表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無限ホテルの雑務員。  作者: AO
禁書
37/53

理解



「……!何で…!」

そこには、想像もしない景色が広がっていた。

「こんにちは。生憎だけど、あなたに死なれると困るのよ。」

そういった人物の声は、以前と違い少し暖かかった。

黒い艶のある髪が、光を反射して輝いている。

「…ジラーリア、さん…?」

そこに立っていたのは、素手でレベルスを受け止めたジラーリアだった。

「…おい、邪魔をするな、失敗作。」

理事長がいう。

「とりあえず、止まった時を戻しましょう。」

ジラーリアは理事長を睨みながら言った。

「…おい、シリウス!?」

「大丈夫か!?」

後ろで二人の声がする。

「ええ、それより…」

シリウスはジラーリアの方を見た。

ジラーリアは少し笑っている。

その笑いに、シリウスは自分の想像を遥かに超越した何かを感じた。

そっと胸を触られた。みるみるうちに傷が回復していく。

(…この2人は…。一体どういう関係なんだ…)

「久しぶりね、キオン。」

「ようジラーリア。お前の娘は元気か?」

「…ええ。」

(…娘!?)

三人は驚愕した。

「えっ、ちょっと待って…」

エラルドもメチルも流石に動揺した。

「…ジラーリア、あなた何歳なの?」

「16よ。」

「…そう。」

シリウスは全て理解したような気がした。

最初会った時に感じた、絶対的な他者との違い。

誰にも感じたことのない、本能的な不気味さ。

人は皆、自分だけの痛みを感じて、抱えて、考えている。

だからある時はぶつかったり、ある時は共鳴したり…。

シリウスはその経験上、あらゆる人の痛みを味わってきた自信があった。

孤独の味も、期待の味も、絶望の味も、暴力の味も、全て胸に染みついている。

でも、彼女のそれと共感するには、自分ではまだ足りない。

それは、社会的尊厳を保とうとして生まれた悲しみではなく、より根源的、生物的欲求に駆られて犯された過ちによって生まれた悲劇であり、自分の経験してきたそれとは次元が違うのだ。

