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無限ホテルの雑務員。  作者: AO
赤ずきん
24/53

赤ずきん 終

次の投稿は5/23になるかと思います。

開いてしまってすみません。



「…まあ、余裕だったな。」

レーカードは男を見下ろしながらいった。

かれは魔力切れを起こして、反魔法が途切れていた。

レーカードが「厳重封鎖」で男の動きを封じた後、ふとあることに気がついた。

耳の遠隔通信機にジラーリアの連絡があった。


レーカードは、2人を抱えて中央に走っていた。

2人とも軽い。

この幼女はともかく、テスラは自分より身長が高いのになぜこんなに軽いのか甚だ疑問である。

彼女の上司はメチルだが、彼に聞けばわかるだろうか。

「そんなこと聞くな」と怒られそうだ。

メチルに怒られたらレーカードといえど無傷では済まない。

おそらく「厳重封鎖」の発動より早く彼の触手が自身の心臓を貫くだろう。

ところでなぜ走っているのかというとジラーリアから集合命令があったからだ。

足音が響く。

薄暗い廊下を抜けたところでアルガーと合流した。

「そっちはどうだ?」

「あ?適当に気絶させちゃった。そっちは?」

「知らん。まあ普通にいい感じに倒した。殺してないけど。」

「そう。なんでジラーリアは私たちを呼んだんだろーね?」

「さあな。」

2人は中央に着いた。

そしてぴたりと足を止めた。

「…やばいな。」

「うん。これは…」

顔を見合わせた。

圧倒的な魔力を感じ、彼らは思わず立ちすくんだ。

目の前の巨大な氷山のような力。

邪悪ではない。恐怖でもない。

(これはきっとそう、……だ。)

2人はそう思い、すっと身震いした。

その時、

「ガアアーーーン!」

と凄まじい音がして、建物が崩れ落ちた。

中からジラーリアと、黒いマントに覆われた人が現れた。

(誰だ、あれ…)

一瞬、誰なのか2人ともわからなかった。

が、ジラーリアは2人の服を引っ張り、そのままバン、と背中を叩いた。

2人は気がつくと、無限ホテルのロビーにいた。

「????????」

2人とも何が起こったのかわからなくて、当初はぼーっとしていた。


何が起こったのか?

