過ぎ去ったもの
帝国東部、ハルバナ。
この小さな町の一角は、朝から騒がしかった。
怒号、悲鳴、爆発音。あたりは音で埋め尽くされている。
帝国第五師団対メリアドール東部支部の戦いが朝から勃発していた。
軍服を着た多くの人間が、一つの建物を取り囲んでいる。
「帝国軍がメリアドール社の各支部に攻撃を仕掛け始めたみたいっすね。」
無限ホテル記録部門の2級職員、ケルビムは衛生チーム本部にやってきた。
彼は橙の髪をかきあげながら目を擦る。寝起きらしい。
メチル、アリエル、マリア、テスラ、ハートンの5人をはじめとする衛生チーム軍団はその報を受けても特に何も思わなかった。
なぜならば特に何もすることがないからだ。
ジラーリアの命令がない限り、あるいはこちらに襲撃されなければ出て行くことはできない。
対外任務を行うのは外務チームだし、戦闘の初陣を切るのは保安チームだ。
(…それはそうと。衛生チームって結構な人数がいるんだな。)
テスラは思った。
ざっと250人と言ったところか。もう少し多いかも知れない。
衛生チーム清掃課150人、特務課50人、事務課50人、薬品保管課50人といった内訳になっているようだ。
医療課はきていない。彼らは今も別館の医務室にいる。
「さて、今後の予定についてだが…」
メチルが口を開いた。
「原則、俺らは今までと変わらない業務になる。
各自、割り当てられている仕事と戦闘を行ってほしい。
ジラーリアからの命令によっては戦闘に参加することもあるだろうが…
まあ、それはそうなったら連絡する。」
彼はそれだけ言うと解散させた。
ただし、テスラ、アリエル、マリア、ハートン、そして2級以上の全職員は残した。
「悪いな。残ってもらって。」
彼は謝罪した。全くそう思っていなさそうだったが。
テスラは目を少し開いた。
「…何について話すんですか?」
部屋の端っこにいた男が言った。
白衣を着ている。
「…ヘルメス一級。薬品保管課の課長。」
マリアが耳打ちした。
(…魔法は「状態保持」か。)
あまり強くなさそうだとテスラは思った。
「ファウスター、俺、ジラーリア、エラルド、ガングート、シリウスが同級生なのは知ってるよな?」
テスラは知らなかった。が、大して驚くような事実ではなかった。
およそシリウス、ジラーリア、メチル、ガングートの3人が同級生とは聞いていたからだ。
が、それは彼女とハートン、そしてマリアの三人だけだった。
それ以外は頷いたり、目を伏せたりして同意している。
(……同級生ね…)
彼女は高校時代の同級生について、ある程度の記憶は残している。
が、中学および小学校はもはや昔のこととなってしまっている。
小学校卒業後、私立の中高一貫校に進学した。
別に勉強ができたわけではなく、ただ研究者である親の意見に従っただけだ。
その後諸々あって、そこそこの大学に進学した。
彼女ははっきり言って期待されていなかった。
姉が神童だったからだ。勉強、運動共にでき、また偉大な人格者で思想家で数学者だったので、テスラに特に何も言われなかった。
ただしその実、誰も気がつかなかったが彼女は姉に全く劣ることはなかった。
テスラは非常に視線に敏感であった。
そして観察力、記憶力、視力において他者を圧倒することができた。
加えて、痛みを感じない。
姉は気がついていた。
自分が持っている人一倍の理性は、テスラから奪ったものだと。
そして彼女は代わりに全てを焦がすような本能を持っていると。
テスラは感情の起伏が激しい。身長が高い。痛みを知らない。
姉はひっそりと、テスラのことを恐れた。
が、同時にただ彼女がその本能を発揮できる場所に巡り会えることを願っていた。
少しの間、カクヨム甲子園の小説を書くため休みます。




