限にちかい数の。」

エラルドとアリエルが横に座っている。

「そうね…。私がここにきた時、持ってきたものもあるけれど…」

ここの本のほとんどはジラーリアが所有していたものだ。

さまざまな研究機関から強奪したもの、帝国の国立図書館のもの、禁書、異世界に関する本、ここの職員に関するもの…。

本の整理はサービスチームと記録チームが行なっている。

「なあ、なんだか外がおかしくないか?若干、空間が歪んだというか…」

メチルは窓の外を見ながら言った。

だが、アリエルもエラルドも何も言わない。本に夢中になっている。

アリエルは「最新魔法薬100」、エラルドは「若草物語」を読んでいる。

「…。そうですね。記録によれば、ここの周辺の時間軸が固定されたようです。」

彼に応えたのは司書だった。

制服的に記録チームの職員らしい。

メチルも初めて見る顔だった。

「…君は?」

「レーカ・モルテーノ。記録チーム職員です。」

「記録チーム…3級か。」

(…こんな子がいただろうか?)

このホテルの職員はほとんどが5級、4級だ。

3級となってくると、せいぜい上位5%程度しかいない'少数派'となる。

まして記録チームのような碌でもない連中の集まり(連中の部屋は全て亜空間にあり、無限ホテルの最深部の一つだ。)のなかでこうしてきちんと出てくるような珍しいタイプを覚えていないわけがないと思うのだが、どうもメチルは知らない。

髪は白く染めているようだ。目は黒く、全体的な容姿はジラーリアに似ている。

使う武器は二丁拳銃のようで、一丁は右のスカートのポケット、もう一丁は足に括り付けた小さな入れ物の中だ。

「…時間軸の固定、ということなのでおそらくファウスターの眷属の魔法の可能性があるかと。すでにレーカードさんが保安チームを率いて見回りに行ったので、あなたが気にすることはないと思います。」

それだけいうと、彼女は司書室に帰って行った。

(…どこかで、見たような気がする…)

メチルは彼女のことを知っているような気がした。が、どこであったのか思い出せなかった。



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