ことの顛末はこうである。

「そう。じゃあ、もう私はあの人には会えないのね。」

赤ずきんは言った。

「ええ。」

ジラーリアは一切の遠慮なく、ずばっと言い切った。

「生まれた時から、独りだった。」

赤ずきんは言った。目に涙が浮かんでいる。

脳裏に映るは、幼い記憶。

母親は彼女を捨て、父親もどこかに旅立った。

もともと望まれた子供ではなかったからだ。

彼女はウーリアという街の角に、ぞんざいに置かれていた。

本来ならば奴隷になり、こき使われた挙句に死んでいただろう。

だが、彼女は運良くある人物に拾ってもらった。

その人物の名前はトアリスと言った。

トアリスはまだ幼い彼女に話した。

「私はね、もともとは貴族出身だったの。

でもちょっと問題起こして友達と一緒に追放されちゃって…。

後悔はしてないよ。夢のためだもん。仕方ないよ。

私の夢?それはね、…………だよ。

難しいんじゃないかって?大丈夫。最強の友達も何人もいるし、私は強いから。

いつかこれが達成できたら、あなたと世界中を回ろ。

その頃には私はもういないかもだけどね、あははは…。

そうだ、これをあげる。はい、最近寒いでしょ?赤いパーカー。」

これは彼女が8歳の時の誕生日の時の話だ。

そしてそれから数年後。

「ちょっと出てくるね。少し戻らないかもしれないけど。

いい子にしてるんだよ、トーラ。」

そう言って、トアレスは二度と彼女のもとには戻らなかった。


「目を瞑れば、今もそこに。」

彼女はそう呟き、自身のパーカーをしっかりと握る。

風が強く吹いて、そのフードを揺らした。

雲は星を隠さず、その微かな明かりで互いの顔がわかる。

ぞっとするような静寂。

ジラーリアは目の前の少女を眺める。

静かな微笑みは、まるで母親が子供を見るようだ。

「目を開けば、今はどこに。」

「赤ずきん」ことトーラは再び呟き、空に向け両手をあげる。

その瞳からは、大粒の涙がこぼれ落ち、やがて燃えるような黒い魔力が彼女の全身を包んだ。

ジラーリアはその瞳に、昔どこかでみた誰かをふっと思い出した。

涙が落ちるのと共に燃えるような意志がこもり、全身の魔力が信じられないほど増大している。

ジラーリアは笑うのをやめた。

下手すれば死ぬことが確実視される状況だからだ。

彼女にとってここまでの危機感を抱いたのは久方ぶりだった。

「仇討ちだ。死んでもお前を殺す。それが私の生きる意味だから。」

「そうあなたが信じるならそうしなさいよ。私は何も思わないわ。」

ジラーリアは権利だとか義務だとか、人にはそんなものに縛られずにやるべき時があることを知っている。

それが今なのだろう、と理解する。

(実際どうなんだろう。)

自分のやってきたことは自分にとっては間違えていない。

でも彼女にとっては間違っている。

それだけのことだ。

正しいとか間違いとか、そんなものは存在しない。

でもみんながみんな、正しくありたいと思う。

それは正しさの名の下に、他者を排除したいから、抑圧したいからだ。

その方が快感を得られるから、そんな空想に縋りついてでも、楽になりたいんだ。

人生が苦しいから、きついから、そうしないとやっていられないから。

正義も悪も存在しない。

人を殺すことは悪いことではないし、いいことでもない。

正しいも間違いも、その場その場で変わっていく。

世界のあり方と正しさは表裏一体。

結局は、相手に正しさを示すことしか私らはできない。

そしてそれが事実であることこそが、最も明瞭に人々を苦しめる。

明らかな、負の循環。

(だからこそ作りたかった。魅せたかった。この世界の苦しむ人々に、「正しさ」の正体を。)

「…関係ない。何度だって示し続ける。

試練は乗り越えるために、問題は解決するために、難関は突破するために。

正義も愛も信仰も誠実も忍耐も、全てはそれらを乗り越えるために作り出された存在しない概念なのだから。」


ジラーリアはため息をついた。

その手には、一本の槍が握られていた。

真っ黒の槍。夜の闇よりもはるかに黒く、重い。

(これを使うのは、いつぶりだろう。)

天蓋槍。術式効果は敵の防御の貫通。

膨大な魔力を固めて作られた槍。

2人は構えあった。

そして次の瞬間。

あたりが一瞬で更地になった。

そして自身も腹を切られたことに気がつく。

ジラーリアはあまりの速さに見切ることができなかった。


「…ということみたいですね…」

2人は記録チーム2級、ケルビムの報告を受けた。

彼の能力「行動記録」でジラーリアの行動を追ったところ、こうなっていたことがわかったのだ。

「なるほど…」

「……」

想像以上に危険な状況だったようだ。

トルエンとリッカはもう帰ってきたらしく、もう部屋に帰ってそれぞれの部下と話でもしているようだ。

「…俺らも部屋に戻るぞ。」

アルガーに言う。

返事はない。

「おい、アル…」

(……寝ていやがる。)