いや、あるいはそうではないかもしれない。

結局自分は何もわからない。でも、きっと彼女の本能的拒絶は無視されたのだ。

「人間は社会的動物」。だが、それ以前に動物である。

吐き気がする。眩暈がする。それでもしっかりと立っていられるのは。

「…何?同情しているの?」

「いいえ。ただ…あなたという人間の本性を、垣間見たような気がするの。」

それはまるで真っ暗闇の中、小さな蝋燭で壁画を見るようなものだったけれど。

シリウスは確実にジラーリアのことをわかった。

彼女は剣を奪い返した。

「…ジラーリアさん。これが終わったら、少し話したいことがあるわ。」

「そう。私もあなたに話したいことがあるの。」

二人は並んだ。

「…ふむ。なるほど。」

理事長はうなずいた。

メチルとエラルドは完全に自分が置いていかれてるのを感じた。

そして何となく状況を理解した。

二人が攻撃をしようとした瞬間。

「…遅すぎますね。なぜこの程度で優勝したのか…」

ドサッという音がした。

振り向くとメチルとエラルドが倒れているのが見える。

死んではいないようだ。

「おい、時間止めれるような奴が一撃入れられるのは当たり前だ。調子に乗るな。」

「…というか、ジラーリアはともかく、なぜあなたに「次元牢獄」が効かないんですか?」

シリウスの言葉は無視された。不愉快だった。

「レベルスのおかげだな。こいつの「魔法影響無効」を発動しとけば時間停止は効かねーよ。」

「そうですか。」

それだけ言うと、理事長がすっと手を出した。

「ま、関係がないですよね。私の「凶気」の前では。」


二人は今までいたところとは違うところに飛ばされていた。

「おい、ここどこだ。さっさと帰せ。」

その時、シリウスは本能的に危険を予知し、すっと身をかがめた。

それは正解だった。

後ろの柱が音もなく切れ、ずり落ち、床に轟音を立てて墜落した。

「…ここでは、戦いにくいですね。」

ジラーリアがそう呟き、壁を一回ぶん殴った。

部屋は一気に広がり、随分と広くなった。

「ここはあいつの屋敷です。おそらくあいつの魔法で知らない間に転移したんでしょう。」

「そっか。何で知ってんの?」

「私、以前住んでたんです。」

シリウスは後ろのドアを蹴り破った。

「おっと、逃げようったってそうはいきませんよ。」

結界が張られた。相当な強度で、もう逃げることはできない。

壁も強固で破壊は難しそうだ。

「…というか、あいつの魔法…「凶気」って何だ?」

「様々な魔法の集合体です。ただ、その能力の本質は…。

「常に相手を越えようとする、無限の可能性と凶悪な本能」。

具体的には、

相手の魔法および相手の魔法に対抗できる魔法が同時に手に入り、またその使い方を理解します。

これは、自分に敵意が向いたその瞬間に発動するものです。」

「ほおー。いい魔法持ってんね。だが、教えてやるよ…。

どれほど強い感情も、結局はちっぽけなものさ。

星に比べればな。」

シリウスはいつだって下を見たことはない。

相手と戦うならば、最後の一瞬までそいつを視界に収める。

それが、信条だった。

「…じゃあいこうか、レベルス。さらに正確に敵を切り裂こうと願うから。」

レベルスは白い炎を纏った。

「お前にはこれくらいがちょうどいい。燃やし尽くしてやるよ。」


シリウスの扱う剣術、「壊撃」には0〜7までの8つある。

それぞれの動きに応じて、レベルスが適した魔法を付与してくれる。

壊撃-1が「移動攻撃」、2が「縦斬り」、3が「横斬り」、4が「突き」、5が「遠距離」、6が「防御」、7が「範囲」である。

その中でもっとも強力なのが「壊撃-0」。単純な火力で相手を木っ端微塵にする。

その火力は1〜7までの合計よりはるかに大きく、食らって生き残るのは不可能に近い。

そして、レベルスの色はシリウスの心情の種類に応じて変わる。

ブンブンと剣を振ってみる。

軽い。白い炎が、宙に舞う。

レベルスは自分をどう思っているのか、と思ったことは一度や二度ではない。

この剣は本当に生きているようである。

それもそうだ。もともと、生きていた人間なのだから。

自分の考えと相手の魔法を読んで自在に魔法をかけてくれる。

未来予測、結界、防御、回復、攻撃を同時にこなす、最高のパートナー。

(でも、私では足りない)

この剣はきっと、もっといいパートナーがいるだろう。

剣を前に向け、突進する。

「遅すぎます。」

あっさりと止められた。

ちっ、と舌打ちする。

「魔法を安易に使わないのは賢明ですが…。それでは勝てない。少し遊びに付き合ってあげましょう。

「暴発撃滅」。」

そうキオンが言った瞬間。

耳をつんざくような爆発音が響いた。

それから少し、重力を感じなくなった。

と思ったら地面に叩きつけられ、シリウスは鼓膜が破れたのがわかった。

起き上がると、屋外だ。目の前には先ほどまでとは縁もなさそうな公園がある、

背中がジンジンする。

一体どこまで吹き飛ばされたのか、見当もつかない。

舌打ちする。これでは戦闘に復帰するのは難しそうだ。

「…。あいつらは?」

「魔力探知」の範囲外だった。

つまり大体10kmは遠くに飛ばされたことになる。

これではすぐには戻ることはできない。

レベルスの「転移」も、正確な場所がわからなければ意味はない。

だが、当てもなく駆け出してもどうしようもないだろう。

一回策を弄するべく、ベンチに座った。

(…こんな時、彼女ならどうするんだろうか。)

