宴会
「…なんか騒がしいな。」
午後10時。テスラは目が覚めた。
昼間行った酒場に似た雰囲気を感じる。
ゴシゴシと寝ぼけ眼を擦る。
「おはよう。」
声をかけられて横をみると、アリエルがいた。
「ああ…おはようございます。」
彼女はまだ寝ぼけている。
「どうぞ。」
という声とともに、水入りのコップが差し出される。
「ああ、ありがとうございます…」
テスラは水を受け取った。
「それで、こんな夜中に何のようですか?」
「いや、今日の宴会になぜ参加していないのかが気になったの。」
「今日宴会があってるんですか?知りませんでした。」
「ええ、そうよ。毎月最初の日になると、必ず宴会が開かれるの。
ジラーリアから聞かなかった?」
「はい、初耳です。」
「そう、まあいいわ。その水、全部飲みなさい。」
「?」
テスラは不思議に思ったが、全て飲み干した。
コップを枕元に置き、アリエルに向き直る。
「で?誰が参加してるんです?」
「ほとんど全員じゃないかしら?
マリアやエラルドさんもいるわよ。
メチルはどこかにいってるけど。」
「そうですか。」
「あなたも参加すればよかったのに。」
「いえ結構。私はああいう騒がしいのは苦手なんです。」
「ええ、知ってるわ。
あなたがそういう性格なのは、ジラーリア様からよく聞いているもの。」
「…………?そうですか。」
「そうそう。ジラーリア様から今日の報酬に渡すように言われているわ。」
アリエルは一つの紙袋をテスラに渡した。
テスラは中を探し、一つのガラス製の小さな容器を見つけた。
中には透明な液体が入っている。
彼女はひっくり返したり、降ったりしたがわからない。
「…何ですか?これ。」
「それはコンタクトレンズよ。
といってもただのコンタクトレンズではなく、装着中、視界に入った人間の魔法術式がわかるの。」
「へーそれはすごい。」
テスラは感心した。ようやく少し目が覚めた。
「前からジラーリアに言われて作っていた試作品なの。ぜひ使って。」
「あ、アリエルさんが作ったんですね。ありがとうございます。」
そういうと、アリエルは寂しそうに微笑んだ。
「あと、これも。」
そう言ってアリエルはテスラの耳を引っ張った。
「痛っ…」
続いて突き刺すような痛み。
テスラは大きく後ろに下がった。
「何ですか、全く…」
といい、彼女が耳を触ると
「!!!!!!」
「そのピアスもあげるわ。あげるといっても私のではないけれど。」
「え?いや別にいらn…」
「そんな悲しいことを言わないで。お願いだから。すごい人のものなのよ、全く…」
テスラはしゃべるのをやめた。目の前のアリエルが信じられないほど悲しそうな顔をしていたからだ。
「…じゃあ、もう私は行くわ。」
そう言い席を立った彼女の耳には、片耳だけだが青い星のピアスがついていた。
どこかで見たような気がする。自分と同じものらしい。
「ちょっと…」
テスラは立ち上がった。
が、その瞬間急激な眠気に襲われた。
その場に倒れ込む。
が、床には激突しなかった。
彼女は浮いていた。
「こんばんは。そしてさようなら、テスラ。」
(…聞いたことのある声…)
暗くなっていく視界。テスラは眠ってしまった。
「師匠。本当にいいんですか?」
2人しかいない廊下。賑やかな室内とは対照に静かだ。
「ええ。私の代わりを務められるのはあの子しかいない。
あなたもよくわかっているだろ?」
「…でも、」
「わがまま言うな。そして泣くなよ、アル。私の最後の弟子よ。」
そう言われても、目からこぼれる涙を如何にして止められようか。
「…先生…。いやです、やっぱり今からでもここを出ていってください!
テスラとマリアは私が守り抜きますから!」
「ダメだ。私は私のやるべきことを最後までやり通す。
それにまだ死ぬと決まったわけでもない。」
「いやです!いやです!いやです!……………」
アリエルの叫びが無常に響く。
しかし魔法で力ずくでも外に出そうとはしない。
彼女は「先生」との力量差をよくわかっているからだ。
(…楽しかったよ、アリエル。そして頼むよ、テスラ。)
テスラは「先生」の本当の実力を知らない。
走る「先生」の背中をアリエルが追いかける。
が。廊下の角を曲がった瞬間に見失った。
「先生」は無限ホテルの庭にいた。
空は綺麗で、星が粒のように浮かんでいた。
「よう、ジラーリア。」
「…………」
「先生」ーシリウスが話しかけてもジラーリアは答えない。
「星が綺麗だな。」
シリウスは続ける。
「アリエルと話さなくていいの?」
ジラーリアは空を眺めるのをやめた。
「ああ。あいつはもう私がいなくてもいいだろう。」
「テスラをどう思うの?」
「最強だな、あれは。でもきっと碌な人生を送れない。」
「ええ、概ね同感よ。でもそんな彼女だからこそ、あなたは可能性を感じたんでしょう?」
「ああ、そうだとも。あいつはいつか私の後継になるさ。」
「そう。証拠は?
魔力がないから魔道具の効果を100%引き出せること?
魔力探知に引っかからないこと?
自分を少しも大切にしていないところ?
基本冷静なところ?」
「まあ、そんなところだろうな。
あと非常に視線に敏感なところ、本能的直感が優れているところ、
力が強いところ、可愛いところ…」
「あなたとはまるっきり逆な気がするのだけど?
強いて言えば、「魔力探知に引っかからない」と「力が強い」は共通しているわね。」
「まあな。
まあ見てろ。あいつはいずれ一級になるさ。そしてー」
「私を殺す?」
シリウスは頷いた。
「無理ね。」
「無理じゃないな。私は確信している。お前を殺せなかったのは残念…というほどでもない。
別に殺すためにここにいたわけじゃない。私は私の目標を達成したかった。
まあ、あなたがこの世にいない方がみんなのためにはなるが…。
私は死んでも代わりがいる。
今まだ未熟な彼女は、さながら未だ光の届かぬほど遠くで輝く星のようなものさ。
マリアや他の一級と特別指定職員以外の職員も彼女が守ってくれるだろうよ。」
「格好いいわね。じゃあおやすみなさい、シリウス。」
「ああ。いい夜を。明日に備えなければな。」
次の日。
テスラはマリアに叩き起こされた。
「…起きて!テスラ!」
「…何?」
「いいから!」
マリアに言われるがままに引きずられ、休館の一階に来た。
一階に入った瞬間。テスラは一瞬で意識を引き戻された。
空気がいつになく張り詰めていて、寝ている場合ではないと気がついたからである。
いつもは笑っているマリアが、いつになく真剣な顔をしている。
メチルもエラルドも同じだ。
そして聞こえるいくつもの泣き声。
「殺してやる!」という罵倒。
涙で遠目から見てもわかるほどに濡れた床。
何が起こっているのか、テスラにはさっぱりわからなかった。
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