戦争
テスラは目覚めた。
見覚えのある天井。
「自室か…」
テスラは起き上がり、ベッドから降りた。
服は赤ずきんと戦った時のものとは別になっている。
大きめの白いシャツだけ。
どのくらい眠っていたのか、と思いカレンダーをみると、ほとんど寝ていないことがわかった。
「お、おはようございます!」
扉の方で声がして見てみると、一人の短髪の男子が立っていた。
「き、昨日から「無限ホテル」衛生チーム清掃課に配属されましたハートンです!
よろしくお願いします、テスラ4級職員様!」
(ずいぶん緊張しているな。)
テスラは思った。
だが、彼が緊張していたのは彼女の服があまりに軽装で目のやり場に困ったからである。
彼女は自分の服装に特に気をつけたことはなく、ほとんど適当な服で過ごしてきた。
「…ん、四級?」
テスラは聞き返した。
「はい!テスラ様は、今回の任務で4級に昇格されました!」
「…そう。」
自分は大した役割をしていない。誰も倒していない。
それなのになぜ昇格したのか?
おそらくー
(4級の人間が一人死んだな。)
このホテルで死ぬのは多くの5級職員。
4級以上が死ぬことは滅多にないと聞く。
「誰が死んだか知っている?」
テスラはハートンに聞いた。
「死んだ?誰がです?」
ハートンは困った顔をした。
「いや、いい。よろしく頼むよ、ハートン。」
テスラは笑った。
彼女が作る笑いは美しかったが、温かみがなかった。
「はい。で、メチル様からの伝言なんですが…」
「…「赤ずきん」は隣国に逃げたようだな。」
「彼女は二代目よ。今後は黒ずきんとでも名付けましょう。おそらく帝国もそう名付けるでしょう。」
「そうか。」
ガングート、メチル、レーカードの3人は、無限ホテルの最上階にいた。
ジラーリアは椅子に座り、真っ白なワンピースを着ていた。
「で、どうする?おそらくやつはここに来るつもりだぞ。」
メチルだけが喋っている。
ガングートは昨日から飲まず食わずで働かされていたのでしゃべる元気はなかった。
レーカードは単にこういう会議じみた場所は嫌いなので口をきこうとしなかった。
「それよりも重要なことがあるわ。」
「なんだ?帝国と決着でも着けに行くのか?」
「それにはまだまだ足りないわ。問題はこれよ。」
そう言ってジラーリアは一枚の新聞を取り出した。
「…帝国は先日14時、「警戒級」1級の魔法使い、ファウスターの討伐を行うことを決定した。これには同盟国に加え、民間の傭兵部隊デルアゾーレ社やミレト社なども参加を表明し…」
メチルが読み上げる。
「ファウスターの討伐令が出されたわ。
おそらく帝国に反対する国たちは帝国と対立するでしょうから、大戦争が始まりそうね。」
(またか…)
ガングートは呆れた。
数年前の大戦争。またあんな惨劇を繰り返すつもりなのか、とジラーリアに問い詰めたいが、彼はもうそんな気力はなかった。
「すでにいくつかの企業から部隊の中継を依頼されているわ。準備をしておいて。
別館の部屋を拡張。
保安チームと衛生チームに連絡して、全員体制を整えなさい。」
「了解。」
レーカードは反対しなかった。
「あ、そうだわ。1ヶ月後、「あれ」が開かれるから皆警備の準備をしなさいね。」
テスラは部屋で1人寝っ転がっていた。
特になにもすることがなかったからだ。
4級に昇格したとはいえ、やることは変わらないはずだ。
指定された部屋の掃除を行う。
ただ、今日だけは違った。
部屋に待機しておけとメチルが言っていたとハートンが言っていた。
(なんの用だろう。
4級昇格の件か、それとも別件か…)
彼女はひたすらにどうでもいいことを考えていた。
その時。
玄関の辺りで音がした。
時刻は終業時刻ちょうどだった。
だが、その直後テスラの予想とは全く違う声が聞こえてきた。
「お邪魔しまーす!」
(…マリア?なんで…)
テスラは少し慌てて起き上がり、服装を整えた。
今まで膝くらいまである大きな服をすっぽりきていただけ。流石の彼女でも人に会うにはあまりにも雑である。
2枚目のドアが開かれ、久しぶりの若い熱量の塊が、今まで何もなかった室内に流れ込む。
「久しぶりー!」
マリアに抱きつかれ、テスラは若干よろけた。
「うん、久しぶりね、マリア。」
テスラは彼女を抱きかえした。
マリアに続けてアリエルとメチルが室内に進入してきた。
「テスラ。」
メチルはなんの前置きもなく彼女に話しかける。
「はい?」
テスラはまだマリアに抱きつかれていた。
「4級昇格おめでとう。」
「はい、ありがとうございます。」
「これで本館600階まで入れるようになる。」
「はい。」
それだけ告げるとメチルは部屋から出ていった。
アリエルはその姿を目で追うと、テスラに向き直った。
テスラは一瞬びくっと体を震わせた。
今までメチルの後ろに隠れていてわからなかったが、彼女は右目に青い眼帯をつけていた。
(………?)
彼女が帰ってくる前にはつけていなかった。
彼女はなんとなくその眼帯の裏を覗きたくなった。
「…アリエルさん、その目は?」
「ああ、これ…?ちょっと眼を怪我しちゃって…」
彼女は少し笑っていった。
「そうですか。」
テスラは言いたいことがあったが、もう黙った。
「ねえお姉ちゃん、そろそろ「あのこと」を言わなきゃ。」
「ええ、そうね…。
テスラ。あなたに頼みたいことがあるの。」




