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第69話 大魔法結界

不定期に更新しています。連載は継続中です。

 骨董屋の店主ジュークと優翔玲子(ゆうがれいこ)先生が魔法省に二重囮にされた忌々しい記憶が残る「港の見える公園」が見えて来た。


 あの時と同じ風景が目の前に広がっている。

風も無く穏やかな日差しが降り注ぐ中、ドメーヌ王国の第一王女コットンと第二王女ルシアを乗せた公用馬車が公園前に到着した。


 白馬二頭が牽引する紺色の馬車には二人の御者がいた。

その扉にはドメーヌ王国の金色の紋章が光っている。


 警備の私服兵たちの茶色の軍馬が馬車の前後両側を囲み警備した。


 私服兵たちは非常時のため完全武装で双子の王女姉妹を見護った。


 王女姉妹の馬車の前の車列には、ランティス王子とティラミス王子が乗車した芦毛の馬車が駐留した。

 双子の王子も上級魔法士の資格が認定され、シルバーグレーの士官服の左肩にドメーヌの金色の徽章が輝いている。


 最後尾の車列には軍服姿の兵士たちを大勢乗せた黒い馬が牽引する馬車が数台続いた。


 非常時体制の中、魔法省に続く車道の警備が普段とは比較にならないレベルで強化されている。

その先にはルーク・ドメーヌ国王の兄の居城があった。


「ルシア、伯父様と秘書を出迎えたらドメーヌ城に戻りますわ」


「コットン姉さん、さっさと済ませて戻りましょう。零が寂しがらないうちにね」


 王女二人の横で髪の美しい王女の秘書セーラとニーナが馬車の外を監視していた。


 ジュークが魔法省に撃たれ、玲子先生が魔法省に拉致された事件現場には、真新しいベンチが置かれている。

ジュークは、メリウスの回復蘇生魔法で生き返り、玲子先生はメリウスが魔法省から取り返した大事件だ。


 魔法銃に始まった一連の事件は未解決のまま、メリウスの結界が破損された。


 公園前で小休止を済ませた一行は国王の兄のシャメロン城に向かって前進を再開した。

「港の見える公園」の周囲には低い白樺の林と田園が広がっている。


 ルシア、コットン、ランティス、ティラミスは秘書と軍隊を伴ってシャメロン城に向かう街道を進んだ。


 ドメーヌ城の非常事態が継続している最中にシャメロン元国王の安全確保を目的とした大移動が淡々と始まっている。


 ドメーヌ国王秘書ターニャとサーニャはドメーヌ城の国王室に留まったままだ。

筆頭秘書のクーニャは魔法女子高生メリウスと特殊任務を継続している。


 大隊長のルイ・ザードはドメーヌ城の警備強化の任務で離れられず、ランティスとティラミスが抜擢された。

 

