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怨念遺伝  作者: FUJIHIROSHI
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第38話 二人

 これには松宮すら、理解が追いつかず、唖然とする。かまわずに桜紗は続ける。


 おそらく八枝子は監禁され、そこで精神が崩壊、分裂するような目にあった。

 その心は強い怨みと、狂いながらも我が子を想う気持ちとに二分にぶんされ、殺害されて怨念と化したあともそれは変わることはなかったはずだ、と。


 しかし、八枝子の強すぎる怨みが村中の怨念を——いくつもの想いを吸収することで、さらに大きくなり、分裂し、耐えられなくなった。

 最終的には、『怨みと我が子を想う気持ちを混同する、霊体の八枝子』と、『純粋な怨念の塊という肉体を持つ八枝子』に分裂した。


 監禁場と学校、亡くなった学生を襲ったのはおそらく霊体の八枝子。

 村に着く前に車を襲い、いまここで相対あいたいしていたのが肉体を持つ八枝子だ。


 この説明に、豪切と紫桜は理解した。

 斗南はまるで理解できなかったが、そうだったのかと受け入れるしかなかった。

 松宮は、そういうことだったのかと()()した。


 最後に桜紗は、『霊体の八枝子』を浄化したとは言ったが、完全ではなく、どこかに『思念の残りかす』がるだろうと言った。

 そして、「それは()()だったがな」と言って、したり顔をする。

 斗南と豪切は、そうなのか、と軽くうなづいているが、紫桜はバツが悪そうに、目をパチクリさせて顔を伏せた。

 松宮に至っては、呆気に取られてポカンと口を開けていた。

「? 分からなかったか? だから、思念の——」

「聞いてたし! 分かってるから二度も言うな」

 松宮の手厳しいツッコミに桜紗はガクリと膝をついた。

 え? え? と斗南と豪切は理解できないままだった。


 

 ——程なくして洋館を出た桜紗と紫桜は、八枝子を完全に祓うための儀式を行うべく、その広場で準備に取り掛かっていた。

「——ああ、背中の打撲と足を骨折している。おっさんだが、鍛えていて良かったよな。体の柔らかさも自慢してたし」

 加賀島の容態を伝えると、心配をしていた紫桜もほっと胸を撫で下ろした。

「とりあえず()()()はしておいたよ」



 研究部屋に残った三人は、再び八枝子の現れるのを待った。

「わたしはてっきり、松宮殿の言っていた穴掘りをしているものだとばかり……まあ、無事ならばよかったよ」

 こちらでも、ちょうど加賀島の安否についての話しを終えたところだった。


「それで、その穴から出た亡き骸は、本当に奴のものなのか?」

 確認する豪切に、「お兄さんが八枝子だと言っていたので間違いない」と松宮は説明し「そのせいで、だいぶ合流が遅くなってしまい、すまなかった。その巨大なはさみが無かったら、もっと時間がかかっていたろうな」と続けて、豪切が手にするワイヤーカッターを指差した。


「それは最も重要なことだ。こちらこそ、置いていってしまって悪かった」

「お兄さんに会えたしな、結果オーライだよ。いろいろ知れたし。そうそう、坊やな、斗南氏のお祖父おじいさんではなかったみたいだぞ」

 驚く二人に、坊やのことは全部終わった後にゆっくりと話すよ、と前置き、女が『八枝子』だったこと、村の医者が斗南の曽祖父だったことなど、これまでの経緯を簡潔に伝えた。


 ——話を聞き終えた豪切が「ではその昭僧という赤ん坊が祖父なんだな。ではいつ生まれたんだ?」と口にしたものの、すぐに「生まれることは間違いないのだから、考える必要はないか」と口を閉じた。

 そんな豪切に対し、松宮も「分からないことだらけだが、すべてを知るなんてことはできないよな」と同意を見せたが、「それでも、私はすべてを知りたいよ」と結んだ。


 そんな松宮の真剣な横顔を見て、豪切は心を揺さぶられる——「実は、わたしも知りたいことがある」


 そう言って豪切は研究部屋を出て、階段の下へ。そのまま目線だけを上に向けた。

「まさかこちらから動くのか? 何かあるのか?」しかし、口にはしないが、それは避けたい。松宮の本音だ。

 斗南もこの時、自分にも確認したいことがあると、心の中でつぶやいていた。


 『来るな』と言った。『行くな』とも言っていた。二階には、必ずなにかある。

 それを確かめたかった。

 思案顔の豪切は、どこか躊躇しているように見える。

 松宮はすぐに、私たちのせいか、と結論に至る。


「はぁ……豪切氏、何を考えてるかは知らないが、私だったら、知りたいことがあれば迷わず動くぞ」

 言葉で豪切の背中を押す。

「しかし、また二人を危険な目に——」豪切は言いかけたが「もうそれは言うな」松宮は遮った。


「松宮殿の知識欲は底なしだものな。それでも、命を落としたら意味がないじゃないか」

「意味はあるだろう。知ろうと努力したし、知ることができるかもしれない」

「だから、たとえ知ることができたとしても、命を落としたら同じだろう」

「同じじゃない。知らずに死ぬよりましだよ」

 二人が熱くなってきている。始まった、こんな時に。斗南は、言い合う二人を交互に見て青ざめる。


 あー言えば、こう言う。豪切は言うのをやめた。松宮と言い合っても勝てるわけがない「はー、世界中どこを探しても、そんな考えをするのは松宮殿だけだよ」と嫌味っぽく言うことしかできなかった。


 だが、「最高の褒め言葉じゃないか。たった一人、それって、()()()、ってことだろう」

 はあ? 世界一? あまりにも突拍子もない松宮の返しに、たまらず豪切は吹き出し、高らかに笑った。

「ぷふー、はは、あっはっはっはっは」


 命のかかったこんな状況だというのに、笑えるものなんだな——。

 最高だよ——。

「本当に最高だよ、愛美まなびは、さ」

 

 松宮もたまらず吹き出した。

「ぶーっ、下の名前で呼ぶな! 小っ恥ずかしい」

 二人は顔を見合わせて笑う。

 そんな二人を見て斗南は言う「なんか……、本当は仲がいいんですね」

「いいわけあるか」「そんなわけないだろう」

 斗南は二人に肩を殴られた。

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