赤ずきん 8
戦いとはなんの生産性もないものだ。
物資、金、体力、精神、全てを大きく消耗し、得られるものは大したことがないことさえある。
それでも、戦わなければいけないことはある。
(…そう、それは例えば今だ。)
ジラーリアはしっかりと赤ずきんを見つめている。
ジラーリアの使う魔法は大きく三種類。
ものとの距離を変更する「ファー・リデフィニション」。
ものの方向を変更する「ディレクション・リデフィニション」。
ものの速さを変更する「バロシティ・リデフィニション」。
この三つで彼女は十分に戦えた。
しかし、あまり多くの魔法を使用すると判断力や視覚、聴覚が落ちるというデメリットを背負っている。
「…虚しいね。こんなことする必要はないのに。」
赤ずきんは猟銃をしっかりと構え、ジラーリアの頭部に狙いを定める。
パーン!という銃声が響く。
銃弾は黒い筒を通り抜け、そのまま一直線に空気を穿ち、ジラーリアの額に触れ、そのまま弾かれて地面に落下した。
ジラーリアは一気に距離を詰め、勢いそのままに思い切り彼女の顔面を回し蹴りした。
影が大きく後ろに吹き飛び、爆発したような音を立てながら壁が崩れていく。
「…なぜ私がここにきたと思う?ジラーリア。」
「知らないわ。」
赤ずきんは立ち上がりながらうめいた。
鼻血が止まらないようだ。足がふらついている。
「…少しは考えてよ。」
赤ずきんは少し笑って言った。
手にはハサミを握っている。
彼女の真っ黒で長い前髪が切られ、顔があらわになる。
「…今確信した。あなたを今なら殺せる。」
赤ずきんは普通の少女だった。
至って普通の表情で、笑う彼女は不思議と不気味に思えた。
これが「赤い捕食者」の異名をもつ魔法使いなのだろうか。
赤い頭巾を脱いだので、まるで別人のようだ。
一瞬で空気が変わった。
さらなる緊張感が張り詰める。
「…安定した反魔法の実用化でしょう?帝国が技術開発を進めているだろうとは思っていたけど、まさかもう成功していたなんてね。」
ジラーリアはため息をついた。
赤ずきんは猟銃に代わって大きな斧を構えていた。
だが、明らかにただの斧ではない。
魔力の流れが不規則になっている。
ジラーリアは壁を抉りカケラを手に取ると、それを全力で投げた。
弾丸は一瞬で対象に到着した。
が、斧に弾かれて少しのダメージになっていない。
(なるほど…)
ジラーリアは反魔法の仕組みを理解した。
おそらくあの斧で攻撃を受けて無効化しつつ、「暴食」でジラーリアを倒すつもりなのだろう。
そしてあの斧はどうやら大きさを自在に変えられるようだ。
赤ずきんは大きく斧を振りかぶり、敵目掛け一直線に走る。
ジラーリアの目の前で斧が煌めき、垂直に振り下ろされる。
彼女は間一髪で避けたが、その後の「暴食」までは避けられなかった。
左手を食われてしまい、血が吹き出す。
ジラーリアは目の前の赤ずきんの頬を思い切り殴り飛ばした。
が、少し離れただけですぐに次の一撃が飛んでくる。
頭を食べられかけるが、ジラーリアは「ファー・リデフィニション」で防ぎ、顎に蹴りを入れる。
赤ずきんは少し怯んだ。舌を噛みちぎったようで、口から大量の血がこぼれ落ちる。
ジラーリアはその隙を逃さない。
「バロシティ・リデフィニション」で一瞬で加速し、彼女の首を掴むや否や、潰そうと力を込めた。
が、「暴食」魔法が発動し、逆に右腕を失った。
断面から真っ赤な血が噴き出る。
ジラーリアはすぐに治した。が、一瞬目が霞んだ。
彼女は全力でぶん殴る。
しかし虚しくも反魔法で無効化され、カウンターを受け大きく後ろに跳ね飛ばされた。
迫り来る暴食の牙を「バロシティ・リデフィニション」でかわし、大きくジャンプすると赤ずきんの頭に回転蹴りを喰らわせた。
斧で受けられるも、一切怯まずにゼロ距離で再び「バロシティ・リデフィニション」を発動させた。
赤ずきんは後ろの壁に激突した。
そしてそのまま2人とも絡れ、地上に飛び出した。
両者一切引かない攻防。苛烈な争い。
究極の本能とさえ言える「暴食」と究極の理性とも言える「演算」。
この二つの戦いである。
血で血を洗う戦い。
魔法史に残るほどの争いである。
その被害は甚大なものになり始めていた。
もはや建物(東部技術特区)の概形は残っていない。
もし近くの街の人たちが生き残っていたならば何事かと思っただろう。
地上に上がったことでさらに戦闘は熾烈を極め始める。
ジラーリアの「ファー・リデフィニション」はあらゆるものと自身の距離を再定義する。
山一つ消し飛ばすくらい容易いものだ。
一方の赤ずきんの「暴食」を使った「暴食砲」は、射線上のあらゆるものを喰い消す一撃。
こちらも街一つなど一瞬で消え去る。
だが、そんな2人の争いにもいよいよ終止符が打たれようとしていた。
帝国陸軍が動いたからである。
国の重要地区、東部技術特区が襲撃を受けたのだから、当然とも言える。
だが、2人はそんなことには気が付いていなかった。