 第一級警戒の中の大移動と知らぬ双子の王女二人と従兄弟の双子王子だった。




   ⬜︎⬜︎⬜︎




 ルシア王女不在の部屋の隣にある謁見の間に、武道場から避難した異世界からの訪問者がいた。


 メイド長クローラに従い客室に戻り待機することになった。

部屋付きの赤いメイド服のメイド三人が最後尾に付き添って長い廊下を歩いている。




   ⬜︎⬜︎⬜︎




 数時間が経過して、ドメーヌ城前に王室と軍の馬車が次々に帰還した。

シャメロン・ドメーヌ元国王を弟のルーク・ドメーヌ国王が出迎えた。


 ルーク・ドメーヌの国王秘書ターニャ、サーシャ、クーニャが警戒して、ルイ・ザード大隊長も並んでいる。

 秘書以外は全員シルバーグレーの士官服を着用している。


 その片隅に朝霧女学園の制服姿のメリウスと妖精フェリカが遠くから見護っていた。


「シャメロン閣下」


「ルーク国王、私は国王じゃないのだ。昔のままで良いのですよ」


「お元気そうで何よりです。しばらくは、ルークのお城でお休みください」


「ありがとう。ルーク、甘えさせてもらいます」


 国王と元国王は筆頭執事と秘書を伴って宮殿の独立塔の正面玄関に入って行った。

玄関の両側には、白いメイド服と黒いメイド服が並ぶ。

膝が見えない丈のメイドのスカートの腰には大きなピンクのリボンがあった。





   ⬜︎⬜︎⬜︎




 第一王女コットンと同じ紫髪と紫の瞳を持つクーニャが、妖精フェリカの緑色の瞳と同じ色の髪の横で待機していた。

女子高生魔法使いメリウスはフェリカの横にいた。


「メリウスさん、これからどうしますか? 」


「クーニャさん、今は無用心に動くのは危険です」


「そうね、魔物の危険回避が完全にできない限り・・・・・・ 難しいわね」


 シャメロンの城から戻ったばかりのルシアとコットンが急に立ち上がってメリウスに向かって言った。


「待つのにも限界があるわよ!メリウス」


 メリウスは王女二人の言葉も思考も理解した上で言った。


「今は、相手の動きが分かりませんので、大魔法結界で探りを入れましょう」


 メリウスはルシアとコットンに微笑んだあと無詠唱で大魔法結界を中庭に仕掛けた。


「メリウス、意味が分からないわ」


「ルシアさん、コットンさん、中庭を見てください」


 ルシアが中庭を恐る恐る覗いて驚く。

コットンもルシアに続き、中庭を覗き表情が変わった。



 中庭の中では、枝葉がぐるぐる高速で回りながら舞っている。

風が吹いているようには見えない。


「メリウス、中庭が変よ」

コットンもルシアの言葉に頷く。


 雷のような電磁波が空間を走り抜けている。

魔物の姿は既に消えていた。


「メリウスさん、これは魔法かしら」


「コットン王女、これは時空結界です。無理矢理、中から出入りを試みれば時空外に弾き飛ばされます」


「意味が分からないわ」


 コットンはメリウスに返答することができなかった。

クーニャがメリウスに尋ねた。


「これ危険ですか? 」


「普通にしていれば問題ありません」


「じゃあ、城のメイドたちは? 」


「関係者に危害はございません。但し、部外者には危険です! 」


クーニャは腕組みして考えた。


「ーー 内部の侵入者には危険ということかしら」


「はい、そうなります。中では時空軸がズレながら動いています」


「時空転移は時間停止と聞いていますが」


「コットンさん、これは時空転移ではありません。時空結界で時間がズレています」


 クーニャが考えを整理してメリウスに言った。

じゃあ、もしかして、この中の時間が5分早ければ、私たちの時間が5分だけ過去になる訳ですか?

クーニャの説明にメリウスは頷き補足を加えた。


「クーニャさん、この中は5分じゃありません。約24時間です!この中の光景が早く進むことで、24時間後に起こる敵側の仕掛けが分かります」


「ということは魔法省が同じ時間と勘違いしてる訳」


「はい、時空トラップですね」


「じゃあ、これ時空の罠じゃない」


「はい、ルシア王女、その通りです」


「でも、気付かれたら」


「時空トラップを解除できる術は魔法省にはないでしょう」


 コットンとルシアは急に笑顔になりメリウスを抱き締めた。


 国王の筆頭秘書クーニャが、ぼそっと呟く。


「防御は分かったわ。犯人の捕捉はどうなるのかしら」


「時空トラップを騙せる人間はいないわ」


「そうね。時間軸がズレていたら混乱するわね」


 クーニャはそう言ってメリウスに尋ねた。


「メリウスさん、このトラップ解除は」


 メリウスはクーニャにゆっくり説明を始めた。


 動いている物体を急に停止させたら制御が混乱するでしょう。

24時間のズレを修正するにはゆっくり制御しないと危ないわ。


クーニャはメリウスの説明で時空トラップ解除が簡単じゃないことに気付いた。


「という訳で、皆さん、待ち時間を有効活用しましょう」


「メリウス、どうするの? 」


「ルシア王女、コットン王女、地下に混浴温泉ありましたね」


「そう言うことなの」


「ええ時空トラップ解除には最低でも24時間が必要です」


 ルシアはメイド長クローラに伝えるように部屋付きのメイドを呼び寄せた。


「今夜は温泉のあとに晩餐会になるわよ」


 そのあと、メイド長が日本からの来訪者を引き連れて謁見の間に戻った。




   ⬜︎⬜︎⬜︎




 中庭の窓から時空摩擦の音が聞こえている。

時折、破裂音が響いた。


24時間が過ぎた。


 ドメーヌ城を混乱に貶めた魔獣の姿は完全に消失していた。

中庭のあちらこちらに嵐の疵痕に似た抉れた跡が刻まれている。


 メイド長クローラは全メイドに場内の確認と清掃を伝えた。


 魔法省からの連絡は無かった。


 ルシア王女コットン王女は予定通り、日本からの訪問者を案内する場所を思案した。


「コットン姉さん、魔法省見学はどうかしら」


「裏の裏ね」


 メリウスは、我儘王女姉妹の企てを知らぬ振りして、先に魔法省の潜入依頼を妖精フェリカに託した。

 国王秘書クーニャを引き連れドメーヌ城をあとにするメリウス。


「メリウスさん、フェリカの連絡次第ね」


「フェリカは魔法省の人間には見えないから大丈夫ね」


 メリウスは見慣れたドメーヌ城をあとに城門を抜けた。

風もない穏やかな昼下がり、馬車の車列が駐留する城内を抜け、ドメーヌ城の跳ね橋を通過した。

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