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無限ホテルの雑務員。  作者: AO
赤ずきん
27/53

それぞれの考え



無限ホテルがあるのはドイハムという港町だ。

そこから北に相当な距離を進んだところに、ファウスターがいる都市、「ガルドス」がある。

「氷の要塞」とも揶揄されるほどの厳しい気候の中にある。

そして彼女が経営する企業「メリアドール」の企業城下町として発展した。

メリアドールはどのような起業かというとー

要は「何でも屋」の集合体である。

特定のミッションや悩み事(目標)をクリアする代わりに、金をもらう「ギルド」というシステムで成り立っている。

すなわち大規模な軍団と資本を所持しており、そこらへんの小国を圧倒することも簡単だろう。

「目標」には難易度別に5段階があり、最高レベルの「不可能」はこれまでにクリア者がほぼいない。

「ちなみに、「不可能」目標として有名なのは「帝国第0師団の撃滅」「Rシリーズ108番の発見」「無限ホテルの攻略」などがあるわね。」

アリエルがイカの駒を盤の上で動かした。

相手をしているのはマリア。

これはどう言う競技なのか知らないが、テスラはそれをただ眺めていた。

「そして「黒ずきん」の撃破。彼女は今何をしているのかしらね。」

マリアは言った。

黒ずきんとは、赤ずきんのことである。

ジラーリアとの戦いの後、彼女はそばの小国を滅ぼして根城にしていた。

おそらくお仲間も一緒なんだろう。

周辺の国では急速に治安が悪化し(それは帝国も例外でない。国境付近はやはり犯罪件数が増え、警備隊が常駐することになった。)、国際的な問題になっている。

「なんでジラーリアは彼女を殺さなかったのかしら?」

「さあ?実力的に不可能だったんじゃないの?」

と言ったが、それはないな、とでも言うようにマリアは笑った。

実はテスラの中に一つ、仮説があった。

あの2人を同じ視界に入れた時。彼女は思った。

「似ているな」と。

「あの…」

テスラはアリエルに聞いた。

「管理人は家族とかいらっしゃるんですか?」

「家族…妹がいるらしいわよ。」

「…。そうですか。」

(…妹…。妹?)

ふと、胸に何かが突っかかった。

その違和感は確かに彼女の胸を少しずつ抉っていった。


「あれ。そういやお前の兄って今何やってるんだ?」

メチルはエラルドに聞いた。

「ん?今はメリアドール社のギルドマスターだよ。」

「だよな。じゃあまずいんじゃないか?」

「何が?」

「帝国対メリアドールの戦い、俺らも絶対出撃する時が来ると思うぞ。」

「ああ…大丈夫だよ。もしそうなったら、全力で兄貴を殺すよ。」

エラルドの一家は代々ギルド所属だった。

彼の祖父は最初の不可能目標達成者だし、彼の父はギルドの知名度を大きく広げた。

そして彼の兄はギルドマスター…全てのギルド所属者の中でもっとも優れたプレイヤーとなっている。

「僕がアウトサイダーなんだ。消えろと言うなら消えてやるさ。でもただでは消えない。彼らが知らない僕を、あの瞳に焼き付けさせてから逝くね。」

彼はコーヒーを淹れながら言った。珍しく興奮している。

「…そうか。」

メチルはそう言うしかなかった。

彼の兄と父については知っている。どちらも悪人ではない、と思う。

どういうことかというと、他人に理想を押し付けるタイプということだ。

でもそれは至って普通のことかもしれない。

彼らなりにエラルドの未来を思っていたんだろう。

事実今こうして彼は未婚であり、また命の危険に24時間晒されている。

もしメリアドールに行っていなければこうはなっていないのかもしれない。

(…お前ならどうする?シリウス。)

死人に口なし。だから、彼は口を開いた。

「頑張れよ。俺らは、ただで死ぬことを許されていない。」


「小国同士の同盟が完了したみたいだ。」

外務チーム特別指定職員ガングートは2人の職員を呼び出した。

外務チーム一級、帝国担当部門のホルマレーと外交分析部門のサーシャ。

「そうですか。では、失礼します。」

サーシャはそう言って出て行こうとした。

「おい待て。言いたいことが…」

ガングートは引き留めた。

「ファウスターをはじめとするギルドのトップランカーらの戦闘分析はすでに完了しています。それが欲しくて読んだんでしょう?もうすぐ送るので待っていてください。

では私は彼氏と遊んできます。」

「………………。」

がちゃん。乾いた音がして、扉は閉じられた。

「…あいつ彼氏いたのか?」

ガングートはホルマレーに聞いた。肩をすくめ、顔を変にする。

「初耳っす。誰でしょう?記録チームの連中に聞きに行きます?」

「そうだな。でもあいつが彼氏といちゃついてるところとか想像できねえんだけど。

あと俺ちょっと狙ってたんだけど。」

「うーん、確かに。デートスポットに博物館か美術館を持ってきそうな顔してますもんね。」

「あ、的確な例え。どんな恋人なんだろ?あと俺ちょっと狙ってたんだけど。」

「うーん。学者タイプか…、あるいは意外とばちばちヤンキーか?」

無粋な推論が繰り広げられた。


ジラーリアは外を見ていた。

港町が見える。

海と、空。

それだけなのに、どうしようもなく綺麗だ。

この美しさは無限なのだろうかと思う。

こんなにのんびりしていられないのに、こんなくだらない鑑賞に浸っている自分が怖い。

もう少し平凡だったら、もっと簡単な生活を送れただろうか。

そう考えて笑いたくなる。

あれほどを殺して死体の山を築き、神さえも消し去り、幾度も涙を他者に強要した自分は、きっと誰からも許されないのだろう。

でも、ただ目指す一点のために、走り続けなければいけない。

シリウスもメチルもエラルドもそれを約束についてきてくれていた。

例え血が繋がっていようと、ぶつかるものは排除しなければいけない。



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