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無限ホテルの雑務員。  作者: AO
序章
12/53

お使い



さて、異世界小説というジャンルがある。

そのジャンルに属する小説ではやたらと全体的に中世ヨーロッパチックな光景が広がる。

それがいわゆる定番、推理小説でいえば10戒のようなものだ。

では実際に異世界というものがあったとして、どのような建物や街づくりが行われるのだろうか。

家の材質や屋根の形は魔法の存在以前にその土地の気候によるものだから、一律してどうこう推論することはできない。

だが注目すべきは、この世界では魔法という絶対的な価値基準が存在することがある。

魔法の優劣が全てを決める世界。

つまりどうなるのか?

答えは今まさに目下に広がっている。

(こんなふうに貧困層と富裕層の差が笑えないほど著しく開くわけだ。)

どうやら無限ホテルは少し高い丘のようなところにあり、下に町を見下ろせるのだが、家々の格差がものすごい。

すさまじい豪邸に住むものもいれば、「掘立小屋を少しマシにしました」程度の家に住む者もいる。

だが総じて石やレンガで作られているものが多く、ヨーロッパの家と外観が共通するものが多い。

どうやら定番は間違っていなかったようだ。

ちなみに下に広がる町は港町で、遠くに少し青色の海が見える。

港の付近には停泊している船らしきものがぼんやり見えるが、何を運んできたのだろうか。


ーなどということを考えながらテスラは無限ホテルの一階でソファに座り、窓の外を見ていた。

ソファの前の机には、青い花が置かれていて、その香りがあたりを包んでいた。

口には金色の棒飴を咥えている。

昨日の夜デザートにもらったものだが、ポケットにしまったままだったのでテスラの朝食となった。

カラカラと飴を口の中で回していると、

「ごめんなさいっす、待ちましたか?」

という声がした。

みると階段を1人の少女が駆け降りてきている。

その後ろには1人の男子がついてきていた。

(…なるほど、この人たちか。)

昨日ジラーリアがアリエルの部屋に来たのは、テスラにお使いを頼むためだった。

「…これとこれとこれ。明日備品チームの子達が買い出しに行くから、一緒に買ってきてちょうだい。わからなかったらダンテという少年とルチアという少女に聞くといいわ。

あ、もちろん服は制服着用。ただし階級章は外しなさい。」

とジラーリアは言い残すと、去っていった。

テスラはなぜわざわざ自分を指名したのかわからなかったし、なぜ階級章を外さなければいけないのかもわからなかったが、命令には従わざるを得ない。

(どうもこの2人のようだな。)

テスラはソファから立ち上がり、

「衛生チーム5級職員、テスラ=ガスターフォールドです。」

と自己紹介した。

「備品チーム2級職員、ルチア=トーチカっす!」

「備品チーム3級職員、ダンテ=アトラスです。」

この瞬間、彼女は何となく2人の関係を本能的に推測した。

(…この2人…)

「では行くっすよ!テスラさん。」

「え?ああ、はい。」

テスラは2人の後に続いた。


備品チームは様々な備品ー食料や服、清掃具、武器など各チームから指定されたものを10日おきに買い出しに行き、それを各チームへ配給することを職務としている。

この世界では運送網があまり発達していない。

3人が目指すは市場。

2人はサービスチームから何か頼まれたらしい。

市場につくと、

「じゃあここで一回お別れっすね、テスラさん。

あなたが買わなくてはいけないものがどこに売ってるかは、ここにメモしてあるっす。」

と言って、ルチアがメモを差し出した、

「ありがとうございます。」

と丁寧に礼を述べて受け取る。

「じゃあ、4時間後に!」

そう言って2人はどこかに行ってしまった。


(…ふーん)

テスラは地図を見ながら、そこらへんの屋台で配っていた肉串を頬張った。

「えーとまず、ここの店か。」

2人と離れられたのはいい。リア充の可能性のある2人に挟まって買い物をする気には到底なれない。

おそらく買い物様式はどの世界でも共通のはずである。

ものをカウンターにおき、金を払う。それだけだ。

ただこの世界にはキャッシュレスという概念は存在しないらしく、全て現金対応となる。

テスラはジラーリアからもらった「亜空間収納」で大量の金貨を持ち運んでいた。

一軒目は酒屋だ。

店内に入ると、ワイワイという賑やかな声が聞こえる。

インキャには辛い場所だ。さっさと帰ろう。

「すみませーん。」

彼女が出せる最大の声で叫ぶ。

「はいよ!」

小さい声だったが届いたらしい。店の奥から、威勢の良い大男が笑いながら出てきた。

が、テスラを一目見るなりその顔から笑いが消えた。

(…?私何かしたかな?)

彼女は一気に不安になったが、ジラーリアのメモを渡し

「これとこれとこれください。」

と頼んで、金貨を4枚渡した。

大男は黙って奥の倉庫に入ると、大きな瓶を4本持ってきて手渡した。

「あ、ありがとうございます。」

と言って受け取る。

気がつくと今まで騒がしかった店内はいつのまにか静まりかえっていた。

店内の客全員が彼女をじっと見つめている。

(………?)

テスラは最後まで不思議に思ったが、考えてもわからないので外に出た。


(…特に自分の言動におかしなものはなかったはずだ。)

テスラはあれから肉屋に行き、パン屋に行き、武器屋に行き…とあちこちを巡って無事買い物を終えてベンチに座っていた。

が、どの店でも酒屋と似たような対応をされた。

(となると…この制服か。)

テスラは自身の服を見た。

無限ホテルはやばいやつが集まるところ、というのはジラーリアから聞いている。

実際彼女も数日前死にかけたわけだし、なぜそんなに危険人物が集まるのか知らないが危険な場所というのはここでも有名な事実なんだろう。

テスラは肉串をもう一本買った。これで5本目である。


彼女が帰宅しようと思い裏路地に入った時、衝撃的なものを見た。

そこに転がっていたのは死体である。

(……)

テスラはそっと目を逸らし、引き返そうとした。

その時。

後ろから肩を掴まれた。

「おい。」

「…?」

大きな背の男だ。テスラは女性にしてはかなり背が高い方だが、それをはるかに凌駕するほどに。

後ろには何人もの人を鎖で繋いで、ずるずると引き回している。

「見たな?」

後ろを指差しながら男が言った。

「ああ、見た。」

テスラは物怖じせずに答えた。

「…そうか。」

男は少しブルブルと筋肉を鳴らした。

鎖の金属音が空に響く。

テスラはレベルスに手をかけた。

次の瞬間、男の拳とテスラのレベルスがぶつかった。

(…怪物…。肉の感触じゃない。)

レベルスを一旦下ろして拳を払い、首元に先を突きつけ、「落雷」を放つ。

男の体が再び大きく震え、地面に落ちた。

ふう、と息を吐いた。

が、それも束の間、彼女は新しい視線を感じた。

(…5、6…9?)

たくさんいる。暗い洞窟の中の蝙蝠の様に、わさわさと。

彼女が逃げようとした時。

「よう、テスラ。」

聞き覚えのある声がした。

「…シリウスさん?」

「ああ。なんか嫌な予感がして来てみたら…」

彼女が裏路地に足を踏み入れた瞬間。

わっと一斉に敵が出て来た。

が、

「余裕だな。」

シリウスはそう呟き、敵の中に入って行った。


5秒間ほど、この世のものとは思えない叫びと音がした。

そしてシリウスが出て来た。

「ふう。帰ろうか。」

「…はい。」

テスラは答えた。












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