「本当にこいつ、大丈夫なのか…」

レーカードはイラつきながら彼女を抱えて、別館に戻った。


時刻は深夜12時。

メチルは1200階で残業していた。

なんかよくわからない組織のやつがいっぱい来たので、そいつらを全滅させるのに少々の手間がかかってしまったが、ようやく終わりが見え彼は安堵した。

「そういえば…」

緑髪の男が言う。

彼の部下、メルカトル2級職員だ。

「「白剣」の方々はまだ戻らないんでしょうか?」

彼はコーヒーを飲みながら、血のついた上着を捨てた。

「いや、もう帰ってきたみたいだ。ジラーリアはまだのようだがな。」

「そうですか。」

メルカトルは目を伏せて言った。

「…大丈夫でしょうか。」

「何がだ。」

「ジラーリアさんがです。」

「あ?あいつのことを心配してるのか。

あいつは全力の10%程度しか出していない。」

メチルはそういい、自室に戻っていった。

メルカトルはその後ろ姿を眺めていたが、やがて同じく戻っていった。


一方その頃。

「私はジラーリアさんが勝つと思うな。

4金貨を彼女に賭けよう。」

「僕もそう思うね。3銀貨。」

「俺もかけるぜ!8銀貨だ!」

別館15階。ここは記録チームの専用スペースになっていた。

文書の山が城壁となって、入ろうとするものは誰もいない。

彼らは今現在、遠隔投影機という魔道具を使って賭け事をしていた。

前にジラーリアが赤ずきんと対峙している様が映されている。

まあ、全員ジラーリアに賭けたので成立していないのだが…。

今記録チームの一級は全員出払っているので、誰も止めるものがいない。

「さて、どうなるかな…」

彼らは画面に注目する。


「残念だけど、あなたでは私に勝てないわ。」

ジラーリアは告げる。

風にトーラのマントが揺られ、その黒い魔力があたりに満ちる。

「暴食」があたり一面を喰らいつくす。

ジラーリアは冷静に受け流しつつ話す。

「帝国が出している「警戒級」を知っているかしら。」

そういうと「暴食」を跳ね返した。

トーラは凄まじい速度でジラーリアを詰めると、ゼロ距離で「暴食」を打った。

黒が彼女の体にまとわりつく。

ジラーリアの体は一瞬で食われた。

(…勝った。)

トーラはそう確信した。

だが…

ジラーリアはまだ死んでいなかった。

「…わかっていないわね。」

彼女は「天蓋槍」で思い切りトーラの体を突いた。

だが浅い。

若干出血しただけで、致命傷にはなっていない。

トーラは思い切り笑い、ジラーリアの頭を食らおうとした。

ジラーリアは一瞬で移動し、その攻撃を躱した。

ぐちゅり、と鈍い音がして、再び槍がトーラの体に刺さる。

その時ジラーリアは不思議なことに気がついた。

(…傷が回復している。)

回復魔法にしては早すぎる。

おそらく…

(攻撃を受けた、という事実そのものを捕食したな。)

そんな芸当ができるとは思えないが、どうやら彼女の魔法は事実そのものを捕食して抹消できるらしい。

(信じられないな…これじゃあ)

ジラーリアはなんだかイライラした。


「決着つかなくね?これ。」

この死闘を眺めていた記録チームの面々は思った。

ジラーリアに攻撃は当たらないし、かと言ってジラーリアの攻撃は無かったことにされる。

「というか、ジラーリアさんが生まれたという事実は消せないの?」

1人が質問した。ポップコーンを口に頬張り、シャクシャクと音を立てる。

「多分時間制限があるんだろう。お前は10分前に床に落ちた食べ物を食べるか?」

「あーなるほど。キャラメルとって。」

黄金色の液体がどろっと白いポップコーンにかかった。

「でもあの子、すごく頑張ったよね。ジラーリアといえば「警戒級」1級の魔法使いなのに。」

「いや、赤ずきんもたしか準一級だから、まああのくらいならいけるもんなんじゃないの?」

「将来有望なのに残念だよね。ここで終わっちゃうなんて。」

口々に勝手なことをいう。

ここまで適当な課は無限ホテルの中で記録チーム、それも彼らこと職員記録課だけだろう。

彼らは普段職員の動向や能力を記録している。

職員記録課の課長は今外国に遊びにいっているので、もう数週間ほど無限ホテルに来ていない。

上司がそんなだから部下もこうなる。

おかげで「侵入記録課」「帝国記録課」「諜報記録課」など他の激務の課から凸られ、書類をバラバラにされる。

「つーか知ってる?衛生チームのテスラって子。」

「ああ、あの魔法が使えない子ね…」

「魔道具の扱いは一流みたいよ。シリウスさんの動きを模倣しているみたい。」

「でも、それじゃあ…」

「ええ。いずれ死ぬわ。」


「…あなたは、本当に似ているわね…」

ジラーリアはつぶやいた。

「黙れ!」

トーラの「暴食」が発動し、ジラーリアに当たる。

が、なんの効果もない。

「…黙れ!黙れよ!」

トーラは叫ぶ。

「…。可哀想ね。もはやどうしようもないことを知っているというのに。」

ジラーリアは彼女を憐れんだ。

その時、トーラの足が砕けた。

雪崩のように一瞬で崩れる。

「また今度、遊びましょう。」

ジラーリアはくるりと背を向け、闇に消えていった。

「おい!待て!」というトーラの叫びと共に。


数時間後。

ある国が滅びた。

東の方の結構な大国だ。

帝国はそれについて何もコメントをしなかったが、人々は直感した。

新しい、5人目の「警戒級」1級の魔法使いの誕生を。




















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