動転する気
引いた?
よくコンビニとかでやってるあれだろうか?
【◯◯くじ】
そんな訳無いだろう。
わざわざそんな報告をこんな色々な気持ちの籠った表情で俺に言う筈はない。
寧ろ、言わないだろう、言われても俺は困惑と変顔で返す自信がある。
・・・・嫌、ワンチャン、A賞狙いが10連続でG賞のしょーも無い商品だった場合こんな顔になるかも知れん。
一回800円近くするから馬鹿にならんのだよあれは!!!!!
かく言う俺も、好きなアニメが一番◯◯になった時は死ぬ思いをした記憶がある。
あの時のC賞のどうでもいい推しでもないキャラのフィギアは今でも家の棚に飾ってある。
大量のハンドタオルとステッカーシートと共に。
・・・・埃を被って。
「あーもうっ!」
やべ、声が出た。
話は脱線したが恐らく彼女のそれはそれでは無い。
覚悟を決めよう。
乗車中で引いたというのは、十中八九【轢いた】だろう。
「轢いたって、何を?」
「人・・・・・かも知れません」
やはり・・・ヘヴィそうな話だった。
「夜で暗かったのでさだかじゃないんですが、あそこの辺り、あの電信柱の影から人が出てきて、ブレーキを踏んだんですけど間に合わなくて。」
「人影の様な・・・物?
でいいんじゃないんですか?
今の所。」
「はい?」
・・・やばい、本音が漏れた。
折角嫌々ながら人助けしたのに厄介事に巻き込まれるのはごめんなんだが。
本当に。
・・・横目に改めて車を見てみると確かにバンパーがへこんで、フロントガラスも割れている。
さっき持ち上げた時に側溝に落ちた際に出来た物だと思ってたがそうでは無いようだ。
何かを轢いたのは事実らしい。
まぁ、このへこみが出来たのが彼女の言う通り何かを轢いた時に出来た物という確証は無いよな。
・・・もう悪足掻きか。
「ふぅ〜」
でもな・・・これが事故だったら、バンパー部分どころかそこかしこに血痕がついてそうだけど・・・轢いた瞬間はつかないもんなのか?
ドン、バーン、クルクルクル
そんな訳が無い、少なくともフロントガラス周辺には付いてそうなもんだ。
周りを見回してみたが死体が転がっているという事も無かった。
「少なくとも、周りに遺体」
「ひっ・・・・・」
彼女が両手で口を押さえると、数秒もしない内に彼女の両目から涙が溢れた。
「あ、、、被害者の方と言うか、そういうのはいないみたいなんですけど」
勢いで民家の塀を越えてる可能性は無い訳じゃ無い。
でも、今はそんな推察言わない方がいいかもな。
「でも確かに、あの時、轢いたんです!」
・・・そんな力説されても流石に言葉に困る。
正直そんな話は警察かどっかでやってもらいたい。
血痕と言えば俺のウェアにもあれの緑色の返り血はついてなかった、あれだけ飛び散っていたのにも関わらず。
あれが消えたのと一緒に消えたのだろうか?
俺はあの直後気を失ってしまったので確かめる術はない。
だが、それに当てはめるとすると、もしかしたら彼女が轢いたのはユーメリア由来の何かなのかも知れない。
嫌、そうなのだろう。
・・・・・だけどなぁ。
「あの、今世間がどんな状況かってご存知ですか?」
「はい?」
「・・・あの、気がつかれたのって?」
「ついさっきです。
気づいたら目の前が白くなってて、苦しくて」
ああ、と言う事はあの暗い世界は経験して無いんだな。
勿論、今の日本、嫌、世界の状況も何も。
だとするとどう説明したものか。
ん?
と、いう事は彼女も何かしらのユーメリア勢を殺したって事になるのか?
もしそうであれば、殺人という訳では無くなる。
それに俺はそれを確かめる術を知っている。
「あの、変な事言いますけど」
「?」
出掛けで急いで化粧をしてないなかったんだろうか?
彼女の涙の筋は素直に目から頬、そして顎に伝っていた。
「スキルオープンって言ってもらえますか?」
「・・・・・はい?」