帝国
「こんなのに私の相手が務まるってのか?」
テスラは別館400階、闘技場に来ていた。
目の前の女性には、以前会ったことがある気がする。
紫色の髪の毛。そう、保安チーム一級、アルガーだ。
彼女は腕をブンブン振り回しながらそう言った。
(いいえ、務まりません。)
テスラは率直にそう思った。
なんというか、強さの種類が違うような気がするのだ。
少なくとも今の自分では勝てないと確信する。
レベルスに刻まれているシリウスの戦闘記録を用いても、行けるか怪しい。
「まあまあ、アルガーさん。彼女はシリウスさんの技術を一部受け継いでいるんですから。」
アリエルがそう嗜める。
アルガーはジロリとテスラを見つめた。
そして次の瞬間。
金属の衝突音があたりを切り裂いた。
(…斧!?どこから…)
テスラはアルガーの手元を凝視していた。
そこには、赤黒い斧が握られている。
確実にいくつかの命を奪っていそうな色合い。妖刀ならぬ妖斧とでもいおうか。
正直来ることはわかっていた。彼女の視線が自分の首を狙っていたから。
だが、首を絞められると思っていたので刀の振りがややからぶった。
「…受け止めるか。」
アルガーはそのまま、素手でレベルスを握った。
テスラは思い切り引き抜こうとしたが、びくともしない。
そのまま、斧が振り下ろされた。
が、それは空を切り、地面に突き刺さる。
テスラは剣から手を離し、拳でアルガーの顔面をぶん殴る。
(…………!)
ありえなかった。全力でぶん殴ったのに、まるで怯みすらしない。
(…嘘だろ…)
そのまま剣を取り返し切りかかる。
ヒュン、という音が彼女の首をかすめ、藍の刀身が円弧を描く。
が、届かない。
気づいたら時には、2人の距離は遥かに離れてしまっていた。
そして、アルガーの手には斧がー
と思った瞬間、テスラはもう攻撃を受けた。
先ほどよりも重い一撃。テスラは少し体勢を崩す。
その隙をアルガーは見逃さない。
彼女の強烈な蹴りがテスラを貫いた。
彼女はその場に崩れ落ち、ゲホゲホと咳をした。
「…ふん」
アルガーは鼻で笑った。
「なんだこれ?雑魚すぎじゃね?シリウスさんはこの程度ではなかったぞ」
「………」
「ものを言うのも難しいの?そう。」
それだけいい、彼女は去っていった。
「強すぎ…」
ある程度落ち着いたあと、テスラはつぶやいた。
「…まあ、あの人は八剣だから…」
とアリエルが慰めた。
アルガーの魔法は、「ものの大きさや距離を変更する」。
この魔法から繰り出される奇襲や不意打ちに対応するのは非常に困難だ。
「…八剣ってみんなあのくらい強いんですか?」
「ええ、そうね。大体あのくらいでしょう。」
「…化け物かよ…」
彼女はそうぼやき、寝そべった。
本館東、444号室。
ここは彼女の部屋である。
彼女の職業は本館東保安課課長。
東側の保安にあたる職員らを統率する。
部屋はとても広い。彼女専用に作られたので、テスラの4倍ほどだ。
ドアを開けると、すぐに自分のものではない靴が目に飛び込んでくる。
と同時に声が聞こえた。
「おいアルガー。彼女はどうだった?」
本館西保安課課長、リッカだ。
「大したことないわ。私らには遠く及ばないんじゃない?」
「そうか…」
リッカはじっと見つめた。
「その首の傷は?」
「…うるせえ。」
アルガーはそっと首元に手を当てた。
「遠く及ばないとか言っといて喰らうなんて恥ずかしくないのか?」
リッカは煽った。
「…まあ、いいよ。ごめん。」
彼は謝った。怖くなったからだ。
「んなことはどうでもいい。今帝国はどうなってるんだ?」
「各地から軍隊を集めてるみたいだ。以前うちに来た第三師団とかを除けばな。」
帝国の軍隊は1〜13の師団に分かれている。
帝都防衛用の第一師団、国境警備用の第二師団、無限ホテル征伐用の第三師団などそれぞれに役職がある。
「総勢20万人程度になりそうだ。ここに各軍事企業の部隊と同盟国の軍隊も入る。」
「…第0師団は?」
「出ない。」
「チッ」
アルガーは舌打ちした。
「そうキレるなよ。いちいちイライラしていたらこの世界では生きていけないぞ。お前の父親だって…」
そこまで言って、リッカは再び黙った。
「いや、悪かった。」
彼は再び帰っていった。