そっとレベルスを見つめる。


一方その頃。

「…おや、お仲間は飛んでいってしまったようですけど…」

「ええ、そうね。まあ、仕方がないわ。あの人なら多分大丈夫でしょうし…。

それよりもあなたの方がまずいのでは?この爆発で帝国警察が来ますよ?」

「だからなんだ?とりあえず、俺はお前だけでも始末せねばと思っていたんだ。

はっきり言ってあのシリウスとかいう女も始末したいが、それはまた後でになりそうだな。」

キオンは腰から銃を取り出した。

「これは「MB444」。この弾に当たったやつは…。」

「あら。」

シリウスは説明を聞くまでもなくふっと笑った。

「何だ?もっと焦った方がいいんじゃないか?」

銃口は真っ直ぐに向けられた。

が、シリウスは特になんということもない顔をしている。

「そうね。「MB444…」。」

それどころか、顎をあげ挑発する余裕すらある。

「何がおかしい?」

「私も持ってるわよ、それ。」

ポケットから複数個、石のようなものを取り出した。

「さっきもらったわ。ポケットを漁ってみたらどう?」

キオンの顔に衝撃の色が走った。

「ふん。だが、だからなんだ?お前一人くらい」

「服を見たら?」

彼が服を見ると、白い炎が着々と彼の服を燃やしつつあった。

シリウスの置き土産だ。

「ちっ…」

舌打ちが聞こえた。

「ここは引くぞ、ファウスター。

ジラーリア、呪いの子よ。お前は我々「メリアドール」が確実に潰す。」

そういうと、二人は消えてしまった。

ジラーリアはその場に座り込んだ。

(…逃したのは残念だが、あいつの目標のシリウスを始末することは避けられたし…

まあ、よかったか。)

「MB444」を足で踏み潰しながら彼女は思った。

魔力探知でシリウスを探す。


「…よう。」

「さっきぶりですね、シリウスさん。」

ヒュンっと風を切る音と共に、ジラーリアは突然シリウスの前に現れた。

シリウスはベンチに座ったままだった。

彼女はそっと手を伸ばし、頬から流れる血を拭ってあげた。

柔らかく、すべすべもちもちの、れっきとした人間の頬だ。

「どうなった?」

「メチルさんも、エラルドさんも回収しました。

二人とも目を覚まして近くの喫茶店でコーヒー啜ってます。」

「そっか。…。」

無事でよかった、と安堵する。

「で?なんですか?」

「何が?」

「なんか聞きたいことがあるって言ってたじゃないですか。」

「ああ…。いや、君の娘について何だけど…」

言葉に詰まった。聞いていいのかわからない。

「それですか。特になにか話すこともないですけど、何が聞きたいんですか?」

「えっと、まず…誰との?」

「わかりません。正直、強制といった感じですから。」

ジラーリアが隣に座りながら囁いた。

「…………。」

「なんですか?」

「いや、なんでそんなに平然と言えるの?」

「やるしかなかったんです。それがなければ、私は多分今ここにいません。

感触は正直気持ち悪かったです。自分が崩れていくような感じがします。

相手は…誰でしょうね、あれ。」

シリウスは真顔の彼女を眺めながらそっとお腹を摩った。

「…そう。で、その娘はどうしたんだ?」

「知りません。捨てましたから。」

「…は?」

信じ難い事実に、彼女は思わずレベルスの柄に手をかけた。

「いや、捨てられたといった方が正しいですね。

当時12だった私に生むように強制したのは、キオンだったんです。

でも多分生きてると思いますよ。強力な魔法を持った子でしたから。」

「…。」

「本当に、我が子ながらかわいそうな子。

愛も知らない、正義も知らない…、本当なら、兄弟もいたはずなんですけど…。」

「兄弟?ああ…」

シリウスは察しがついた。

「魔眼」の発言条件は、「母体が以前死産または流産していること」。

死産を経験した母親からか、本来双子であったのに胎内で一方が吸収される場合に起こる。

「これでいいですか?」

「…。ああ。」

シリウスは気が滅入った。

想像を超える話だった。

だが、これではっきりした。

「で?お前の話は。」

「…お願いがあるんです。シリウスさん。メチルさんやエラルドさんにも手伝って欲しいんですけど…」

そういって、ジラーリアは話し始めた。

自分の想像する世界を。

「…………。わかった。一緒に頑張ろう」

二人はベンチから腰を浮かし、外に向けて歩いていった。

「…あ、そういえば。娘さんの魔法と名前は?」

「名前…決めてませんでしたが、「ベル」とかにしようと思っていました。

魔法が「暴食」だったので…」

シリウスは未だ見ぬ彼女にそっと思いをはせながら、真っ赤な夕日を眺めた。








































読んでいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