初めての冒険 1
「なあ、コン」
「何やご主人?」
「この状況っていつまで続くんだ?」
俺のたわいもない質問にキョトンと可愛い目を丸くして少し硬直する小狐。
「?」
僕こんなんでも少し前は神様だったんですよぉ
くく、勝手にアフレコ、笑えるな。
「儂に分かるもんかい!
儂もこんなん初体験やし、蝕、星食いっちゅーんやから・・・・消化が終わるまでちゃんかいのぉ?」
「消化って、お前が蝕って自信満々に言ってたんだろ、詳細位わかるもんなんじゃないか?」
「いやいやいや、儂も文献やら、他から聞いた位やからな、実際の所、経過がどうとか結果がどうなるとか、よう知らんわ。
かっかっか、もしかしたら排泄されて終いかも知らんな。」
ん?
・・・この肉球で読書?
まぁさっきの瓶の一件もあるしな、俺にとっては蝕よりも興味深いぞ。
「・・・何か、どうでもいい設定みたいだな蝕。」
「かかか、流石ご主人、スケールのでかいこっちゃな。」
「実感が無いだけだろ。
せめてこの暗闇状態がいつまで続くか分かればいんだが」
「1秒後終わるかもしれんし、この後、何年も続くかもしれんな、ユーメリア次第やなホンマ」
「もう出社しないと間に合わない時間だし、嫌、今日はもう遅刻でいいから、シャワー浴びたいぞ」
「はあ・・・・。
・・・こないな状態で出社とか、よう考えるなご主人、ある意味尊敬やわ」
コンが感嘆の声を上げるが、何故だろうか?
普通だろそんなの。
「この後、多分世の中、世界中えらい事になるで、そんな日にやる会社なんて、ようあらんやろ?
やるとしても、政府、行政、一部の公共機関位ちゃうん?」
「そうかな?」
「悪い言い方やけど、ご主人の会社、一ミリも関わって無いやん?」
「まあな」
「じゃあ、今日は久々の休みか・・・何しよ。
じゃないな、まじでシャワー浴びたい。」
「・・・・ご主人、よう世間とずれとるとか言われへん?」
「言われないけど」
「ああ、そうなん」
不意に上空が光る。
コンの色が白くなる。
強烈な光が辺りを照らす。
ゴウ
と言う音が鳴ったと思った次の瞬間、息が止まるかと思う程の強風が吹いた。
「コン!!」
「終わったみたいや!」
「消えた訳じゃ無いんだな!」
「消えるかい!
強烈な閃光で目が潰れてるだけや、始まるで、ご主人!」
コンのワクワクした声が耳に届く、一体何が始まるん
音が戻る。
周囲から色々な音が届く。
ブレーキ
衝突音
破壊音
爆発音
阿鼻叫喚
高所から
地面から
色々な音が
聞いた事の無い、だが、絶望を連鎖させる音がそこかしこから聞こえてくる。
「・・・・・かかか。
ふるいにでもかけられとる様やな」
「笑い事かよ!!」
「何言うとんねんご主人。
所詮他人事やろ?」
「・・・・うわ・・」
目の機能がようやく戻ってきたので、肩に居座り、物騒な事を尋ねるコンの方を見た。
「お前・・・・コン」
目を細め、牙が見え隠れする口をニタァと細く開けコンはほくそ笑んでいた。
「悪い顔過ぎだぞ」
「・・どうでも良いやんそんなん。
他人の不幸は蜜の味や、人間の高まった感情は、どんな感情でさえ、儂にはご馳走なんや」
「人の感情って?
感情が主食なのかお前?」
「主食っちゅー訳でも無いけど、封印中動けへんから、神として祀られながら、それだけしか食ってへんかったな。
ちゅー事は主食なんかな?
生きながらえたんもそのおかげやったし。
でも儂、こっから動けへん身やったし、返した覚えは無いんやけどな。
かかか。
あ、もちろん普通の食事も出来るで。」
「・・・・とんだ詐欺神だな」
「かかか
儂に話聞いて貰うだけでも、価値があったんちゃうん?
げんに何人もリピーターもおったし。
その人間が垂れ流しにしてる感情吸収したところで、罪の意識なんてあらへんわ。」
「・・・・一理あるな」
「せやろ」
話を一方的に聞かされるのも結構きついもんだし、ギブアンドテクという観点からいえば成立してるのか?
まぁ間違ってはいないよな。
さて世界に色が戻った、確認した訳では無いけど、街中は地獄の様な光景が広がっている事だろう。
家に帰るにしても、大通りに出なきゃいけないし。
面倒な事にならなきゃ良いけど。
・・・・・・俺も大概だな。
スキル精神安定のおかげか、それとも隣で騒いでいる小動物の影響なのだろうか。
所詮他人事感が俺の心を支配しつつある。
「まぁ、自分に降りかかる火の粉位はなんとかするさ」
俺は非力な一市民なのだ、自分の身を護るので精一杯なのだ。
「かかか、せやせや、安易なヒロイズムは身を滅ぼすでご主人。」
立ち上がりとバックからスマホを取り出す。
ネットに繋げようとするが画面にページが開けませんサーバーが応答を停止していますという画面が出るばかりであった。
早い復旧を望もう。
電話は?
一応会社に連絡してみるが、こちらも回線が混みあっていて繋げないとか、そんなメッセージだけが流れていた。
こちらも早い復旧を願うしか無い。
「はぁ、一苦労しそうだな家に帰るだけでも。」
「かかか
ご主人、初めての冒険ってタイトルでもつきそうやな。」
「笑えないよそれ。」
進もうとする足は重かったが、身体的には絶好調だった、膂力有り余るといった感じだ。
「勘違い野郎にはならんぞ俺は」
「かー久しぶりのシャバやで!!
ご主人!!」