赤ずきん 6
「…!」
テスラは落ちてきた無数の人々の中に、知っている顔を幾つか見つけた。
まるでスローモーションで見ているかの如く、ゆっくりと落ちてきていた。
宿屋の主。精霊売りの少年。市場に店を出していた女性。
(この人たちは街の人だ!)
テスラは気がついた。
なぜ女児と自分だけここにいるのかはわからないが、街の人全員を誘拐してきたのだろう。
「…おい、その人達をなんで誘拐してきた。」
「さあ?そこにいる人に聞いた方がいいんじゃないですか?」
マッチ売りの少女は落ちてきた人々で作られたカーテンの向こうを指差した。
テスラが目を凝らすと、真っ赤な服をきた人が1人いる。
(…あいつが、赤ずきん…)
テスラはもう前があまり見えなかった。
視界はぼやけているし、全身が暑い。まるで蒸し焼き機の中にいるみたいだ。
「こんにちは、オバサン。」
赤ずきんは一瞬でテスラの前に移動し、地面に寝そべったままのテスラを覗き込んだ。
(失礼なクソガキだな…。)
素顔はおろか年は何歳くらいなのかすら、フードをかぶっているせいでわからない。
(…ああ、帰りたい。なぜ私はここにいるんだろう。)
なぜこんなふざけたことばかり考えているのか、テスラは分からなかった。
とてもそんなことを言っていられる場合ではない。
自分の死はほぼ確実だろう。
そう思いながら攫われた人々を見て、立ち上がった。
(…全て、見たことがあるな…)
滞在期間は2週間弱。たったそれだけだが、なんとなく知っている人々ばかりだ。
彼らは果たして生きて帰れるのか。
「おじさま!」
女児の声ではっと現実に引き戻される。
電波の悪い時のテレビのようだった視界が、急速に鮮明になり始めた。
見ると宿屋の店主とその赤ん坊が、後ろの全身真っ黒な謎の男に剣を突き立てられているところだった。
「おい、その人を…」
と言いかけた時、テスラは思わず黙った。
1、2…9?いや、もっといるようだ。
どこから見ているのか知らないが、数多の視線を感じる。
「赤ずきん」の仲間なんだろう。
「…レーカ。」
店主の声。テスラは初めて女児の名前を知った。
彼女はぼんやりしたまま、彼の顔を眺めた。
どこかでみたことがある表情だった。
優しさなんて言葉では語れないとテスラが知っている表情。
そしてほぼ同時に、テスラの前に何かが落ちてきた。
テスラは滑るようにそれに視線を移す。
彼の抱いていた赤ん坊だ。
前の方で悲鳴もなく命が絶たれる音。
「…………」
テスラは前を向かなかった。
ただ横で、静かに大粒の涙を流している女児ことレーカの横顔、それが語る事実が全てであった。
そしてそれを眺めるくらいしか、もう彼女にできることはなかった。
体力も脳内も空っぽで、空き缶のように踏み潰されるのを待つのみ。
テスラは少しその場に立ち尽くした後、ようやく前を見た。
怯える人々。かつて人だったもの。怯えさせている人。
自分は今、どんな顔をしているのかとテスラは口元を触った。
そしてその時。
爆風と共に凄まじい猛火が人々を襲った。
テスラがした一瞬の瞬き。その間にもう目の前は炭しか残っていなかった。
テスラは呆然と前を見ていた。
レーカの涙が作った浅い水たまりは、さっきの炎で蒸発していた。
彼女にそっと赤ん坊を手渡す。
テスラは今、自分が何を見ているのかさえもよくわかっていなかった。
ただまるで超長編映画に夢中になって一気見したあとのように、何も考えずにその場に立っていた。
心臓の音だけが、開いて乾いた目だけが、知覚できる。
だがそのうちに、謎の怒りが沸々と湧き、溢れ出した。
テスラは剣を握り、燃え尽きかけた腕で剣を構えた。
今の自分が、何に対して怒っているのか、テスラ自身わかっていなかった。
自分が正しいなんて思わない。でも赤ずきんがやったことが、正しいことだとも思わない。
自分に彼らを糾す権利があるなんて思わないし、ましてや義務だとも思わない。
でも、なんとなくこいつらを殺さなければ、この熱くドロドロした真っ赤な魂を捨てされないような気がしたから。
彼らを倒さなければ、「次」に行けそうにないからー
「殺す。」
テスラはそっとつぶやいた。
赤ずきんとその仲間達は何も言わずに目の前の死にかけた女性を眺めていた。
その時、レベルスが真っ赤に染まった。
「ぶっ潰す。」
テスラはだんだんと声を荒げた。
「引導を渡してやる。」
一度声に出すと、不思議とどんどん決意は固まっていく。
それに呼応するように、レベルスも薄暗闇を明るく照らし出す。
テスラはしっかりと焦点を定め、燃えるような輝きを放ちながら剣を振るった。
「赤ずきん」は大きく右によけた。
彼女の後ろで、大きく壁が破壊され、夜の暗闇が入り込んできた、
だがそんなことには全く構わず、テスラはそのまま赤ずきんの胴体を突き刺したー
と思ったが、現実はそう甘くはなかった。
「赤ずきん」の魔法で斬撃を防がれ、そのままテスラは大きく後ろに吹き飛ばされた。
そして「赤ずきん」の蹴りを連続で喰らう。
「ちっ…」
テスラもさらに攻撃を加速させていく。
もはや光の如く目に負えないほどに彼女の剣撃は早く、まるで鳥の如く自由に魔法を操った。
が、光も鳥も届かない領域はある。
彼女はついに体力が切れ、思い切り胴体に攻撃を受けた。
大量の出血。テスラはついに地に堕ちた。
「なにか、言うことは?」
「赤ずきん」が見下ろしているのがわかる。
「…ねえよ、クソガキ。」
テスラはイライラを隠さずの言った。
「そう、じゃあね。」
テスラはそっと目を瞑った。
その時。
「私の職員に何をしているのかしら?」
凛とした声が、あたりに響いた。




