メチル対シリウス
(…いよいよか…)
メチル、エラルド、アゲハ、ポライト、レーケル、マルトスの6人はあまり気分が優れなかった。
試合開始は10分後。
それまでに作戦を立てたい。
「とりあえずどうする?」
メチルの言葉は、宙に消えていく。
打つ手なし。それが答えだ。
目に見えず、音も聞こえず、魔力探知にすら引っかからないやつをどうやって倒せばいいのか?
「…アゲハ。お前の「必中」であいつの顔面に弾丸をぶち込んでやることってできないのか?」
「無理です。私の「必中」は、狙った位置に必ず当たるものです。
そもそも標的の位置がわからないので魔法効果対象外です。」
残念そうに言った。
「そうか。じゃあ、頑張るしかないな。」
目の前だけを見る。
一歩間違えば、そこで終わる。
試合開始の笛。
予想通り、シリウスはすぐに消えた。
後ろの5人は何をするのか知らないが、うごきも遅いし気にする必要はない。
急いで防御魔法を全身を覆うように展開する。
彼はすぐに、重い衝撃に襲われた。
後ろに貼っていた障壁にヒビが入っている。
一瞬、シリウスの姿が目に映った。
次の攻撃は防げるのだろうか?
横ではエラルドが雑魚処理をしているところだ。
作戦としてはまず5人を倒し、残ったシリウスを6人で叩く、という戦法である。
笛の開始と同時に、一瞬で敵の一人が弾き飛んでいるから、残り四人。
(さすが…)
と思いつつ、シリウスに集中する。
障壁を張り直し、次に備えようとした時。
「ああっ!」
後ろで悲鳴が上がった。
アゲハが大きく弾き飛ばされた。
気絶しかけている。戦闘の続行は不可能だろう。
シリウスの使っている魔道具は変わらずレベルスだ。
わずかに刀身が煌めきながら空を舞う。
「…………」
早すぎる。攻撃を当てるなんてまず不可能だ。
これはおそらく魔法効果「光速」の効果だろうが、こんなに速いものなのか。
(いや、そうだ。)
自分が戦っている相手は1人ではない。
「歴史上最も偉大な魔法使い」。レベルス=テリアメス。
最高の名門テリアメス家の創始者にして、一つを除く全ての魔法を習得した化け物。
そして、「現代最強の魔法使い」。シリウス=テリアメス。
2人からすればこの程度造作もないだろう。
横で衝撃音がした。
エラルドが四人目を倒したようだ。
「おい、ポライト。どうだ?」
メチルは緑髪の男に声をかけた。
「大丈夫…だ!」
そうは見えない。すでに何ヶ所か切られている。
彼の魔法術式は「回避本能」。自身が予測しない攻撃を全て躱す。
チート級の魔法だと思うが、それでも避けきれていない。
致命傷を負うのは時間の問題だろう。
とりあえずエラルドが来るまで時間を稼ぐのは必須。
レーケルとマルトスは気が付かないうちにもうやられたらしく、壁の近くでのびていた。
(…………。)
もともと適当に強い6人を引き連れてきただけで、特に戦略もないのでやむを得ない。
「おい、エラルド!」
「ああ、大丈夫だが…、こいつら「分身人形」持ってるから死ぬほどうぜえ!」
エラルドが怒りを抑えずに叫ぶ。
彼の手から糸筋の光が放たれ、目の前の人影が跡形もなく消し飛んだ。
分身人形。自分とそっくりな人形で、これを撒くことで窮地を脱したり、分身して混乱させたりする。
厄介なものを持ってきたんだな。
「うえっ…!」
声が聞こえた。
ついにポライトも攻撃を喰らったらしく、口から血を流しながらフラフラしている。
「おい、大丈夫か!?」
と声をかけるが、どうも無理そうだ。
やむをえず、彼を抱えて壁まで歩く。
後ろで風を感じる。
魔力感知で、シリウスが立っているのがわかる。
「どうした?不意打ちしないのか?」
メチルは振り向かずに聞いた。
「ああ。お前とは正面から戦いたい。ちなみに急所は外してある。」
「………」
エラルドが最後の一人を倒したようで、こちらに向かってくる。
「…よっ」
エラルドは軽くシリウスに挨拶した。
挟み撃ちできる。が、それにはおよそ意味がないと知っていた。
エラルドを気にしてメチルは好きに戦えないだろうから。
「よ、エラルド。お前と本気で戦うのは何気なく初めてかもしれないな。」
「ああ。本気でやったら俺が死んじまうからな。」
「今はいいのか?」
「メチルがいるからな。」
「楽観的だな。」
シリウスが呆れたように笑う。
「楽観的?違うな。それはお前だろ?」
エラルドは呟くように言った。
言葉はポツンと空気に消えていく。
シリウスはふっと笑い、メチルの方を見た。
「じゃあ、始めようか。」
「…ああ。見せてやるよ。」
そういうとメチルは、シリウスの予想もしなかったことをした。
自分の体に触手を突き刺したのだ。
「…は?」
シリウスは思わず口から言葉が漏れた。
ずるずると黒い魔法の塊が、メチルの体の中に入っていく。
「おい。何ぼーっとしてんだ?」
エラルドが声をかける。
シリウスは呆然と彼を見ていた。
(自爆?自殺?…いや。)
そして何をやりたいのか分かった瞬間、その目は今までの困惑の瞳から一気に変わって宝石のごとく輝いた。
「メチル。それが君の本気なんだね。」
彼の全身を黒色の魔力が覆い尽くす。
装甲のように、それを纏ったメチルは一切の隙がない。
そして、彼の影からすっと一本の剣が飛び出た。
「……」
シリウスはそれを眺めて、恍惚とした表情になった。
真っ黒な剣。純粋な魔力の塊。おそらく触れるだけで大きな傷を負うだろう。
「…そうか…」
魔力武装。魔法の究極形とも言える、「魔力そのもの」による攻防。
シリウスはそっと呟き、レベルスを抜いた。
「レベルス、頑張ろうか。さらに凶悪に、敵を貫こうと願うから。」
そうレベルスに語りかける。
それに反応し、その身に黒い炎を纏う。
「…いくよ、メチル。「壊撃-四」。」
「こい、シリウス。「魔力装甲」。」
(……どっちが勝つと思う?)
