表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無限ホテルの雑務員。  作者: AO
序章
14/53

英雄の死






テスラはカレンダーを見て、今日がアリエルからコンタクトレンズをもらった次の日ではなく、さらにその次の日であることに気がついた。

(つまり丸一日眠っていたのか。

まあ前世では徹夜2連チャン明けは普通に一日中寝てたからな。)

そのこと自体は何も疑問を抱く必要がない。

問題はいま何が起こっているのかと言うことだ。

(何あれ?)

正直あの中に入るのは躊躇われた。が、流石に気になった。

テスラは人の波を掻き分け、人が群がっているものの中央をようやく目にした。

そこにあったのは、棺だった。

中には1人の銀髪の女性の遺体が入っている。

(…シリウスさんか。)

ようやく状況を飲み込めた。

こんなに広い部屋いっぱいに人が入っている。

おそらく無限ホテルの職員が全員いるのではなかろうか。

何より、こうしたイベントを嫌いそうなメチルもいるのだ。

そして絶対に泣かなそうなアリエルが泣いている。

(想像以上に大切な人が亡くなったらしい)

テスラもそう察した。


少しして、前のステージの照明が点いた。

全員が一斉に前を見る。

壇上にジラーリアと4人の人間が上がった。

そのうち1人にテスラは見覚えがあった。

「では今から定期報告を行う。

まず、昨日の帝国治安隊の突入被害についてだ。」

(突入被害?帝国治安隊?)

テスラは全くわからなかった。

横にいたマリアに聞くと、

「ああ、そういえばあなたは知らないんだっけ?」

心なしかぶっきらぼうだ。

「このホテルには毎月の最初に帝国治安隊という組織から襲撃を受けるの。

あなたが以前戦った「裸の王」が所属しているのとは違う組織ね。

理由はこのホテルにいる政治思想犯およびその他凶悪犯を抹殺するため。

でもそれはただの口実で、実際はジラーリア含めた無限ホテルの全職員を全滅させるのが目的なの。」

「何で?」

「彼らからすればここは恐ろしいのよ。

もし反乱を起こせば間違いなく手に負えなくなる。」

「なるほど。それで?」

「それでね、毎回死者もかなり出るし、これまで一級も何人も亡くなったんだけど…

シリウス先輩は昨日彼らを1人で追い払ったの。自分の命と引き換えにね。

もう疲れた、とだけ言って、他の特別指定職員や一級が止めるのも聞かずにね。」

マリアは二つの書類を差し出した。

職員記録と戦闘記録だ。

テスラは受け取り、目を通す。

(シリウス=テリアメス。

無限ホテルの最古の職員の1人。

年齢は不明。

魔法は「観測不可」。魔法発動中、相手は如何なる方法でも彼女を認識できない。

主な所持魔道具は

「RBB-34」。

「テーリア・レベルス」(譲渡済み)。

「ハル君一号」(譲渡済み)。

「吹雪」

「レチアノール」

保安チーム一級職員。別館保安課課長。元帝国治安隊第4隊隊長。特別指定職員。

相手の全ての行動を一時的に不可能にする「禁止の魔眼」の発現者。

「赤ずきん」のメンバーである「白雪姫」「桃太郎」の討伐など功績多数。

第54次帝国襲撃の際、全ての職員に別館に立てこもるよう指示し、自身は1人で本館での戦闘に赴いた。帝国治安隊第一、第二、第三隊を全滅させるも、第四隊隊長、ガレリアにより胸部を貫通され死亡。)

「…!」

(テーリア・レベルスはこの人がもともと所持していたのか。)

思いがけない発見。テスラは驚いた。

前をみると、ジラーリアが何か話している。

「では亡くなったシリウスに敬意を示して、黙祷!」

「…………」

皆一斉に静かに目を閉じる。


「なるほど、すごい人だったんだね、シリウスという人は。」

「うん。私にとってもお姉ちゃんに魔法を教えた人だし、とても大切な人なんだ。」

2人は葬式後、マリアの部屋で話していた。

テスラはマリアから話を聞いてようやくシリウスの偉大さを理解した。

聞けば彼女は英雄的な存在らしく、これまで多くの職員を救ってきたらしい。

シリウスの遺品は彼女の遺言に基づきアリエルなど数名の職員に渡された。

(おそらく一昨日の夜、自分を抱えたのはシリウスだろう。)

「こんばんは。そしてさようなら。」

シリウスの言葉を復唱する。

「しかしまあ…何と言うか、みんな暗いな。」

清掃していたらわかるのだが、すれ違う職員が総じてどんよりとした顔をしている。

「しょうがないよ。彼女は英雄だから。」

「そっか。」

(みんなの中にあなたも入っているんだが。)

テスラは心の中で思った。

「まあ、業務は順調に進んでいるし、特に考える必要もないか。」

「そうね…」

そう言いつつぐだぐだとクッションに寄りかかるマリア。

(…全く、1人の人間が死んだ程度でみんなどうしちゃったんだ…)

マリアだけではない。

アリエルは部屋から出てこない。メチルもどこか抜けている。エラルドはどこにいるのやら不明だ。

(私にはわからない。)

テスラは前世からそうだった。

人の気持ちに共感ができないというより、常に冷徹なのだ。

死者は死者だし、生者は生者。

二度と会えないと喚いたって、嘆いたって、もうどうしようもない。

彼女は痛みや悲しみを知らないのではなく、むしろその逆だ。

彼女は痛みの中で生まれ、痛みの中で育ったから、「痛み」がない環境を知らないのだ。

だから他人にとっては受け入れ難い苦しみも、認められない寂しさも、否定したくなる弱さも、全てまるで水が落ちるように平然と受け入れてしまう。

そこが彼女の最も強い点であり、最も大きな欠陥であった。


「いつ何時も、自分が出せる最大の成果を出す。」

彼女のモットーである。

これは彼女の父親の言葉だ。

彼女の父親は素晴らしく強い人だった。

彼女の母親も、素晴らしく強い人だった。

姉は…。

そして彼女自身はー

「素晴らしくもなければ、強くもないな。」

「え?」

「いや、何でもない。

それより、サービスチームの連中をどうしようかと思って。」

今日彼女が帰ると、部屋の前に爆弾が設置してあった。

「……。」

彼女はすぐに扉を閉め、廊下に出た。

幸いテスラは無傷だったが、次はどうなるかわからない。

「ジラーリアに相談して見たら?」

「このくらい自分でするよ。」

そう言いながらも、テスラはマリアの部屋で一晩を過ごした。



















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