赤ずきん 5
「…ここは、どこ?」
テスラは1人つぶやいた。
どこかの部屋のようだが見覚えすらもない場所だ。
あたりは一面薄暗く、壁の色すらもわからない。
レベルスは寝る時も腰に刺していたから無事なようだ。
「…?」
テスラはレベルスを抜いて、警戒しながら部屋のドアの隙間をのぞいた。
人影が一つある。だが、随分と小さいし、武器も持っていないようだ。
「誰だ。」
テスラは毅然として問う。
そこには、
「…お客さん?」
宿主の育てていた女児がいた。
いつものツインショートの髪を揺らしながら立っている。
「ああ、君か。」
テスラはほっと胸を撫で下ろした。
「ここはどこか知ってる?」
女児は首をゆっくり横に振った。
「そう、じゃあとりあえずでようか。」
テスラはそっと暗闇のなかを歩き出した。
足音を一切立てず、女児の頭に手を置きながら前に進む。
ドアを開け、無限とも思える空間を歩いていく。
(…それはそうと、ここはどこだ?そもそもなんのための…)
そう思った瞬間。
テスラの目の前が真っ白に染まった。
信じられないほどの眩しさに、テスラは目を強く瞑り、手で目の前を覆った。
迫り来る熱。全身を焼かれそうで、女児を抱えて大きく後ろに下がる。
目をうっすら開けると、そこには1人の女子が立っていた。
「…お前は…」
「こんにちは、テスラさん。私は「マッチ売りの少女。」」
(…マッチ売りの少女、か。)
テスラは彼女のことを知っている。
メチルが以前戦ったことがあると言っていた。
魔法術式は「爆発砲火」。大きな火柱を縦横無尽に発射する魔法。
直撃すれば命はないだろう。
体は一部焦げているが、まだ動きそうだ。
レベルスを右手で構え、女児を左手で抱える。
「…おい、ここはどこだ。私になんの用がある。」
テスラは睨みながらきいた。
「ああ、あなたには死んでもらおうと思って。色々と面倒なことになりそうだし。」
「それは赤ずきんの意思か?」
「うん。」
「そう。じゃあ赤ずきんに心の中で謝罪しろ、責務を果たせずすみませんってな!」
いうが早いか、テスラはレベルスを握り、「マッチ売りの少女」に突撃した。
暗闇を切り裂いて、電撃が少女を襲う。
(…「落雷」。こんな魔法まで使えるの、レベルスは…)
レベルスは様々な魔法を状況に応じて自動で打ち出す魔道具。
なんの魔法が発動するのかは、テスラにすらも発動されるまでわからない。
ただテスラの動きに合わせて、最適な魔法が放たれる。
業火を防御魔法で防ぎ、切り掛かっていく。
(…熱いな…。魔法範囲も大きいから厄介だ。)
何度か切りかかった後、テスラは思った。
(まずい…このままだと負ける。)
攻撃が当たらないのだ。レベルスの「身体強化」で恐ろしい速さで動くテスラの剣撃も魔法も悉く躱され、負けすらも予想できる展開だと自覚した。
「その子を持ったまま戦うのはきついんじゃない?捨てたら?」
その発言にテスラは猛烈に苛立った。
梅雨期間の教室のごとくジメジメしていた心が、一気に炎を上げて燃え出した。
(それができたら苦労はしない…)
できたらどんなに楽だろうな、とテスラは空想して、女児をぎゅっと抱きしめる。
「悪いが私はお前とは違う。ここでお前の心臓をぶち抜いてやるよ。」
テスラは剣を前に突き出し、そう宣言した。
「そう、まあ私を殺したところでここには「赤ずきん」もいるし、どうにもならないのだけど…そもそも私には敵わないし。」
「じゃあ!」
テスラは叫んだ。
「なおさら都合がいい、あのあかい布切れごと焼き尽くしてやるよ!」
レベルスが赤く燃え上がった。
テスラは一度部屋の後ろに女児を置いて、光の勢いで「マッチ売りの少女」に突撃した。
「……………」
「だから言ったでしょう?私には敵わないと。」
テスラは視界が霞始めた。
右腕に大きな火傷を負ったらしい。
レベルスの回復魔法で若干ずつ症状が和らいでいるが、剣を強く握るのは難しそうだ
「これで終わりね。」
そう「マッチ売りの少女」がいうと、大きな火柱が彼女を襲った。
間一髪で避けたが、衝撃で天井がすごい音を立てて崩れ落ちてきた。
テスラは女児を抱え、必死で走り部屋を移動した。
後ろを振り返るとー
見覚えのある顔がいた。




