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第五十九話 零さま、閑古鳥でございます

『第五十九話 零さま、閑古鳥でございます』

約二千四百文字です。


 東都タワーに出掛けることを考えながら自室のテーブルの上に地図を広げていた夢月零は、双子の姉の雫と一緒にいた。

 零と雫も例外に漏れず、灯台下暗しで観光名所とは縁がなかった。

いくつかの観光ルートを指で追いかけながら地図の上をなぞっている。


「そうね、この駅が近いわね」

「雫、でもさぁ、駅から大分離れていない」


「そうかな」


 同じ姉妹でも、運動音痴の妹の零と違い、雫には天が与えた二物があった。


「雫の体力はスケールにならないわよ」

「そうね、零はのろまな亀さんだもんね」


「じゃあ雫は、うさぎさんなの」

「うさぎは嬉しくないよ。亀さんに居眠りして追い抜かれるんじゃね」


「ああいうのは童話の世界の戒めよ」

「零、そろそろ、お友達を食堂に呼ばないと」


「分かった。クローラさんにお願いしてみるね」


 零は雫と別れて、邸廊下を進みクローラがいる客室をノックした。


「お嬢様、みなさんは、私が食堂に案内しました」

 家政婦が零の背後から声を掛けた。


「ありがとう。淑子さん」


 零は家政婦に礼を言って食堂向かおうと歩を進めた時、家政婦淑子の声が聞こえ足を止め振り返る。


「零お嬢様、今朝は一階の大食堂で準備をさせて頂きました」

「分かったわ、淑子さん、じゃあ一階ね」




 零が気付くとメリウスが隣にいる。


「零さま、今日はどちらへ」

「東都タワーに行ってみるわ。ただ、迷っているの、御成門か赤羽橋かと」


「零さま、こちらからの移動ですから赤羽橋が便利かと」

「そうね、メリウスの頭の中の地図の方が正確かも・・・・・・ 」




 夢月邸の朝食は、バイキングスタイルになることが多かった。

食堂のレースカーテンから朝陽が差し込んで中央の大きな白いテーブルにコントラストが出来ている。


 零とメリウスは一階の食堂に入り、五人の家政婦が用意した小皿を片手に好きな食べ物を選んで皿に乗せテーブルに着く。


 メリウスは、異世界と日本の習慣の違いをスペード、サーニャ、ターニャ、セーラ、ニーナ、クローラに伝えた。


 メリウスの思惑通り、スペードがルーク陛下とシルク妃に丁寧に説明している。

国王と妃はスペードに任せ、スペードがサーニャとターニャに分担させた。


 朝食が終わり、夢月邸のラウンジでメリウスが零に代わって予定を伝える。

五人の家政婦が訪問者にリゾートウエアをそれぞれに手渡しサイズを確認した。


 筆頭執事のスペードとメイド長のクローラとメイド三人は、メリウスのアドバイスを受けて夢月邸で留守番することに決まった。


 サーニャとターニャは国王警護、メリウスはシルクの警護、セーラはルシア、ニーナはコットンに付き添う。

各々の分担が決まり、夢月邸を出て赤レンガの歩道を下った。

通勤ピークが過ぎた風も無い午前中の時間帯、最寄り駅までの道に行き交う人も疎らだった。


 零と異世界からの訪問者は、高級住宅街をあとに地下鉄の改札を抜けた。

リニア地下鉄のトンネル内に空気を引き裂く電車の音が響いている。


[ゴーー ]




「陛下、御気分は」

サーニャが言った。


「子ども時代に戻った気分じゃあ」

「陛下、ターニャが御守りします」

 陛下はターニャ見て微笑んだ。


 その刹那、恰幅の良い男が陛下と衝突しそうになる。

メリウスが空間魔法で間一髪を回避させた。

メリウスの空間魔法に気付いたターニャは、メリウスに敬礼して苦笑いをしている。


 サーニャも同じ思いでメリウスや、セーラ、ニーナにウインクしていた。


 地下鉄車内は新町を過ぎて混雑し始めた。

 夏休みの平日の午前中と言うのに人が多く、国王と妃は驚いている。


 零と雫は、ルートの選択肢を間違えたかと冷や汗を掻く。


「零、先は分からないのよ」

「そうかも知れない」


 零は雫の思いやりに感謝していた。


 しばらくした時だった。

メリウスたちの周囲がガラガラになった。


「メリウス、なんかしたでしょう」

「零さま、猫は人混みが嫌いでございます」


「メリウス、猫って狭いところが好きでしょう」

「人酔いと狭い場所は別次元でございます」


「なるほど」


 メリウスは周囲に結界魔法を仕掛け他の乗客の入室を遮断していた。




 メリウスたちは赤羽橋駅をあとに東都タワーへのアスファルトの坂道を行く。

空は高く、騒音の中で小鳥の囀りが聞こえていた。


「雫、地図に坂の印なかったわよね」

「そうだけど、気にしているのは零くらいよ」


 後ろで姉妹の会話を聞いていた、ルシアとコットン、玲子先生も呆れている。


 零と雫は若草色の短パンに、コーラルピンク色のアロハシャツを着て麦藁帽子を被っていた。

ルシアとコットンたちも夢月邸の家政婦が用意したリゾートウエアスタイルだ。


 東都タワーが近くなって登りの勾配がきつくなった。

メリウスは、国王と妃にリカバリー魔法を仕掛けた。


 ルークもシルクも、十代の体力を感じながら急坂を登った。


「メリウスさん、色々と助けてくれてありがとう」

「陛下、当然ですので」


「メリウス、ここではーー ルークにしてくれないか」

「はい、仰せのままに」


 メリウスの完璧な対応にルシアとコットンが大きな胸を張って威張っていた。


「お父さま、メリウスがいれば一万力ね」

「ルシアの言う通りよ。お父さま」

コットンが言った。


 二人の大きなアイボリーの麦藁帽子がルシアとコットンの髪色を隠している。

帽子の隙間からルシアの水色の瞳、コットンの紫色の瞳が垣間見えた。

 ターニャとセーラの緑髪、サーニャとニーナのピンク髪も茶色の麦藁帽子が遮っている。

日本では人目を引く色だった。


 蜜蜂が坂道脇の花壇の周りを飛んでいた。

東都タワーの赤い鉄骨の足元が見え始め、一同はタワーの先端を見上げる。


 メリウスが、いつの間にか入手したタワーのエレベーターチケットを全員に渡した。


「じゃあ、みなさん行きましょう」

高校教師の玲子が大声を上げた。


「玲子先生、旗を持てばバスガイドさんね」

零と雫の双子姉妹が玲子先生を揶揄っていた。


 空は雲一つなく紺碧の空が広がっている。


「メリウス、また結界魔法なの」

「零さま、閑古鳥でございます」


 メリウスと零の対話にルシアとコットンが笑い転げた。

 『第五十九話 零さま、閑古鳥でございます』


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三日月未来(みかづきみらい)

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