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怨念遺伝  作者: FUJIHIROSHI
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第27話 桜紗

 周りを見回しても壁、壁、壁、なす術なく、見上げる天井からは砂と岩がところどころ落ち始めている。


 凍結、式神、どれも間に合わない。他の術を使用する時間はない。


 監禁場の崩落は止まらなかった。


 読みが甘かったか——桜紗は崩れる天井を見上げていた。

「こういう時はあっけないものだな。……これも運命さだめか。さざめ、しっかり頼むぞ」

 それから目を閉じて、

迴蒔えま、死ぬ前にもう一度、お前に会いたかったよ」

 と口の中で呟いた。

 その足元には砂埃に混じり白いモヤが垂れ込めていた——。



 外にいる五人の目の前で土蔵は完全に崩壊した。

「兄様!」豪切が声を荒げる。

「あああ、蔵が、倒れちゃいましたよ」斗南は慌てて足を踏み出すが、松宮がそれを制止した。


「まて、近づくな、まだ危険だ。蔵が倒れても、底が抜けたわけじゃない。お兄さんは無事だよ」

 落ち着いてから再び瓦礫を除くしかないと松宮は提案するが、全て話し終える前に土蔵はさらに音を立てて沈み込んだ。


 それはまさに地下の監禁場が埋まったことを表していた。


 その光景に、今度は松宮が悲痛な声で桜紗に呼びかけ、斗南とともに瓦礫の山と化した土蔵に上り、救出の手がかりを探す。


 豪切は呆然と立ち尽くしながらも、周囲を見渡す。

 ダウンジャケットや軍手はところどころ引き裂かれ、砂まみれになりながら瓦礫を取り除いている斗南と松宮。

 疲労困憊ひろうこんぱいの紫桜と、それを支える加賀島。

 

 彼らを見て豪切は、「しっかりしろ、さざめ」兄様なら確実にそう言う、と自らを鼓舞する。

「みな、行こう。ここで時間を潰すわけにはいかない」

 その瞳に光が戻る。


「でも、地下は完全に埋まってないかもしれない。そうなれば時間との勝負だぞ」

 眉尻を下げて、ズレる眼鏡を直しながら松宮は言った。見るからに冷静さを失っていた。


豪切は言う「我々だけでこの瓦礫を撤去することなど出来やしない。やらなければならないことはまだまだある。出来ることを——まずは、態勢を整えるんだ」


「同感です。みなさん、一度この村を出ましょう」加賀島が言い、自分に何かあった場合、村を出て女の過去を洗い直すとともに、態勢を立て直せ、と監禁場で桜紗に耳打ちされたことを伝えた。

 

 やむなく同意し、一同は来た道を戻った。


 監禁場の結界は崩落で効果を失ったはずだが、道中の闇の中に、八枝子の気配は現れなかった。

「豪切氏、お兄さんがあの女を……除霊したと言えばいいのか? その、祓ったんじゃないのか?」


 しかし村を覆う怨念の濃度に変化はなかった。桜紗が八枝子を完全に祓えたとは考えられず、豪切は松宮の淡い期待には応えられなかった。


 五人は車までの道を急ぐ。豪切が充電の切れかかったハンドランプを投げ捨て、懐中電灯を点けた。すでに他の四人も懐中電灯を使用していた。


 月を隠す厚い雲に覆われた空は、村を包む怨念と同化するように黒く、真っ白な吐く息も瞬時に闇に溶け込む。

 漆黒の山の中、五人の持つ照明の、白い光だけが激しく揺れていた。



 駐車している車までたどり着き、一同は黒のセダンに乗り込んだ。

 斗南は左に停まる桜紗の白いミニバンを一瞥いちべつして、隣に座る豪切に視線を移す。

 豪切は歯を食いしばっているように見える。その視線は目の前の運転席の背もたれにあったが、どこか遠くを見ているようだった。


 加賀島は急ぎ、車を後退させて転回する。

 車のヘッドライトの光に白いミニバンが照らされると、その車体には無数の黄土色の手形が残っていた。

 松宮は沈黙し、悲しげな表情でそのミニバンを見ていた。助手席の背もたれを掴む手に力を込めているのが分かる。

 

 車は来た道を戻り、山道を下っていく。

 紫桜は助手席に座るなり、意識を失うように眠りについていた。

 後部座席の三人はヘッドライトと軍手、ゴム手袋を外し携帯電話を手にして電波を確かめるが、未だ圏外だった。


「さざめ様、豪切と島の者たちに応援要請をしますか? 桜紗様の救助には重機も必要になるでしょう」

 加賀島が言った。

 一呼吸おいて「——うちの人間なら何かあればすぐにでも出張ってもらうようには言ってあるが、島の者たちでは早くても二日はかかる……」

 考えあぐねる豪切に、「生き埋めの場合、七十二時間が勝負だというぞ。お兄さんの言っていたように霊視で得た情報をもとにあの女のことを調べつつ救助の準備を整えるのが一番じゃないか?」

 松宮が斗南を挟み、覗き込むように豪切を見て言う。


 斗南は無言のままの豪切のうつむく横顔を見ていることしか出来ないでいた。

 

 意を決して豪切が顔を上げ「加賀島、松宮殿には悪いが、現時点でわたしは兄様の救助を考えてはいない。重機を使うならなおさら、これ以上無関係な人間を巻き込むわけにはいかない。島の者たちの合流も待ってはいられない」


 豪切は反論しようとする松宮を制し「兄様は今以上の危険な目に遭ったことだってある。こんなことは日常茶飯事だ。生きていれば自分でどうにかするさ」と言った。

 

 その手は震えている。豪切が耐えながらそう言っているのを見て、斗南はそれならば、紫桜が回復したあとに、あの場所を霊視して桜紗の安否を確認する、という考えも思いついたが、しかしそうすることで、もしも桜紗の死を霊視で視ることになってしまえばあまりに残酷だと、言葉を飲み込んだ。

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