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無限ホテルの雑務員。  作者: AO
序章
10/53

アンチ




3日後。テスラはあっさり退院した。

「おめでとー!テス!」

抱きついてくるマリアを受け流しつつ、アリエルに礼を言う。

「ありがとうございました。」

「ええ。よかったわね。」

アリエルが優しく微笑む。

「お姉ちゃんの治癒魔法、すごいでしょう?」

「うん、本当に。」

何でも聞くところによると、アリエルはマリアの姉らしい。雰囲気が似ていたのでそこまで驚かなかった。

そしてアリエルの魔法は「自在形成」。

自分の思う通りに物質を曲げたり埋めたりする能力。

これを使って、瞬時に内臓や骨を戻すことができるようだ。


部屋に戻る途中、別館の1階に多くの人が集まっていた。

皆揃って壁を見ている。

「あれは何?」

マリアに聞く。

「ああ、あれは職員ランキング。」

「何それ?」

「毎月最終日に発表される、誰が一番功績を残したのかのランキング。

敵対者の実力とかも加味してジラーリアさんが発表してるんだー。」

「へー。」

そんなものがあるのか。

「少し興味が湧いた。ちょっと見てくるね。」

「私も行くよ。」

人混みを押し除け押し除け、壁に貼られた紙を見る。

「1位、アウター=ラジスト。保安チーム一級。

 2位、シリウス=テリアメス。保安チーム特別指定職員。

 3位、サノワール=デリカ。サービスチーム特別指定職員。」

(知っている名前は…)

上から見て行く。

「…4位、メチル=レスター。衛生チーム特別指定職員。

…あの人そんなに戦闘力高かった?」

「うん。」

そうなのか、と思う。

だが思えばジラーリアともまあまあ仲がいいようだし、只者ではないのかもしれない。

「他には…」

9位、エラルド=フォン=ケリア。統括チーム二級。

25位、アリエル=ミカ。衛生チーム一級。

48位、マリア=ミカ。衛生チーム三級。

67位、テスラ=ガスターフォールド。衛生チーム五級。

「え?」

テスラは驚いた。

自分の名前があったからだ。

「すごいよテスラ!」

マリアが手をとって喜ぶ。

「これ、上位100人しか載れないんだよ!?

それに最初から入れるなんてすごい!」

ええ、と言いそうになった瞬間。

ポケットに何かを押し込まれた。

押し込んだやつは誰なのか、人が多すぎてわからない。

驚いたが、何も言わなかった。


メチルは部屋で布団の上に座っていた。

そっと、ポケットの中の紙切れを見る。

何か書かれているが、字が汚くて読めなかった。

誰が書いたものかは知らないが、入れたやつの服装からしてサービスチームの誰かだろう。

服装によってどこのチームに所属しているのかがわかる。

黒は衛生、赤は保安、青はサービス、白は統括…といったふうに決まっている。

どうやら私が魔法を使えないのにここにいることに大層ご立腹のようだ、とマリアから聞いた。

聞けば無限ホテルには入社試験があり、そこから一定以上の水準の魔法使いが選ばれるそうだ。

試験は戦闘や魔力量など要は魔法に関するものを試されるらしい。

入るのは簡単ではないのに、なぜテスラはいるのか、と言いたいようだ。

そんなことを怒られても、私の意思で来たわけではないし、帰る方法もわからないので手の打ちようがない。

まあ、こういう連中は無視しておけばそのうちやめるか直接文句を言いにくるかのどちらかだ。

やめてもらえればありがたいが、もし直接やってくるのならー

(…容赦はできないな。)

テスラは剣を抜き、今のうちに万が一に備え準備をすべく剣を見つめた。


(想像以上に早かった。)

