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怨念遺伝  作者: FUJIHIROSHI
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第25話 隔離場

「しえ、今の霊視を選んだのは何故だ?」

「なにか……非常に心が惹きつけられました」

 桜紗は「ふむ」と少し間をおいて紫桜の身体を心配した。

 

「問題ありません。突然()()()()()()もので……少し驚いただけです」

 紫桜は言うが、豪切は彼女の限界が近いことを桜紗に耳打ちする。これには桜紗も同意した。

 紫桜は村全体を覆う、これまでにないストレスに激しく消耗していた。


 加賀島もそれは分かっていた。しかし自身はもちろんのこと、紫桜の桜紗に対する忠誠心を知っている。

 ここまでにも何度かその身を案じたが、彼女は首を縦に振らなかった。


 この周辺を調べ終えたら、一度この村を出ることも視野に入れて、一行はこの先の土蔵を調べるために診療所を後にした。



 紫桜を惹きつけた映像に出ていた十五歳の少女、彼女があの女なのだろうか? 

 そうでなければ紫桜が反応するわけはない、と桜紗は考えていた。

 

 松宮は「百五十七か……私たちが見たあの女は、もっと身長があったように見えたが、葛瑠璃八枝子って少し気になるよな、豪切氏」


「んー、確かにな。まあ、どちらにしろ霊体と本体の容姿は同一でないことはよくあることさ。獣の姿だったりもする」

 豪切の言ったすぐあとに桜紗が続けて言う。

「本体が片腕だとしても、霊体の見た目はしっかり腕があったり、ていうのもあるな」

 言って、思い出したように「そうそう、気になるといえば——」

 

 しかし、土蔵を目の前に言葉が詰まる。

 高さ七メートルほどの土蔵の前面が崩れ落ちていて入り口を埋めていた。

 

「まあ、手間だがやるしかないか。加賀島、頼むよ」

 桜紗の言葉に加賀島は承知しましたと、休ませている紫桜と松宮に土蔵の前面を照らすように指示し、その体躯を活かして瓦礫を取り除いていく。


 それに桜紗、斗南、豪切が加わる。

「一時半過ぎか。真夜中に重労働だな。ほらほら頑張れ男子。見せ所だぞ」

 松宮が斗南を急かしている。

「いや、力仕事はちょっと……でも寒気と眠気は吹っ飛びますね」

「眠気とは余裕だな。私はたえず緊張していて、眠気なんて起きやしないけどな」


「あ、桜紗さん、さっきなにか言いかけてましたよね。気になることが二つあるとも言ってましたけど」

 斗南は松宮の相手をやめて桜紗に話しを振った。

「ああ、そうだった——」

 

 桜紗の言う気になることとは、ここよりも、さらに少し山の上から地に沿って下りて来る、湿り気を帯びた重い空気のことだった。

 車を停めた辺りで、村の入り口とは反対の森の中からそれは下りて来ていたと言った。


 それを聞いた豪切は、無念の表情を浮かべながら黙々と作業をしている。

 自分にはそれを感じることが出来なかったからだ。


 正確には、この村全体がさまざまな怨念が集まり、混ざっているその真っ只中にいるため、少し歩くだけでまとわりつく空気は変わってしまう。

 そのため、圧迫感のある空気は感じてはいるものの、それぞれの違いや流れが分からなかった。


 兄の桜紗には遠く及ばない。

 豪切は自分の未熟さを痛感していた。



 深夜二時を過ぎる頃、ようやく人一人が屈んで通れるだけのスペースを確保することができた。

 一同は土蔵の中に入って行く。

 二十畳程のスペースは荒れ果てているだけで、やはり何一つ残されてはいない。壁は幅が広く厚みのありそうな縦長の板張りで、所々腐っていた。


 霊視を試みようとした紫桜に、斗南が待ったをかけた。

 斗南は崩れた正面側と真反対の壁の前に立ち、振り返り小さく言う。

「あの……崩れていて、はっきりしないんですが、この中、外からの見た目より少し狭くないですか?」


 ! その疑問に豪切が駆け出し、奥の壁に両手を当て、目を閉じる。「お手柄じゃないか、斗南殿」そう言いながら、壁に当てた両手に力を込める。

 厚い板で造られた壁が、ずりずりと音を立てて動き始めた。

 そういうことか、と桜紗、加賀島も豪切の後に続き三人は腕に力を込める。


 板張りの切れ目に沿って壁がずれ、回転窓のように壁の一部がぐるりと回る。

「回転扉か。まるで忍者屋敷——」


 おおおおおん——。


 松宮が言いかけた時、先ほどよりも近く、強く、あきらかに風の音ではない遠吠えに近い声が身体を震わせた。


「まただ。風の音じゃないよな? やっぱり⋯⋯声か」

 松宮はあきらかに緊張している。

「見ろ! さらに、地下があるようだぞ」

 豪切が気をそらすように声を上げた。

 壁の向こうは六畳ほどのスペースで、地下へ下りる階段がある。


 なにも加工されていない、ただ削られて造られただけの階段は左に大きく弧を描くように下り、その先は深い闇の中に落ち込んでいた。

 フロア二階分は下り、ようやく下に着くと直ぐに、通路は左に直角に折れ曲がり、十メートル程で突き当たっていた。周りの壁は掘られた岩面が剥き出しになっている。


 その通路に面した右側に三つの牢屋があった。その扉はすべて開かれている。

 狭く、酷い臭いが漂う。外よりも保存状態は良く、ほとんど当時のままではないだろうか。

 どの牢の中も無数の髪の毛と食器が散乱し、周りの壁には爪で引っ掻いたような痕が生々しく残っている。


「ここは監禁場か」言いながら、桜紗はその監禁場の四隅に逆さにした札を貼り付けていく。

 札は不思議に、脆い岩壁や、それが苔むしていようと関係なく貼りつき、ゆっくりと光を放ち始めた。

 それは徐々に明るさを増し、監禁場が照らし出されていく。

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