エラルドはそう自問する。
火花が散る。
風が吹く。
衝撃が走る。
エラルドも正直加勢したいのだが、あまりにも二人が早すぎて下手に魔法を打てない状況にある。
二人と自分の間には大きな違いがある、と思う。
二人ともいわゆる「必殺技」があるが、自分にはない。
いや、ないわけではないが、今ここでは使えない。メチルも巻き込むからだ。
だからこうしてメチルに回復魔法をかけるくらいしかできない。
観客をちらりと見ると、
「…………」
みんな唖然としている。
(どちらが勝つのだろう。)
エラルドは思う。
体力、魔力回復ができないシリウスは現状時点で結構きついはずだ。
だが彼女は魔眼所持者。生まれた時点で常人の3倍程度の魔力を持って生まれる。
魔力切れもしにくいし、回復も早い。
そして抜群の身体能力と不意打ち特化の魔法。
加えて、「壊撃」と呼ばれる独自の剣術を使っている。
使う魔道具も、「テーリア=レベルス」。現代の魔法学の基礎を築いた人物の魔法術式が込められた、代々伝わる秘剣。
対して魔力装甲状態のメチルは魔力切れ、体力切れはない。
加えて魔眼も効かない。
硬い装甲で、シリウスの攻撃も弾き返している。
剣も貫通性能ではレベルスに劣らない。
だが、魔力装甲には致命的な弱点がある。
長時間使用すると、魔力の制御が効かなくなって暴走する。
一度暴走してしまうと周囲の人間を見境なく攻撃し出し、最後は自分を攻撃して死んでしまう。
すでに彼は意識が朦朧とし出しているはずだ。
試合開始から10分が経っている。
そろそろ決着がついてもいい頃だ。
一度メチルを戻し、代わりに自分が入るのが得策だろうがー
そんなことを言える雰囲気でもない。
互角の状況が続いている。
レベルスの炎がメチルを焼こうとするが、弾かれる。
そしてメチルの剣も、「認識不可」のせいで当たらない。
二種類の黒い軌跡が辺りを巡っている。
(…まあ、いつものことか…)
二人とはそこそこ長い付き合いだが、いつもこうだったような気がする。
自分は置いていかれてばかりだった。
試合開始から15分が経った。
(…まずい、もう前が見えない…)
メチルはかなり焦っていた。
そろそろ魔力装甲を解かなければ、本気で暴走しかねない。
正直にいうと、もっとはやく決着がつくと思っていた。勝つと思っていた。
まさかこんなにシリウスが強いとは。
(…化け物が…)
ぼやけた視界で前を見つめる。
(せめて…勝ちたい、いや、相打ちでもいいから…)
勝てる、そう信じていた。
初めてあったときに察したのだ。自分はこいつよりも圧倒的に弱い、と。
あの時は、たまたま勝てただけだ。
だから頑張った。魔法ははっきりいって才能だから、あまり効果はなかったのかもしれないけど。
(その結果がこれか…)
ため息をついて前を見る。
何時も下を向かない。これはシリウスが教えてくれたことだ。
だが、シリウスのほうもかなり限界が近づいていた。
息が上がる。レベルスはまだまだ戦えると言っているがー。
(…ああ、これが…本気というのね。)
はっきり言ってメチルがここまでやれるとは思っていなかった。
圧倒的な生まれ持った魔力の差。
相手が自分を認識できないという魔法を使った急所への一撃。
魔眼による相手の行動の禁止。
生まれたときからあった、違い。なのに何度も防がれて、何度も肌を刻まれて。
シリウスは嬉しかった。
幼い頃誰も相手にならないほどに強いと思っていた自分の前に初めて立ちはだかった人。
自分はあの一件で、冗談抜きに100倍以上強くなった。
そして今、こうして再び前に立ってくれる。
シリウスはすっと剣をおろして言った。
「メチル。これが私からの最後の一撃だよ。」
そう告げると、彼女は思い切りレベルスを振り上げた。
メチルは身構える。
そして、彼女はそれを地面に叩きつけ、メチルに突撃した。
「壊撃-零」。シリウスの出せる技の中で1番強い剣撃である。
レベルスにあらゆる斬撃形の魔法を纏わせ、相手に突撃する破壊魔法。
対するメチルは触手を前方に大きく張り、それに重ねるように魔力障壁を貼った。
「触手結界」。
彼の魔力により作られたこの防御結界。
これを破壊するのは並大抵の一撃では不可能だろう。
先の試合で相手が絶対防御だなんだとほざいていたが、理論的にはこちらの方が絶対防御に近い。
二人の大技がぶつかった。
爆風。
砂埃が舞う。
前が見えない。
エラルドは咳き込みながら、前を見る。
「……!」
メチルはスタジアムの床に寝そべっている。気を失っているわけではなさそうだが…
(……これは…)
一方のシリウスは壁にもたれてギリギリ残っている、といった感じだ。
「お疲れ、メチル。あとは俺がやるよ。」
そう独り言をいい、エラルドは前にたった。
シリウスはまだ動いている。
「おい、シリウス。まだ俺が残ってるぞ。俺が相手になるよ。」
読んでくださってありがとうございました




