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怨念遺伝  作者: FUJIHIROSHI
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第48話 終

 ぎやあああああああああ。


 斗南たちの目の前で、八枝子が強烈な叫び声を上げた。

 天を仰ぎ、口を大きく開けて苦しそうにガクガクと震えながら膝を折ると、両腕をだらりとさげた。

 その体から煙のような、細かい砂のようなものが出ている。


 二人は呆然とそれを見ていた。

 ぼ……坊……や。ぼ、うや。

 坊やと、切なげに言った。

 斗南は悲しげに眉をしかめた。


 邪魔な奴らめ、邪魔な……。

 八枝子は顔を戻し、松宮を睨みつけて言う。

 その様子から、儀式が終わったのだと松宮は確信するが八枝子が消えない。体が崩れていっているようだが消えてはいない……強い怨みがそれを成しているのだろうか?


 だが、ああ……あ……八枝子の首がガクリと垂れ、声が途切れた。


 今度こそ、終わったか……。

 それを見た松宮が、ほっ、と肩を下ろした時——。



 ぎおおおおおおおおおおおおお!


 八枝子が低い声を唸らせながら最期の力を振り絞るように、勢いよくにじり寄ってきた!

「う、わああああ⁈」

 へたり込んでいる松宮は硬直して動けない——。


「先輩!」


 どすっ——鈍い音がする。


 松宮を庇い、前に出た斗南の胸から首に、八枝子の指が突き刺さっていた。

 四本の指が、突き刺さっていた。


「ごぼごぼごぼ」

 斗南の口から、泡を吹くような音とともに血液が溢れ出る。

「斗南氏?」斗南の背中しか見えない松宮には、その状況が分からない。


「おお、坊や……」


 八枝子は不気味に笑い——。

 ぼろぼろと崩れ——。


 散らばって消えた。



 仰向けに倒れ込む斗南を見て、ようやく松宮はその状態を把握する。

「斗南氏! ああ、くそう、くそっ、こんな、馬鹿な。斗南氏、斗南!」

 ガバッと斗南が血を吐き出し、ビクビクと痙攣する。


 松宮は斗南の首にかぶりつき、血を吸い、吐き出す。口の中に溜まる血液も、唇を重ねて同様に、吸い、吐き出した。

 溜まる血液で窒息させないため、人工呼吸とそれを繰り返す——。


 山を登り、いくつかのライトの光が近づいてくる。村にも照明が設置されていた。


 崖の上、斗南の救命処置をする松宮に、警察と救命救急班が駆け寄る。その中に、袴姿の人間も何人かいた。


 広場に、桜紗たちの姿はすでに無く、草むらに横たわっていたはずの豪切もいなくなっていた。

 加賀島に至っては、乗っていた車ごと消えていた——。



 こうして、斗南の夢から始まった一連の騒動に幕が下りた。




 ——それから一週間が過ぎた。

 雲もなく、青く晴れた空。冬に向かう空気が、少し冷たく肌を引き締める午後。

 ギプスで固めた右腕をアームホルダーで吊り、左手には手土産を持った松宮が病院を訪れる。


 救命処置も良く、救命救急班の到着も早かったおかげで、どうにか一命を取りとめた斗南の見舞いだ。

 実際は、救助の連絡がうまくいかなかったら松宮の救命処置だけでは助からなかったろう。



 ——あの時、あの崖上で、斗南と豪切、紫桜は外への連絡を試みていた。

 道中、車中で使用した斗南自作の携帯アプリを起動してメッセージを登録し、その携帯を、二重にして膨らませたゴム手袋に入れ、口を閉じて崖から川に投げ落とした。


 アプリは設定した十分おきに豪切の住む、神社の社務所兼自宅に発信を繰り返し、ゴム手袋が下流に流され、電波の圏内に入ったところで回線はつながった。

 メッセージは場所の詳細と廃村の名前と救助要請だ。

 豪切が言っていたように、宮司ぐうじには緊急時、すぐに動けるようにと告げてあったので、これで充分だった。

 ゴム手袋がどこかに引っかかってしまう心配はあったが、うまくいったようだった。



「よ、地元に転院出来て良かったな」

 松宮は斗南の病室に入るなり、軽く手荷物を持ち上げて言った。

 斗南はあわてて病室の備え付けテーブルの上から、九インチのタブレットを手にし、起動した。

 松宮は部屋の入り口に立ち、そこからタブレットを覗くように首を伸ばして待つ。


「オツカレサマデス。センパイ。ワザワザ、アリガトウゴザイマス」

「うわあ、某ボカロの少女か? その音声」


 声帯をやられて声を出せない斗南は、打ち文字を音声変換するアプリを使用して会話をしていた。その日の気分で男性や女性、子供や赤ちゃん言葉に変えられる。

 松宮が来ることもあり、受けを狙ったのだが……だいぶ引いている。


 ほい、と手土産を渡す。「これ、頼まれてたパソコン雑誌……と、エロ本」「ソレハ、タノンデ イマセンガ エクスクラメーションマーク」斗南は高速タップして突っ込む。

「ふ、ふ、ふ、冗談だよ。それよりなんだそのエクスクラメーションて、せめてびっくりマークって言わせてくれ」

 松宮は肩を上下させて笑う。


 それから斗南は事後処理でのことを謝罪するが、「うちは放任主義なんで問題なかったが、普通の親なら激怒して当たり前だ」と、松宮は寂しげに言ってすぐに、「意識をなくしてたから知らないだろうけど、向こうの入院先に伊予乃氏行ったんだぞ。大号泣で、そっちの方が大変だったよ」と肩を上下させた。

 帰ってからどれだけ大変だったとか、学校でのこと、真泊が意識を回復して、後遺症の心配がないこと、亡くなった二人の遺族に連絡して弔問したことなどを話したあと、話題は豪切たちのことへ——。



 次回 最終話につづく

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