テスラはピンポンピンポンなるインターホンとガンガン蹴られるドアを後ろに思った。

彼女の経験上、この手の嫌がらせをしてくる奴は最初の嫌がらせを派生させつつ徐々に酷くしていき、最後の最後で実力行使をしてくるものだと思っていた。

が、どうも全然違うらしい。

紙切れがポケットに突っ込まれてからわずか20分。

まさか自室のドアを破りそうな勢いで直接叩いてくるとは。

足音からして数人はいるようだ。

なるべく暴力は使いたくないが…。

怒号からして男もいるようだ。

(犯されるのは勘弁だし、全員ぶちのめすしかないな)

と思った。

が、いかんせん気が進まない。

なぜならば彼女は魔法が使えないという事実があるからだ。

「魔法が使えねえ無能が来てんじゃねーよ」という主張も彼らからすれば当然なんだろう。

それにシリウスの剣術を模倣していても、一級が何名かいる中で勝てるかは甚だ疑問だ。

それにマリアの炎魔法ならレア、ミディアム、ウェルダンのようにうまく加減が効くが、テスラの場合輪切りか半月切りか銀杏切りかしかない。

(それにしてもガンガンうるさいな。)

彼女は不機嫌だった。彼女が敏感なものは辛いものや明るいもの、そして人の声、足音、視線だった。

(もういいや、決着をつけよう。)

そう決心した瞬間。

パタリと物音が止んだ。

(…ん?)

何故物音が止んだのか。

今まであんなにうるさかったと言うのに、心臓の音すらも聞こえない。

まさか全員が同時に心筋梗塞でも起こしたのか?

テスラは不思議でたまらない。

ただ黙って、自室のドアを見つめるのみだ。

が、その疑問は5秒で解決することになる。


がちゃ。

扉を開けて、1人の赤髪の男性が入ってきた。

(…誰?)

テスラは見たことがなかった。目が離せなかった。信じられなかった。

テスラの聴覚は非常に鋭く、この距離の人間の心音くらいは聞き取れるはずだった。

が、目の前の男は一切そうした音が聞こえない。

歩く音はもちろん、心臓の音も、血が血管を蠢く音も聞こえない。

(…死人が歩いてる。)

ネクロマンサーが近くにいるのかもしれない。

「…ん?」

先方はようやく彼女に気がついたようだ。

テスラはポカンとしたまま片手に剣を持ち突っ立っていた。

「誰だお前?」

(こっちのセリフだよ。)

彼女は呆れた。

その時、レベルスの刀身が赤く染まった。

そしていきなりテスラは目の前の男に突撃した。

自分でもよくわからないが、この男を殺さなければいけないように感じた。

剣を大きく振り翳し、渾身の一撃を放つ。

「貫通」魔法が発動し、床と後ろの壁を破壊する勢いで剣を下ろす。

が、男は信じられないことに素手で受け止めた。

余裕そうな表情をしている彼を、霞む視界で捉える。

(自分は何をやっているんだろう。)

テスラはぼんやりする頭で思った。

「ここの部屋の持ち主ですが?」

先ほどの質問に答える。

「え?ここ5階だよね?」

「いや4階です。」

「まじ?ごめんごめん。」

そう言って男は出て行った。

テスラは後ろに尻餅をついた。


(…??????)

テスラの脳内はクエスチョンマークで埋め尽くされていた。

時刻は6時。もうすぐ夕食の時間帯である。

が、少しも腹が減らず、帰ってきたマリアが声をかけても返事しないくらいには埋め尽くされていた。

なぜしっかり閉めたはずの鍵を開けてあの男が平然と入ってきたのか。

この世界の鍵は非常に強固で、破壊しようとおもってそう易々とはできない。

開錠系の魔法を使ったのか?もしそうなら鍵ごと壊れてしまう仕様だ。

テレポート?彼は確実にドアを開けて入ってきた。

だが一つ言えることは、彼が只者ではないと言うことだ。

あのあと彼女が外に出ると、サービスチームの連中が20人ほど仲良く倒れていた。

制服から判別するに1級2人、2級8人がいた。

そんな人間を一瞬で撃破するとは、一体何者なのか。

そして何より、テスラは最初に彼が入ってきた瞬間に感じた本能的な危機感を忘れられなかった。


























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